TMT:タイの技能レベルならできますが、全世界の工場どこで造っても再現可能かと言えば、残念ながらそうではありません。人材育成の差がやっぱり出てくるので。ここを見てください。ここは日本向けのクルマを抜き出して検査しているところです。こうやって細部まで検査して、塗装ムラがあるところを見つけたら磨きに出します。

「将来的にはなくしていきたい」という日本向け製品の検査ブース。特別に技能の高い選び抜かれたスタッフが、目で見て手で触れ五感をフルに働かせて確認している。

F:この工程をなくしていきたいのですね。

TMT:はい、ゆくゆくはこの工程をなくしたいです。

 こちらは白ボケをなくすための工程の練習です。この秤の上で一定の重さでバフをかけると、バフの上に描かれた模様が止まって見えるんです。正しい圧力、正しい回転数の中に収まらないと、この模様が斑に見えてしまうんですね。ここで何回も何回も練習して、正しいバフがけの技能を高めていくのです。

バフがけの練習台。適正な圧力(1.5キロから2.5キロ)と回転数で、ピタッと模様が止まって見える。蛍光灯が点滅する周波数とシンクロするのだろう。繰り返し繰り返し練習する。

F:やはり練習は必要なものですか。

TMT:練習は必要ですね。新しく配属された人はもちろんのこと、ラインの人間も感覚を磨くために定期的に練習しています。この秤式のバフがけ練習台もそうですが、スプレーを吹く作業でもトレーニングをしています。塗料の代わりに水を使って、均一に塗装する練習をするのです。これは月イチのペースでおこなっています。日本の工場では全てロボットが塗装していますが、タイの工場では、まだ設備がそこまで整っていないので手塗りをしている部分があるんです。そこでこの繰り返しの練習が必要になるのです。

トヨタはクレームすら“使いこなして”いく

 熟練工になっても、月イチのトレーニングは欠かさない。鍛えて鍛えて鍛え抜く。かくしてトヨタは強くなる。

 前回の記事には、トヨタのこうした細かな「見た目」へのこだわりに対して、意味がないのではというコメントが多く寄せられた(反論もたくさんありました)が、考えてみれば、天下のトヨタがそんなヌルい凝り方をするはずがない。細かいクレームは、品質を上げ、工場を鍛える材料として利用し尽くしているのである。

TMT:それでは組立ラインに行きましょう。

F:おー! たくさんフレームが並んでいますね。これもこの工場内で造っているのですか?

架装される前のフレームがずらりと並んでいる。日野自動車の系列会社から納入されるそうだ。

TMT:いえ。こちらは日野さんの系列のメーカーさんから納入していただいています。よく見ると、フレームひとつひとつに車台番号が打刻してあるでしょう。打刻は自動車メーカーでやらないといけないという取り決めがありまして、これは日本の法規に則って造ったボディであると。打刻の管理をトヨタとしてやらないといけないわけです。それでわざわざそのメーカーさんに出かけて打刻して……。

F:それは日本向けのクルマだけで? タイの国内向けには必要ない?

TMT:必要ありません。日本向けだけですね。毎日ウチの社員が出張して、カンカンと打刻しています。日本で売る限りは、ちゃんと車台番号を打刻してねというのと、転写も取っておいてね、という取り決めがあるので。

F:その工場で打刻しても、どこで打刻しても、クルマとしての価値は何も変わりませんよね。

TMT:クルマとしての、純粋な商品としての付加価値という意味では、打刻の意味はありません。日本ではご存じのようにモノコック車がほとんどです。モノコックのボディは、やっぱり社内で打刻しています。ハイラックスはフレーム車なものですからフレームに打刻をしないといかん。タイトヨタはフレームアッシーが仕入れ先さんなものですから、そこに出張して打刻しなければいけない、ということなんです。

F:面倒くさいなぁ。なんだか意味がよく分かりませんね。日野さんに「代わりに打刻しておいて、コピーも取っておいてよ」じゃダメなんですか。

TMT:ダメです。それが国交省との取り決めなので。いままで120カ国に輸出していて、日野さんに出かけて我々が打刻するのは初めてですが(笑)。よその国に出す分は、すべて日野さんにやってもらっています。よその国でも車両識別番号を打刻しているんですけれど、日本輸出だけはウチがやらないといけないんです。

これが問題の車台番号の打刻。日本向けのクルマに用いるフレームには、サプライヤーの工場にトヨタの社員がわざわざ出向いて打刻しなければならないのだ。

 こういうのはやはり「お役所仕事」というのではなかろうか。

 妙な規則に縛られて、日本向けの僅かな台数のためにトヨタの社員が毎日サプライヤーに出張(出向ではない)させられているのだ。あームダムダ。

 ちなみにハイラックスを構成する部品の現地調達率は95%。
 現地調達だから「現調」と呼ぶ。
 日本から調達する部品は、ECUや電子部品を中心に5%。
 日本から持ってくるので「日調」と呼ぶそうだ。

 意外なことに、ボルトやナット等も日調だ。「ほかのクルマも全部共通の部品を使っているので、やっぱり日本で造って持ってきた方が安いので」とのことだった。なるほど。