今回も、タイトヨタはバンポー工場の皆様のご発言は「TMT」でまとめさせていただく。インタビュアーの能力不足故、ご容赦いただきたい。

 さあさあ、トヨタ印のキャップを被り、安全靴に履き替えて、いよいよ工場見学に出発である。まずは日本のディーラー諸侯から散々なダメ出しを受けて、徹底的に見直しを図った(前回参照、「『これじゃ日本で売れない』と100カ所ダメ出し」)塗装工程から見ていこう。

 と、事務所棟から塗装ショップへ向かう階段室の壁面に、「SCORE 99.89%」と大書されたパネルが貼ってある。

F:あれ、あの数字は何を表しているのですか。ラインの良品率とかそういうものですか?

TMT:いえいえ。あれは手すりに手をかけて上り下りする人の割合を表しています。この工場では、安全のために全ての階段で手すり使用がルールになっているのです。お恥ずかしい数字ですが、まだ0.11%の人がそれを守っていない、ということですね。

F:なるほど、手すり使用率。確かデュポンもものすごく厳しくて、あそこの社員は会社の外でも手すりを使うことが義務づけられていると聞いたことがあります。駅の階段で手すりを使って上り下りしているビジネスマンがいたら、デュポンの社員だと思え、と(笑)。

TMT:ええ、デュポンさんも安全管理を非常に厳しくやっていらっしゃるという話ですね。階段の上り下りって、一見些細なことに見えますけど、工場ではこうした細かい積み重ねがとても大事なんです。「階段くらい楽勝」とか、「俺は運動神経が良いから大丈夫」という慢心の積み重ねが、いつか重大事故を招くんです。我々はそう考えています。

 階段を下りてカートに乗る。広大な工場内の移動は効率的にカートでおこなっている。塗装ショップに入る前に、防塵服に着替え防塵キャップを被る。さらにエアシャワーを浴びて、体に付着した埃を吹き飛ばす。

エアシャワーを浴びて、いよいよ塗装ショップへ。

F:こちらに移動する前に、実際に日本で散々なダメ出しを食らった実車を見せていただきました。素人にはパッと見どこが悪いのか分からないような仕上がりでしたが、それでも気になる人は気になってしまう。やはり日本のお客さんは世界的に見て「特殊」と言えるのでしょうか。

TMT:私は北米に長くおりましたが、向こうでは塗装でクレームがつくことはまずありませんでしたね。

F:北米はあまりうるさくない。ヨーロッパはどうですか?

TMT:ヨーロッパも塗装に関してはそんなにうるさくないです。外観にうるさいのは……。うるさいと言うと言葉が悪いですが、外観に厳しいのは日本と中近東です。

F:意外です。中近東も外観に厳しいのですか。

TMT:アラブ諸国は厳しいです。やっぱり向こうの方はフェラーリ等と並べて置かれるので、どうしても厳しくなる。まあフェラーリよりもウチの塗装の方が絶対に良いと思うんですが(笑)。

外観の品質にこだわる意味ってあるんですか?

F:クルマが美しく仕上がることは実にめでたいと思うのですが、塗装をそこまで磨き上げていくのが、それほど価値があるものなのでしょうか。そこまでの品質が果たして本当に必要なのかな、と。そのために無駄な工程が増えて、結果的にコストが増大して、販売価格にもそれが転嫁されて、ひいては競争力の低下にも繋がる……と、そんなことにならないでしょうか。

TMT:それは違います。100カ所のダメ出しをされたと言いましたが、実はその1つひとつを直すのは、そんなに手がかかる話じゃないんです。例えば荷台のシーラーの作業。あれもしっかり「こうするのが正しいんだよ」というレベルを教えて、それを訓練していけば、じきに収まることなんです。

F:じきに収まる。なるほど。

TMT:塗装に関しては、いまのところ日本向けにいくつか工程を増やしていますが、それもいつかは必ず通常の工程で吸収できるようにしていきます。我々の工場は、常に進化を続けていますので。

F:なるほど。いつかは普通の工程に吸収できる。

TMT:そうは言っても、現段階では、まだまだ日本向けにいくつか特別な工程を設定せざるを得ない状況です。あの工程をなくしていきたい。いや、なくします。あれをなくせるということは、タイで普通に造っているクルマのレベルが、全部日本並みになるということですから。そうしたカイゼンは、原価に関係なくできるところがいっぱいあるんです。現場が技能向上することで良くなること、有り体に言えば「タダで良くできること」はまだまだたくさんあるはずです。

F:なるほど。創意と工夫とトレーニングで、タダで良くしちゃう。

TMT:塗装だけじゃありませんよ。プレスも同じです。型の維持だとかメンテナンスをしっかりやれば、うんと良い品物が普通に出てくるようになる。製造業は、キチンとやれば必ず結果に繋がるんです。

F:プレス工程は型が全てなんじゃないのですか。はじめの型さえ良くできていれば、誰がどこでやっても同じ物ができるのかと思っていました。

TMT:それも違いますね。さっき見ていただいた、先端がシワになってNGを食らった部分。あれなんかはプレスをやる人間の上手い下手がモロに出る部分です。プレスだって、やっぱり最後は人がオペレーションをするものですから。

F:いま日本にある最先端の生産設備を、海外にそっくりそのまま移設しても、同じレベルのクルマは再現できない、ということですか。