「異動時期がリーマンと重なってしまって…」
F:ちなみにレーシング部門にはいつ異動されたのですか。

野:2008年です。
F:え?するとリーマンショックのタイミングで……。
野:そうなんです。希望部署に異動した時が、まさにリーマンの時と重なってしまって。
開発をする分にはおカネを出してくれるけれども、とてもじゃないけどレースには出場できない、レースって本当におカネが掛かるんです。
部署全体が悶々としていましたね。俺たちは一体何をやっているんだろう、って。しかもそれを誰にも話すことができない。レース車両の開発は秘密の塊だから、親や彼女はもちろんのこと、会社の同期にだって話せない。
F:何しろ天下のトヨタが赤字を計上した時期ですからね。同じ会社の人にも、「あいつらこの大変な時に何やってんだ」と言われかねない。レースは基本コストセクターだから。
野:まさに。そうした悶々とした状態が4年間も続いて。
多:ハチロクだってそうですよ。開発を始めたのが2007年で、号令一下「行けー!」となって、翌年には「あらー」と(苦笑)。お前ら(台数の見込めない)スポーツカーなんかやっている場合かと。
野:ただ僕らの方は、すぐにレースに出場できない状況になったのは却って良かったのかも知れません。トヨタとしても、ハイブリッドのレースカーとしてル・マンに出せるような実力はまだ持っていなかったので。
結果的に4年間ジックリ開発して、2012年に初参戦して。とても良いポジションにつけていたんですけど、フェラーリにぶつけられて、こう、ガシャッと。

F:周回遅れのアマチュアが運転するフェラーリと接触したんですよね。クルッと宙を舞って、あれは本当にヤバかった。
野:そうですそうです。よくご存知ですね。
※2012年のル・マン。トヨタはTS030 HYBRID 8号車をドライブしていたアンソニー・デビッドソンが、ミュルサンヌストレートの終わりのコーナー進入で、カテゴリー違いのフェラーリ458と接触。マシンは宙を舞って1回転し、タイヤバリアに激しく衝突、リタイアとなった。
F:私、そのときAUDIの取材で現場にいたんです。だからすごく鮮明に覚えています。ちょうどメディアルームでモニターを見ていて、みんながウワーッって総立ちになって。
野:僕はその時サポートエンジニアで、トラックの中でモニターと睨めっこです。すると突然8号車のデータがスーッと直線になって。人が死ぬ時の心電図と同じです。ピコピコしていたのがスーッと直線に。えぇ?なんで?と思ってフィールドを見たら大騒ぎになっていて……。
F:うわぁ、リアル……。
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