ご無沙汰しておりました、担当編集のYです。
このところ、フェルさんの原稿も高橋さんのあとがきも絶好調で、出たがりの私がしゃしゃり出るまでもない(本当は、連載月曜掲載維持のためにしゃしゃり出るヒマがない)……と思っていました。けれど、今回はもう仕方ない。なぜか。実は私、初代フォレスター(1997年発売「SF」系の「S/tb」のAT車)を所有していたことがあるんです。って、もう、20年以上前のことなのか、うっひゃー。
皆様にとっては何の役にも立たないお話ですが、本日は懐メロならぬ懐かしのクルマ話で一席、ご機嫌を伺わせていただきます。
97年当時に乗っていたのは、愛しの初代ロードスターを結婚を理由に手放して買い換えた、中古の「ブルーバードSSS」のハードトップ(8代目「U12型」系、発売は1987~91年)。センターピラーレス/サッシュレスのせいか、素人にも分かるくらいミシミシきしむボディが難点ながら、スタイルも走りもほどよく上質で、特に不満はありませんでした。だけど「どうしてもこれに乗りたい」というわけでもなかった。
このころ、いつも遊んでくれた先輩が、同じブルの「ツインカムターボ SSS ATTESA LIMITED」という、ターボエンジン×四駆というクルマに乗っていまして、色がしっぶい紺。しかもセダン。「地味なおっさんクルマ」と思って煽ってくる相手を、アクセルひと踏みであっというまにぶっちぎるのがなんとも痛快でした。高速道路では雨でも風でも路面に吸い付くように走り、小柄な車体もあいまって山道でも速い速い。こういう「地味なルックスにハイテク満載」は、今でもアリじゃないかなと思います。そういえば「SSS-R」という化け物もありましたっけ。
まあ、早い話がこれがうらやましくてたまらない。次に買うなら、ターボエンジンが欲しい。四駆もぜひ欲しい。スポーツタイプなら三菱GTOもあるのですが、ロードスターを売っておいて、2ドアを買うこともないだろう、と。
今振り返ると、このころの自分は「全部載せ」が欲しくなっていたのだと思います。欲しいスペックは一つ残らず入っていて、なおかつプラスワン、プラスツーはないものか。セダン/ワゴンならば、スバルのレガシィが順当な線。しかし、当時大ヒット中で「いまさら買えるか」とひねくれ心が邪魔をする。さりとて、先輩と同じクルマもイヤ。
と、ぐにぐに悩んでいたところに、ぽんと登場したのが初代「フォレスター」。
生来インドア派で、RV(当時はSUVという呼称はなかったかと)にはまったく目を向けていなかったけれど、たしかテレビのパブリシティ番組で見た、日本車では見たことがない異形と、インディアナポリスで当時の24時間世界速度記録(T-1クラス)を達成した映像(平均速度180.082km/h)、このギャップに、ぐっと心を掴まれました。

さっそく近くのディーラーに行ったら、すでに大人気で試乗が小1時間待ち。待ちきれずに遠方まで出かけ、試乗してほぼ即決しました。独身の時に買ったロードスターは頭金10万円、気合いの5年ローン(最初の数年はほとんど金利しか払っていない。経済メディア記者にあるまじき失態)で買いましたが、今回は堅実な奥様が現金一括で買ってくれました。漢らしい! ちなみにブル君は、社内診療所でお世話になっていた女医さんが、「息子が免許取りたてだからちょうどいいわ」と、レカロシート込み30万円で引き取ってくださいました。

見た目では、ボクシーで窓が大きく見える、快活かつ生真面目なデザインと、リアの小さなライトが外国車風だと気に入っておりました。マイナーチェンジで大型化しちゃいますが。
全高が抑えめ(1595mm)とはいえ、立体駐車場に入れないところが多かった(当時)のが驚きでした。その分、高い視点はなかなか新鮮。ターボ×四駆は期待通り、めっちゃ速くてどしっと落ち着いていて大満足。一方、ハンドリングは今思うとけっこうデッドだったように思えます。きびきび走る感じでもなく、足回りもどこかぼんやりしているな……と思いつつ、珍しく林道を走った時に、オフロードだとすごく楽に速く走れるので「ああ、もしかしてこういう時のためにちょっとダルに作ってあるのか?」と驚きました。奥様にも全般に好評でしたが、燃費が悪いのと、なんとも愛想がないインテリア、シートが平板かつツルツルで「お尻が滑る!」という点が不満として挙げておられました。
大きなトラブルも経験せず、増えた家族と一緒にあちこち走り回ってくれました。荷室も大きいので、高速を使ってスキーに行くには最適でしたね。ファミリーカーとして8年間、とてもよく尽くしてくれました。
平均点の高い、いいクルマの次は難しい!
2005年、そろそろ買い換えようかという段になって「全部載せ」を選んだツケが私を困らせることになります。ターボ×四駆で広くて、という、フォレスターをスペックで超えるクルマを見つけるのは至難の業。同じ方向だと上級SUVとなり、代わり映えがしない。じゃあ、一体何が自分の欲しいものなのか? こうなったら、手当たり次第にディーラーを回ってみよう、と、ジャーマンスリーから国産各社まで毎週末、奥様の許可のもと次から次へと乗りまくる、今考えると夢のような日が続き、クルマについてめっさ考える機会となったのでした。フォレスターの平均点の高さゆえに、よっぽど真剣に考えないと次が選べなかった、ということでしょうか。
スペック面では「ないものはない」、手頃なサイズ、新鮮なスタイルに親しみやすい(ある意味無骨な)デザイン、走行性能は高いのに乗り手や乗客に優しい、よくできたクルマだったと思います。ひねくれて選んだつもりでしたが、今考えるとヒットしたのも当然でした。とはいえ、富士重工、おっとSUBARUの基幹車種になって、アメリカで売れまくるビッグネームにまでなるとは。
もう機会は少なくなりましたが、路上でグリーンの初代を見かけるとつい目で追ってしまいます。平均点の高さで愛されて、もしかしたら、どこかでまだ走っていますかねえ。
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