全国のヨタ話ファンのみなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
本日も明るく楽しく自動車産業とは何の関係も無いヨタ話から参りましょう。
私はトライアスロンを7年ほどやっているのですが、実は極端な練習嫌いでありまして、他の選手と比較すると練習時間は多く見ても4分の1以下。自主トレなんかまったくあり得ませんで、誰かと一緒じゃないととても走る気にはなりません。
そんなナマケモノの私にピッタリなのが“合宿”であります。泊まり込みの練習会に出かければ、自分でダラダラ走るより何倍も濃い内容のメニューをこなせるのであります。
こちらは山本淳一コーチ率いるAthlete Worksの館山強化合宿。マジ死にました。
写真手前のお嬢さん方は、東京女子体育大学のトライアスロン部所属の選手です。みなさん本当に倒れるまで追い込むんですよ。強くなるにはこれくらいやらなくちゃダメなんだなぁ…..いや、良い刺激を頂きました。
館山にはレクサスのLXで向かいました。夕焼け時に海岸に出たら、カタログ写真のような良い絵が撮れました。
レクサスが「SUVにおけるラグジュアリーの究極をついに具現化」と大見得を切るだけのことは有って、それはそれは素晴らしい乗り心地でした。それにしても何と押し出しの強い顔をしていることでしょう。
合宿が終わったら新宿へ急行。ホリエモンと浜田寿人氏が結成したWAGYUMAFIA主催の和牛イベントに顔を出して来ました。プロスノーボーダーのゴッチ氏、アルピニストの栗城史多氏と。
尾崎牛と築地より直送された日本の魚貝に日本酒をペアリング。疲れた身体に最高のプロテイン補給となりました。美味しかった。
所変わってこちらは横浜スタジアム。横浜vs.広島の試合を見に行きました。
「カープ カープ カープ 広島カープ」と所謂ラッキー7で風船を放っての応援歌斉唱。カープの歌くらい練習してくれば良かった。ちなみに広島県民は全員がこの歌を歌えるそうです。
この日は6対1といいように横浜にボコられましたが、快適な気温の中、何杯もビールを飲んで実に楽しい時間を過ごしました。ハマスタにはちょいとした縁が出来ましたので、今年はあと何回かこちらに通うことになるでしょう。
こちらは週刊エコノミストの書評欄。何と気鋭の経営学者、一橋大学の楠木建教授が、拙著「
仕事がうまくいく7つの鉄則」を取り上げてくださいました。
雲上人の偉い先生に褒めて頂き恐悦至極であります。え?まだ読んでおられない?そりゃマズいですよ奥様。お買い求めはこちらから。
こちらはフェル初出の自動車雑誌NAVICARS。適当に喋ったことをバシッとした記事に仕上げていただいて感謝です。
今号はクルマの買い方特集で、様々なローンの組み方やら個人リースの仕組みやらの記事が並ぶ中、「ローンはアカンで」と特集の趣旨とは正反対なことを話してしまいました。相変わらず空気が読めなくて申し訳ないです。
ということでボチボチ本編へと参りましょう。
今回はトヨタの元町工場へ潜入して参りました。
トヨタが十数年ぶりに出したスポーツカー、86(ハチロク)。
記憶の良い読者なら、チーフエンジニア多田さんの名調子を覚えておられよう。
今回はその86の特別バージョンである「86GRMN」の生産現場へ潜入してきたので、開発エンジニアのインタビューと併せてリポートする。
ご存知の通り、トヨタ86はスバルの工場で生産されている。モデルに関しては「共同開発」であるが、エンジンもボディも全てがスバル製のクルマで、一卵性双生児であるスバルBRZと同じ工場、同じラインで作られている。
例えは悪いが、先に話題となった三菱eKシリーズと、日産デイズシリーズと同じような関係だ。例えが悪すぎますか、そうですか。
こちらは86のノーマル車両。トヨタとスバルの共同開発で、生産は全てスバルが行っている。
ところで86GRMNのGRMNとは何だろう。
これは「ガズー・レーシング・マイスター・オブ・ニュルブルクリンク」の頭文字を取ったものだ。マイスターと言ってもドイツの職能的徒弟制度の親方であるMeisterではなく、英語Tuned byに当たるドイツ語でのMein Sternである。ここは本職の自動車評論家の方も多くが勘違いして居られるので注意が必要だ。
前半二文字のGRはトヨタ車でレーシング活動を展開するGazoo Racingを、後半のMNはMein Stern of Nurburgringを意味している。英語と独語がゴッチャになっているのである。
生産台数僅か100台のトヨタ86GRMN。車両価格648万円は間違いなく日本一のお買得価格である。残念ながら、すでに完売しているそうだが。
で、86GRMNだ。
生産台数は僅か100台ポッキリ。1台1台がほぼハンドメイドで組み上げられる故、1日当たり2台しか生産されない超スローな体制である。
それでいてお値段は648万円ポッキリなのだから、これをバーゲンプライスと言わずして何と呼ぼう。巷では生産原価が1000万円とも1500万円とも囁かれている。この辺りも後で詳しく聞いていこう。
マジで手作りしている。いまどきフェラーリだってもっと自動化が進んでいる。
ベースとなるのはもちろん86だから、これはスバルの工場で生産されている。そのホワイトボディをトヨタの元町工場に移送し、こちらでトヨタ手ずからの気の遠くなるようなカスタムを施していくのだ。
ちなみにトヨタの黎明期、ここは本当に「町工場」レベルの工場だった。元、町工場だから元町工場。これはトヨタの偉い人から聞いた完全なる実話である。いやぁ、御社もシャレとか言うんすね。
エンジンフード、トランクリッド、ルーフパネルは全て元町工場の一角で手作りされる高価なCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics、炭素繊維強化プラスチック)が奢られる。さらにリアやクォーターのウインドウには超軽量の樹脂がはめ込まれている。
当然車重はスッキリ軽くなっていると思いきや、実はノーマルと同じ1230kgである。高価なCFRPや取り付けの面倒な樹脂を用いて減量された分は、剛性向上のために施されるボディの補強や(部品点数が増えるのでその分重くなる)、フロント6ピストン、リア4ピストンの対向モノブロックキャリパー(よく効くがこれも重い)で増えた重量で相殺されている。
ノーマルには無い、剛性向上を狙った補強部品が取り付けられていく。
トランク内部に斜めに走る”筋交い”がお分かり頂けようか。こちらもノーマルには存在しない部品だ。
エンジンは基本的にノーマルと同じものをベースに、内部のパーツ精度を上げてフリクションを減らし、また給排気系を見直してレスポンスを向上させている。ターボは用いていない。最高出力は219psと思ったよりも控え目である。ノーマルが200psだから1割も向上していない。ノーマルは7000rpmで最高出力が発生するのだが、GRMNは7300rpmで発生する。より高回転化しているのだ。
86GRMNの概要をサラッと学んだところで、開発者のお話を伺おう。
今回インタビューに応えて下さったのは、おなじみ「ハチロクのタダさん」ことスポーツ車両統括部ZRチーフエンジニアの多田哲哉さんと、今回86GRMNの開発を担当されたスポーツ車両統括部主幹の野々村真人さんである。
「なんだそりゃ。メチャクチャだ(笑)」
F:どうもどうもご無沙汰しています。
多田さん(以下、多):いやあどうもご無沙汰です。相変わらず黒いですね。真っ黒じゃないですか。
F:外にいる機会が多いもので……。顔は黒いですが、腹の中はマッシロです。
多:どうだか(笑)。本当に潔白な人は、自分でわざわざそう言わないしね。
F:えーとあの。まずはお二人の役割分担を教えて下さい。
多:僕は86というクルマの全体を見て、野々村には、このGRMNの専属として「お前やれ」、とアサインしました。
F:野々村さんはもともと86の開発部隊にいらしたのですか。その中からGRMNご担当に抜擢された。
野々村さん(以下、野):いえ。これを担当する前はモータースポーツの部門にいました。ル・マンなどのLMP1車両の開発に携わっていたんです。トヨタがWEC(World Endurance Championship:世界耐久選手権)に参戦したのが2012年で、その時はル・マンまで行きました。
元々はヴィッツなどベーシックなクルマのシャシー設計をやっていたのですが、いろいろ知識もついて来たので、そろそろモータースポーツに行きたいなと思い、希望を出しました。
F:希望を出しましたって……それでスルッと希望部署に行けるものなのですか。そんな思い通りには行かないでしょう。
野:ウチの会社ってすごくてですね、大学を出てからサスペンションの勉強をしたいからシャシー設計を希望したらシャシー設計に、そろそろレースだなと思いそちらに希望を出したら、それじゃレース部門に行けやと。結構希望が通っちゃうんです。
ちょうどル・マンのプロジェクトが始まるところだったので、タイミングが良かったのもありますが。そんなにやりたいならやればいいじゃん、と異動させてくれて。
F:はー。なんか凄く意外です。最近インタビューする度にトヨタのイメージがどんどん変わってくる。
多:それまではどんなメージでした?
F:役所みたいでガチガチに規則に縛られて、工場では歩き出す足まで決められていて、トイレを出るときは電気を消して、みんな7:3に髪を分けていて、結婚したらトヨタホームに住んで……。
多:なんだそりゃ。メチャクチャだ(笑)
「異動時期がリーマンと重なってしまって…」
F:ちなみにレーシング部門にはいつ異動されたのですか。
野:2008年です。
F:え?するとリーマンショックのタイミングで……。
野:そうなんです。希望部署に異動した時が、まさにリーマンの時と重なってしまって。
開発をする分にはおカネを出してくれるけれども、とてもじゃないけどレースには出場できない、レースって本当におカネが掛かるんです。
部署全体が悶々としていましたね。俺たちは一体何をやっているんだろう、って。しかもそれを誰にも話すことができない。レース車両の開発は秘密の塊だから、親や彼女はもちろんのこと、会社の同期にだって話せない。
F:何しろ天下のトヨタが赤字を計上した時期ですからね。同じ会社の人にも、「あいつらこの大変な時に何やってんだ」と言われかねない。レースは基本コストセクターだから。
野:まさに。そうした悶々とした状態が4年間も続いて。
多:ハチロクだってそうですよ。開発を始めたのが2007年で、号令一下「行けー!」となって、翌年には「あらー」と(苦笑)。お前ら(台数の見込めない)スポーツカーなんかやっている場合かと。
野:ただ僕らの方は、すぐにレースに出場できない状況になったのは却って良かったのかも知れません。トヨタとしても、ハイブリッドのレースカーとしてル・マンに出せるような実力はまだ持っていなかったので。
結果的に4年間ジックリ開発して、2012年に初参戦して。とても良いポジションにつけていたんですけど、フェラーリにぶつけられて、こう、ガシャッと。
2012年のル・マン24時間レースに参戦したトヨタTS030ハイブリッド#7
F:周回遅れのアマチュアが運転するフェラーリと接触したんですよね。クルッと宙を舞って、あれは本当にヤバかった。
野:そうですそうです。よくご存知ですね。
※2012年のル・マン。トヨタはTS030 HYBRID 8号車をドライブしていたアンソニー・デビッドソンが、ミュルサンヌストレートの終わりのコーナー進入で、カテゴリー違いのフェラーリ458と接触。マシンは宙を舞って1回転し、タイヤバリアに激しく衝突、リタイアとなった。
F:私、そのときAUDIの取材で現場にいたんです。だからすごく鮮明に覚えています。ちょうどメディアルームでモニターを見ていて、みんながウワーッって総立ちになって。
野:僕はその時サポートエンジニアで、トラックの中でモニターと睨めっこです。すると突然8号車のデータがスーッと直線になって。人が死ぬ時の心電図と同じです。ピコピコしていたのがスーッと直線に。えぇ?なんで?と思ってフィールドを見たら大騒ぎになっていて……。
F:うわぁ、リアル……。
「するとまた市販車をやりたくなってきて…」
野:そのレースは完走ができなかったし、4年間も悶々とした時間を過ごしたけれども、やっぱり楽しかったんですよね。WECのプロジェクトは、トヨタが本格的に関わっているんで。
エンジンもトヨタのモータースポーツが開発しているし、ハイブリッドのシステム、キャパシタ、モーターも殆ど全てを日本人がやっているんですね。F1の頃は殆ど外国人がやっていて、トヨタはちょっとお手伝いみたいな立ち位置なんですが、ハイブリッドのレースカーは日本人がやらないと成立しないので。
F:なるほど。確かに。
野:どれぐらいのサイズのモーター載せなきゃいけないというところから始まって、モーターの設計、電子制御ブレーキもやらせてもらって、開発にゼロから関われたので、悶々とした時期も有ったけれど、後にはものすごい達成感も味わいました。
するとまた市販車をやりたくなってきてですね。レースで積んだ知見を、ウチのスポ車に活かしたらどうなるだろう、フィードバックしたらきっと面白いぞ、と。
F:そんな好き勝手にポンポン行くものですか?(笑)
野:行かせてくれるんですよ。本気で行きたいと思ったら、希望をかなえてくれちゃうんですよ。この会社は。
F:いやー。意外だなぁ。ものすごく意外。
多:もちろんみんながみんなそうなるわけではないですけどね。トヨタは大きな会社ですけど、比較的本人の意志を尊重して人事異動できるように努力はしますね。できるだけ本人のヤル気を尊重してあげようと。だってそのほうが頑張るでしょ。
F:うーん。私が抱くトヨタのイメージが。
多:役所でも7:3分けでもないですから、ウチは(笑)
なかなか86GRMNの話に入らなくてゴメンナサイ。
しかしMIRAIの田中さんと言い、ハチロクのご両人と言い、最近のトヨタはどうなっているのでしょう。次号では増々ハジけたトヨタをご紹介。
なにやらこの特集も長くなりそうな予感が…。あー試乗が出来へん……。
メーカーの本気度が年々増す
ニュルブルクリンク24時間レース
こんにちはADフジノです
先日、ニュルブルクリンク24時間レースの取材に行ってきました。
トヨタはこのレースに参戦して今年でちょうど10年目を迎えます。これまでにもレクサスLFAやRCF、トヨタ86などでエントリーしており、今回登場している86GRMNはまさにこの活動を通じて誕生したモデルというわけです。まあ、詳細はインタビューの続きをお楽しみということで。
トヨタは今年、レクサスRC、レクサスRC F、そしてトヨタC-HRの3台体制でエントリー。ちなみにC-HRは年内に発売予定のTNGAボディを採用したクロスオーバーSUV。トヨタはこうした発売前の車両を実験評価の位置づけでこのレースに投入している。総合84位、クラス3位で無事に完走を遂げた。ちなみに「モリゾウ」こと豊田章男社長はレクサスRCをドライブし、サプライズで予選にアタック。さすがの走りをみせた。
今年で44回目を数えるこのレースですが、ここ数年間取材を続けていて感じるのが年々メーカーの本気度が増していることです。インタビュー内にもありましたが野々村さんが担当していたルマン24時間レースなどはメーカー直系のいわゆるワークスチームが戦うメーカー選手権であるのに対し、このニュルブルクリンク24時間レースはもとは地元のプライベートチームが競い合う草レースでした。
ところが約10年前にFIA GT3というカテゴリーが誕生し、世界中のレースが大きくさまがわりしてきました。ちなみに日本で一番人気のレースカテゴリー、スーパーGTのGT300クラスを走っているのも、ほとんどがこのFIA GT3車両です。
左がアウディR8の市販車、右側がR8ベースの「R8LMS」。FIA GT3車両をざっくりと説明すれば基本骨格やエンジンはベース車両のもので、レギュレーションのため駆動方式は2輪駆動となり、軽量化、ワイドボディ化されたマシン。ベース車両と近似のスタイルゆえ親近感もあり、人気が高い。またこのマシンは市販品であり、個人やプライベートチームに販売されている。価格はメーカーによって異なるがおおよそ3500万円から5000万円くらい。
ニュルブルクリンク24時間レースにおいてもいまやトップカテゴリーはこのGT3マシンばかりです。建前上は顧客のための“カスタマーレーシング”なのですが、実際はメーカーのエンジニアやワークスドライバーも数多く投入されており、“セミワークス”といった体になってきています。
メーカーのホスピタリティテントも年々豪華に。特にメルセデス、BMW、アウディの御三家のものは今年からいずれも2階建ての仮設とは思えぬ豪華なものに。メルセデスは「AMG」、BMWは「M」、アウディは新たに「AUDI Sport」というブランドを表立てて、コミュニケーションをはじめている。
そして、今年の結果は、新型となったばかりのメルセデスAMG GTのワンツースリーでした。結果はもとより、初年度の新型で、この過酷な耐久レースでクルマが壊れなかったこと。それは驚異的と言えるものです。メルセデスは相当に気合を入れてクルマを作ってきたことが伺い知れます。
メルセデスAMG GTのワンツースリーの表彰台の図。
地元のニュルブルクリンクで、ドイツメーカーが絶対に負けるわけにはいかない、そんな気合がドイツ各社から伝わってきます。一方で、トヨタをはじめ日本からこのレースに挑戦をはじめている人たちも年々増えています。そのあたりは次号の『モーターヘッド』にてレポートする予定ですので、ぜひご覧いただければ幸いです。
スタート前のホームストレートの様子。スタンドも満席、約20万人が押し寄せる。格式ばっていない、祭りのような独特の雰囲気はこのレース特有のもの。
この記事はシリーズ「フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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