F:そんなに大変ですか。

:大変です。超大変。普通ではまったくあり得ない話です。最初に交渉に行った時、スバルさんが思わず「はぁ?」と言ったのも、それはもっともな話なんです。

F:でも86GRMNは全部で100台しか作らないのですよね。スバルで何万台も作っているのだから、文句を言わずに100台サクッと回してくれても良さそうなものですが。

:いやいや、100台も10万台でも同じですから。途中で抜き出して持ってくるというスキームを作らなければいけないのですから。極端に言うと、1台だって同じ手間がかかるんです。

F:ひゃあ。1台も1万台も同じ手間ですか。

:同じことですよ。スキームという意味では。関係する人や会社もたくさんある。だから大変なんですよ。スバルさんだって、だから「はぁ?」って言うんですよ。

野々村さん(以下、野):どうせ途中で抜いて持ってくるのなら、1万台作った方が本当は効率が良いじゃないですか。スキームを作るのであればね。でもGRMNは100台だけの限定車です。数としては非常にビミョーなところなんです。

溜め息名人の多田さんである。

F:だから1台あたり(ピー!)万円もするんですね。ちくしょう欲しいなぁ。有田くん。今からでも買えないの?

広報有田さん(以下、有):お陰様で即日完売いたしました。というか多田さん。そろそろお時間です。

:あ、良いよ良いよ。もうちょっとこっちに居るわ、俺。まだ話すことが有るし。

:いえあの……次のメディアの方がお待ちになっていてですね。多田さんの写真も撮りたいと言っていまして。後の話は野々村さんにお任せして……。

:待っててもらって。悪いけど。

:はぁ……

 スバルのエンジニアには「はぁ?」と言われ、トヨタの広報には「はぁ……」と言わせ。溜め息名人の多田さんである。

F:そうしたスキームの問題も有るのだろうけど。スバルのエンジニアとしてのプライドとか会社としてのフィロソフィーの違いという問題も有りますよね。

:そうそう。クルマを作る方としては、やはりね。だからトップダウンだけでは簡単に決まらないですよ。何度も何度もスバルさんに通って話をして、僕らの考えをお伝えして。

 それで徐々に糸がほぐれてきて。そうですか、本気なんですね。トヨタさんがそこまで言うのならやりますか、と。そこからやっと、それじゃどうやったら実現できるんだという話になっていく。やはり工程の途中に在るホワイトボディを、どうやってウチに持ってくるかが難しかった。

「僕ら、思わずオーって声を上げましたよ」

F:ホワイトボディですから、無塗装の状態で来るんですよね。塗装はこちらの元町工場で行うわけですか。

「100台って中途半端で…」と、当時の苦労を吐露する野々村さん。
「100台って中途半端で…」と、当時の苦労を吐露する野々村さん。

:はい。塗装は元町工場でやります。これがまた大変で。何しろ100台だけでしょう。数が中途半端なんです。これが1万台なら、工場の方も普通に頑張って作ろうやとなるんですが、100台だとどこかに割り込ませることになる。

 え?このクルマのために俺達のラインを止めるわけ?となっちゃうんです。今回は塗装検討ラインというのを使っているのですが、それにしたってクラウンの検討が止まっちゃう訳で。

F:なるほどそうか。トヨタはあくまでも量産メーカーだから、特殊なクルマを少量生産するという仕組みが出来ていないんだ。しかも工場は効率重視で、割り込む隙間やムダが無いと来ている。

:そう。ウチの工場は自慢じゃ無いけどムダがない。

F:そりゃもう世界一の高効率。

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