:ええ、確かに漠然としています。そのときに気付いたのは、お客様がクルマを選ばれる理由は、「機能」というよりは、そのクルマと自分のライフスタイルとの結び付きである、ということです。それが分かって、「LOVE」という言葉を2008年から使い出したんです。

 2008年以前から「ともかくSUBARUが好きだ」というお客様がいらして、我々は単にそれを言葉にしただけなんです。申し上げたいのは、LOVEというキーワードを、どこかのマーケティング会社が「SUBARUさん、今度はこの言葉がいいんじゃないですか」みたいに言ってきて、それに乗っかったということでは決してないということです。

F:なるほど。いや、いますごくドキッとしました。実は私、いま日月さんがおっしゃった通り、どこか気の利いた広告代理店が賢い提案を出してきて、それに乗って大当たりしたとばかり思っていたんです。

:それは明確に違います。フェルさんが文に書くときに、そういう話であればとてもキャッチーで面白いと思うのですが、残念ながらそうではない(笑)。基本は、お客様が言ってくれた気持ちを、我々はそのままマーケティングに使いました、ということなんです。

F:機能ではない。ともかく好き、と。

:たくさんのSUBARUオーナーにヒアリングを実施しました。何でSUBARUなんかに乗っているんですか。そんなにシェアは大きくないしそれほど高級でもない。しかも最近(調査を実施した2006年頃)はそんなに売れてもいないのに(苦笑)。我々としては、四駆だから乗る、ウチの近所の大変な雪道を行けるのはこのクルマしかない、だから買ったとか、そういう答えを期待して、また想像していたんです。

 でも違った。「アイ・ラブ・マイ・SUBARU」だと。それを多くのお客様が異口同音に言う。そうしたら我々も、ああ、そうなんだと思うしかない。それじゃこの「LOVE」という言葉を自分たちとお客様との間のやりとりに使おうじゃないかと。

F:実際にLOVEキャンペーンを仕掛けたのは何という会社なんですか?

:アメリカのクリエーティブ会社、カーマイケル・リンチというところです。

F:有名な会社なんですか。P&Gのオムツの宣伝をやっているとか、それくらいの会社なんですか?

:それは分かりません。私はあんまりよその会社を気にしたことがないですから。アメリカって10年も同じ広告代理店、クリエーティブ会社を使うことは稀なんですが、ウチはここのところずっと使っています。

F:10年間同じ会社を……。そう言えば今年はSUBARUがアメリカに上陸してちょうど50年という節目の年に当たると聞いています。

スバル360から半世紀

:そうですね。1968年に「スバル360」をこちらに持ってきたときは、小さくて狭くて遅くてアメリカのフリーウエーの合流にも乗れなくて、『コンシューマー・リポート』にも、こんな危険なクルマはない、「受け入れ難い」とまで書かれちゃって……もうまったく売れなかった。最初は当時の富士重工の判断というよりも、アメリカ人のビジネスマンが、「何か安い輸入車を売れば儲かるんじゃないか」的な思いでやったということですね。

F:最初は散々だった。

:もう散々な思いをした。その後、日本で言うレオーネの時代。昔は日本で「自家用」という白いステッカーをボディの横に貼っていたのがあったでしょう。4ナンバーのバン。あれのAWDをこっちでワゴンという形で売ったんです。

F:日本では四駆の商用車を。

:日本では東北地方とか北海道で本当に商用車として売っていたクルマをこっちに持ってきた。そうしたらこれはアウトドアアクティビティに使えるじゃないかと。我々の感覚としては、「実用的に雪道を上れて、物を運べますよ」だったのですが、アメリカ人の感覚だと、これはスキーみたいなアウトドアスポーツに一番便利なクルマじゃないかと。それが1978年ぐらいからですかね。その後、当時のUSスキーチームのスポンサーをして、クルマを提供したりして。認知を広げていきました。

インタビューはオートショー会場の会議室で行われた。
インタビューはオートショー会場の会議室で行われた。

F:あー! 覚えています。USAカラーのサポートカー。K2の板を履いた、フィル・メーア、スティーブ・メーア兄弟。

:詳しいですね(笑)。それでずっとやってきて、それなりにスノーベルトで売れていたんです。そのときは、北米で20万台ぐらい売ったんですよ。

F:なるほど。第一次黄金期。

:そう、それが1980年代の半ばにプラザ合意があって、円がガーンと高くなって。さらにアメリカでブロンコとかブレイザーとかのピックアップベースのSUVが出てきて、一気に墜落してしまった……。

F:AWDのステーションワゴンとブロンコ等のSUVは、だいぶニュアンスが異なるクルマですよね。実際はどちらが雪に強いのですか?

:これは状況によりますね。レオーネの方が全然軽いですから、ライトスノーのところだとこちらの方が強い。重いクルマだとグッと埋まっちゃいますから。タイヤによっても全然変わります。それにしても当時、数としてはブロンコ、ブレイザーめちゃくちゃ売れました。ウチなんかよりも何倍も売れた。

F:レオーネの何倍も売れた。

:ええ。でもある層には、「いや、あんなものまで俺は必要ない」という人がいたんです。

F:それはどのような人達でしょう。

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