:確かに86のGRMNは特別なクルマです。だけど、ちゃんとトヨタのラインに乗せて作らなきゃいけない。それは絶対にそうしなきゃいけない。

 前にBMWの工場を見せてもらった時に、衝撃的なシーンに出会いました。Z4のラインを見ていたら、同じラインにZ4のレーシングカーが普通に流れて来るの。ホントにもう普通の顔して、シレーっとレーシングカーが流れてくる。

F:レーシングカーが普通のラインに……?

:そう。GT3マシンが。4000万~5000万円くらいで売られている、恐らくは市販車で最もレベルの高いカテゴリーのクルマです。それが量産ラインに混じって流れてくるんです。

 僕ら、思わずオーって声を上げましたよ。日本だとGT300で走っているようなクルマですよ。ちゃんとロールゲージも入っているヤツ。そんなのね、僕らの常識からはとても考えられない。あり得ない話です。

F:もちろんそれは特別に訓練された人が張り付いて、ラインの流れに添って作業するんですよね。いくらなんでも。

:いやいや。普通の人が作っています。抜き出して別にやったらおかしいだろうと、彼ら言うんです。そんなのはお客に対する裏切り行為じゃん、と。

 Z4のGT3と普通のZ4は同じラインで、同じ人間が作っていますよと。クルマのヒエラルキーが違ったって、同じクオリティで作っていますよ、それがBMWですよ、と。少し高いスポーツカーが売れるって、そういうことじゃない、と。

F:BMWはそんなことしてるんだ。知らなかった。

:凄いですよ彼ら。やりますよホント。だから高性能なクルマを作って、スペックで比較するだけじゃダメなんですよ。そんなことじゃ彼らのレベルには一生追いつけない。造り方まで含めて、企画から設計、製造から生産管理まで、本当にオールトヨタで取り組まないと、ヨーロッパの一流メーカーには追いつけないなと思いましたね。

F:なるほど。

「ちゃんと真実を書いてくださいよ!」

:ちょうどその時に豊田社長から、最初からトヨタで作ったらどうかと言われて、更にそのとき一緒にBMWの工場に行った人がここの工場長になって、「それじゃウチの工場でやってみようか?」と。

F:普通は嫌がりますよね。工場長というお立場上、イレギュラーな生産なんて受けたくないですよね。

:そりゃそうですよ。だって工場の稼働率が下がるんだもの。スバルさんからホワイトボディ持ってきて、100台だけイチから86を組みたいですけど……なんてシラフで頼みに行ったら、お前バカ言ってんじゃねぇよとどやされるのがオチですよ。

F:それじゃ一杯引っ掛けて行けばいいんだ(笑)

:よけいにダメだよ(笑)

F:それにしても、工場長はよく受けて下さいましたね。本来なら一番反対しそうな立場じゃないですか。

:でもね。トヨタの生産方式って、そういうことも全て含めて受け止めてクルマを造るということを最も大切にする精神なんです。出てくる課題に対してトコトン考える。考えて考えて考えぬく。そうすれば必ず答えが出るというのが一番大事なところなんです。

F:これまたメチャ意外です。今まで4歩で歩いていた所を、左足を引いて体を捻ったら3歩で行ける、それを1人が1日に100回やって、工場には作業者が1000人居るから積算すると10万アクションになって……と突き詰めていくのがトヨタの生産方式なのかと思っていました。

:あれはね、もう枝葉末節の事象をとらえて、面白おかしく伝わっているだけの話で、あれがメインじゃないんですよ。ぜんぜん違う。フェルさんみたいに発信力のある人が、そうやってまた茶化して書くとね、ああトヨタってそうなんだと思われちゃう。

F:ス、スミマセン……。