フェル大喜び! フレームくるりと一回転

TMT:まあ打刻の話はともかく……これは面白いでしょう。こうしたフレームを用いたクルマは、裏返しにして足回りを上から組み付けていくんです。作業者が下に潜り込まなくても良いので、安全でスピーディで作業者の負担も少なくて済むんです。重い板バネも、こうして上から載せるだけでいい。フェルさんが今まで見学に行ったモノコックのクルマの工場は、大抵下に潜り込んで作業していたでしょう?

ボディを載せるまでは、フレームが逆さまで作業が進められる。
ボディを載せるまでは、フレームが逆さまで作業が進められる。

F:確かに。そうでしたね。

TMT:足回りが組み上がったら、くるっと180度回転させて、それからボディを載っける、というわけです。

F:すごいすごい。面白い。これはすごい。

TMT:そんなに喜んでもらえると嬉しいのですが、これ、小型トラックの世界では常識です。トラックはたいていこうして造っています。

F:すごいなー! すごいすごい! おー回った回った。すげー!

TMT:(ダメですよこの人、話聞いてない)(小学生の見学と一緒ですね)(静かになるまでしばらく放っときましょう)(時間通りに終わらんな、こりゃ)

フェルが大騒ぎした180度反転の風景。動画でどうぞ

TMT:そして荷台の架装です。上からスッとまっすぐに下りてきているように見えますが、ご覧の通りキャビンの後部が少し下がすぼむように斜めになっていますよね。だから上からストンとまっすぐに下ろしたのでは上手くはまらない。下ろしながら、ほんの少し前にずらして一発でピシッと決めなければいけないんです。

F:へー。

TMT:実はここが一番本社とモメたところです。フェルさんの前の原稿(「世界でイッキにビシッとなんてムリですよ」)で、世界中の工場から各国のエンジニアが集まってきて、いろんな言葉でギャンギャンやり合う、という話があったでしょう? あれ、実はウチのことなんです(笑)。日本のように最新の生産設備が揃っているわけじゃないんだから、そんな乗用車みたいな凝ったデザインはやめてくれと。

キャビン後端が下すぼみになっているのがお分かりいただけようか。あれが曲者なのだ。
キャビン後端が下すぼみになっているのがお分かりいただけようか。あれが曲者なのだ。

F:キャビンの後部がまっすぐになれば、もっとラクに組み立てられるのですか?

TMT:ああもう上からストンと落とすだけで楽勝です。ぜんぜんラクになります。でも設計の方も、そこは譲れない、と。

F:こっちは「設計の奴ら、組み立てのことをぜんぜん分かってない!」と憤慨して……。

TMT:向こうは向こうで、恐らく「工場の奴ら、デザインのことをぜんぜん分かってないな!」と怒っていたと思います(笑)。でもまあここは我々が頑張って、オリジナルのデザインを尊重しました。見てくださいほら。最後にスッと前に出るでしょう。あれを調整するのに、どんなに苦労したことか……。

現場の涙と汗と努力の結晶である、「最後のチョイずらし」。作業員の彼は超ベテランで、日本人社員のみなさんが「上手いなぁ彼は。超一流ですよ」と感嘆しておられました。

1年後には日本向け専用の工程をなくします!

F:タイの人たちと仕事をするのはどういう感じですか?

TMT:とてもやりやすいです。僕らが何か新しい仕事、例えばCO2の削減に取り組もう、なんて時でも、彼らは脇目も振らずにガッと取り組んでくれるんですよ。これが北米へ行くと、何でだ、何でだ、何でだ、何でそんなことするんだ、と言っているうちに1年経っちゃうので(苦笑)。

F:なぜなぜなぜ? のなぜ5回は、トヨタのあるべき姿なのでは?(笑)

TMT:それはちょっとニュアンスが違います(苦笑)。「タッチレス・サプライ」という、重力を利用して台車から荷物が自重で所定の場所にセットされる仕組み。これもタイのカイゼンから出たものです。日本では「カラクリ」という形で展開していますが、実はあれ、タイの工場から生まれたものです。そうしたセンスもこちらの人はありますね。真面目で勤勉でよく働きます。とても一緒に働きやすい。

こんな大変な取材になるとは思わず、フェルマスクも持っていかなかったのだが、工場を回って会議室に戻ってきたら、「これで写真を撮りましょう」となんと即製フェルマスクが! この現場対応力を見よ!
こんな大変な取材になるとは思わず、フェルマスクも持っていかなかったのだが、工場を回って会議室に戻ってきたら、「これで写真を撮りましょう」となんと即製フェルマスクが! この現場対応力を見よ!

F:最後にひとつ。日本向け車両の特別検査工程、あれはいつなくせるのですか。いつまでにやめるという目標があれば教えてください。

TMT:1年後です。

F:1年! わりとすぐですね……。ハイラックスと同じプラットフォームで造っているクルマもありますよね。これは日本で売らないのですか?

TMT:それは何とも……本社サイドが決めることですから……。

F:ピックアップのハイラックスがこれだけ人気なのですから、日本で売ったら、すごい人気になりますよ。

TMT:……。

今まで何でもハキハキとお答えくださっていたTMT諸侯が急に歯切れ悪くなってしまった。

 TMTのみなさま、大変お世話になりました。ありがとうございました。

 想定外に長期に亘ったハイラックス編もこれでおしまい(僕、何本ハイラックスの後ヨタを書いたのか、もう分からなくなりました……:AD高橋)、来週からはニューヨークで取材をしてきたフォレスターを中心としたスバル大特集をお届けします。しかし何とも間の悪い。フォレスターの国内販売開始にあわせてタイミングを図っていたら、悪い話が出るわ出るわ……。

 私としても、スバルの一連の不祥事に目を瞑って書き進める気はさらさらないので、株主総会後に「然るべき方」にインタビューをお願いしようと思っています。ということでマイトのYさん。スバルさんとの交渉を始めてください。相手が断ってきたら、それをそのまま書きましょう(←何かっこつけてるんですか。ほんとはあなたがモタモタしているから、こんなタイミングになったのに?!:Y)。

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