読者諸兄もご存知の通り、86(ハチロク)はトヨタとスバルとの共同開発である。生産は全てスバルの工場で行われ、ほんの少し違う顔つきと、ほんの少し違う足の味付けの車両が、トヨタ向けには86として、そしてスバルではBRZとして出荷されている。

 中身が同じクルマを、他社ブランドで販売するのはこの業界では珍しい事ではない。86GRMNが“珍しい”のは、スバルで組み上げたノーマルのエンジンを持ち出してトヨタテクノクラフトで専用チューンを施しリビルドしていること。そして同じようにスバルで組んだホワイトボディをトヨタの元町工場に持ち込んで補強を施し、塗装工程から車両の組み立てまでを行っていること、だ。

 製造工程の途中で品物をブッコ抜いて他社の工場へ移す。これは極めて異例なことなのだ。

エンジンフード、トランクリッド、ルーフパネルはCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics:炭素繊維強化プラスチック)で出来ている。驚くべきことに、それらは全て工場内の一角で内製されているのだ。
カーボンルーフの取り付けも完全手作業。グルーガンで接着剤を塗りつけて……。
接着剤が乾く前に二人がかりで手早くサッと載せる。
接着剤は、はみ出るくらいに多目に塗るのがコツだそうだ。はみ出た分は丁寧に手作業で取り除く。赤黒の大きな洗濯バサミは、接着剤が固化するまで押さえ付けておくバイスである。

 今回のインタビューは、その辺りの背景を伺っていこう。

「(ピー!)万円で売っても利益は出ない」「へ?」

F:巷ではこの86GRMNを1台売る毎に、トヨタは何百万円もソンをしていると囁かれています。300万とか400万とか言う人もいれば、いやいや千万単位だろという話も聞いたことがあります。実際のところはどうなのでしょう。

「このクルマは、ソンとか得とかそういう細かい理屈で出来ているクルマではないので」と話す多田哲哉さん。

多田さん(以下、多):これは書いてもらっては困るのだけど、(ピー!)万円で売っても利益は出ないという感じですね。

F:へ?

:いや、だから(ピー!)万円。

F:あうあうあうあう……あががはずでだ(顎が外れた)。

:金額計算をしろと言われたら、それくらいは楽にいっちゃいますね。でもこれ、ソンとか得とかそういう細かい理屈で出来ているクルマではないので。

  GRMN は、今からちょうど10年前に、iQとかヴィッツとかいろいろなクルマで造り始めた訳です。章男社長がニュルブルクリンクのチャレンジを始めて、レースシーンで鍛え抜いた味を皆さんにもお伝えしたい、ということで。

レクサスLFAを組み上げた匠軍団が、86GRMNを1日2台のペースで、文字通り”手作り“している。繰り返すが、これで648万円はスタバのお正月パックよりもお得である。

F:ありましたね。iQのGRMN。でもあれ、レースシーンがどうとかいうイメージではありませんでした。

:うん。何台かGRMNでクルマを出したんだけど、実際にレースを戦ったクルマとは違いました。サーキットで戦った人たちがチューニングにかかわっているとか、人とクルマの繋がりは有るのだけれども、クルマ自体はまぁ、レースと直接の関わりは有りませんでした。

 再度LFA(レクサスのブランドで発売した560馬力の国産超弩級スーパーカー。世界限定500台。お値段たったの3750万円。先日環八の中古屋で8000万の値が付いていたが、売れたのだろうか)を売るわけにもいかないし、GRMNというブランドと実車にはギャップがあったんです。

 で、時を経て86が発売されて、ニュルへの参戦も始めて、クラス優勝もして。お、このクルマでGRMNを造れば、まさにその直系の味をお客さんにお届けできるじゃないかと。だから最初の企画は、レースを走ったクルマに限りなく近い、というものでした。