みなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
今回も明るく楽しくヨタ話から参りましょう。
馬主である兄貴分にご招待頂いて、久しぶりに東京競馬場へ行ってきました。競馬の知識が無く、また博才というものが欠片も無い私としては、競馬新聞に頼るしかありません。1部500円もする高額な競馬新聞の予想覧を信じて、そのまま馬券を買ってみたのですが、当然、と言いますか、結果は見事なまでの丸坊主。大損をしました。泣きたいです。当分は昼飯ヌキです。
パドックからコースへ向かう地下通路。お馬さんとしては、まさか自分が賭け事の対象になっているとは夢にも思わず懸命に走るのでしょう。
東京モーターショーを駆け足で回って来ました。ここへ行くとイッキにたくさんの人と会えるので嬉しいです。
右から先日のN-BOX取材でお世話になった徳本嬢、国内営業に移動された山本桂太郎氏。何かとお世話になりっぱなしの広報松本さん。山本氏にお目にかかるのは5年ぶりくらいでしょうか。
ホンダはEV(電気自動車)シフトが鮮明です。メインステージにスポーツカーを含むEVを3台も並べておられました。
フォルクスワーゲンの製品広報の池畑さんと。右の強面さんは、日本の絶版バイク市場を作り上げた株式会社ウエマツの代表取締役社長 植松忠雄氏。
フォルクスワーゲン(VW)の目玉は、タイプ2を彷彿させるキュートなEVである「I.D. BUZZ」。大変な人だかりでした。このままのデザインで出して欲しいです。
マツダのブースで一番見たかったのは、こちらのSKYACTIV-Xエンジン。パワートレイン開発本部長の中井英二さん(中央)と広報のカット町田氏(どうもご無沙汰でした)。
マツダも渾身のコンセプトカーを出しておられましたが、ともかく私の興味は(一番隅っこにポツンと置いてあった)遂に実現した圧縮着火ガソリンエンジンにあります。これは早々に取材をしなければなりますまい。試乗車はいま国内にないとの話ですが、試乗はいつ出来るのでしょう?
こちらはセンチュリーの開発主査、田部正人さん(中央)とおなじみトヨタ広報の有田くん
トヨタの目玉は21年ぶりに生まれ変わったセンチュリー。遂にセンチュリーもハイブリッドの時代になりました。V12が潰えてしまったのは残念ですが、皇室御用達の信頼性に揺るぎはありません。塗装の話をひとつ取ってもビリビリと痺れます。こちらも絶対に取材します。有田くん仕切りよろしくね!
レクサスの矢口さん(中央)と、私よりも締め切り破りが悪質と言われる日本一多忙な自動車評論家の渡辺敏史氏(右)。短い時間ですが楽しゅうございました。
こちらはLOVECARS!TV!(http://lovecars.jp/)として、何と個人でブースを出している河口まなぶ氏。バリバリ配信していくそうです。お楽しみに!彼のバイタリティには脱帽です。東京マラソンでもさされたしなぁ。来年は負けないよ!
何しろ連載まっ最中ですので、もちろんSUBARUのブースにもお伺いしたのですが、誰も知っている人がいませんでした。お邪魔いたしました。
他にも三菱自動車の鳥居さんとお話させていただき、同社ブースの前で記念撮影をしたのですが、その前後十数枚の写真がスッポリ抜け落ちるように消えてしまいました。スマホの温度が異常上昇して、調子悪いなーと思っていたのですが……Xperiaアカンです。もう我慢の限界。iPhone Xに買い替えます。
さてさて、久しぶりに長いヨタとなりましたが、ボチボチ本編へと参りましょう。SUBARU渾身のニュープラットフォームを採用したインプレッサの開発者で商品企画本部のプロジェクト ジェネラル マネージャー、井上正彦氏のインタビューです。
13年ぶりのプラットフォーム刷新です
フェルディナント(以下、F):はじめまして。今日はお世話になります。フェルディナント・ヤマグチと申します。よろしくお願いします。
井上(以下、井):こちらこそ。よろしくお願いします。フェルさん、もう試乗の方は……?
F:タップリと試乗させて頂きました。今回のインプレッサは、SUBARUが刷新したプラットフォームの採用第1号車とうかがいました。
井:そうです。このインプレッサが新設計プラットフォーム……「スバルグローバルプラットフォーム」と呼んでいますが……の採用第1号車になります。プラットフォームとしては13年ぶりの刷新です。第2号となるのがXVで、第3号はフォレスターになる予定です。
F:フォレスターも。あのクルマはだいぶ大きいですよね。
井:そうですね。でも基本となるプラットフォームは同じです。相似形と言って、要所要所は少しエクステンドしたりしていますけれども。
F:このプラットフォームは、トヨタでいうTNGAみたいな感じですか?位置づけとしては。
井:みたいな感じです(笑)。その採用第1号となるインプレッサは、とにかく安全性能、感動質感というところでスバルのコア技術としてすべての面で向上させています。インプレッサがベースとなり、そこからスポカジな部分。スポールカジュアルな個性を際立たせたというのがXVであったり、フォレスターであったりするわけです。
F:フォレスター、アウトバック、XV、レヴォーグ。この4車種は、今後全てインプレッサベースになるわけですね。
井:その通りです。インプレッサをまず変えて、それから2号、3号、4号……というふうに変えていきます。新しいプラットフォームは、各モデルがフルモデルチェンジする時に採用するので、例えば今のレヴォーグは旧プラットフォームの最終型のままですから、正直レヴォーグと今のインプレッサを乗り比べると、インプレッサの方が勝つ部分が多かったりします。
F:インプレッサが勝つ?レヴォーグの方が上位車種であるのに。格上なのに?
井:インプレッサが勝ちますね。社内の実験でもよく言われます。
F:あの、そこなんですが……今回インプレッサをタップリ試乗させていただいて、街乗りも高速も含めて結構な距離を乗ったのですが、正直な話、何が大きく変わったところなのか、私はサッパリ分からなくて。いま井上さんがおっしゃったレヴォーグにしても、むしろあちらの方がカッチリ感は強かったような印象があるんです。ヘボな運転でお恥ずかしいのですが、自分の感想として。
井:あ、そうですか。
F:どうしてそう感じたのだと思われますか?それはお前がシロートで鈍いからだよバーカ、ということは置いておいて(笑)。
井:いや。おっしゃっている意味は良くわかります。インプレッサは、もともとバランスが非常に良いクルマなんですね。パッケージとして、いろいろな性能のバランスが取れているんです。先代もすごく良かった。
モデルチェンジしなくても良かったんじゃない
F:いろんな性能を円グラフにすると。真円に近くなるということですか。
井:そうです、そうです。円グラフだと真円に近くなる。新しいインプレッサは、その円がそのまま大きくなったようなイメージです。だからフェルさんが、「何が⼤きく変わったのかサッパリ分からない」とおっしゃるのは無理ないんです。むしろ正当に評価していただいていると思います。それが市場にも受容されて、インプレッサは新型を出す前のモデル末期でも、販売としてはほぼ計画通りか、あるいは計画を超えるくらいに売れていたんです。普通はモデル末期になると減衰しちゃいますよね。でも旧型インプレッサは最後の最後までキチンと売れ続けた。
ここだけの話、社内では「これだけ売れているんだから、わざわざモデルチェンジなんかしなくても良いんじゃないの」くらいの話まで出ていたんです(笑)。それくらいバランスが良かった。また、お客さんもそれを理解してくれていた。使い勝手を含めて、受容されていたんですよ。だから最後までキッチリ売れた。
最後の最後まで売れ続ける。井上さんが話してくださったこのエピソードは、前号のマンちゃんの後ヨタに通ずる話だ。SUBARUは同じモデルでも、年ごとに改良が加えられていく。だから後になればなるほど煮詰まって美味しくなる。また、SUBARUには、その仕組みを理解している「通」なお客さんが多いということなのだろう。
井:それじゃ何でそれをまた刷新したんだ、ということになるのですが、ここがSUBARUらしさ、ウチらしさなんですね。技術者からすると、もうサチっているんです。昔のプラットフォームをいろいろ改善して今のレヴォーグの最終型ぐらいまでいろいろな性能が上がってきたと。ですが、あのプラットフォームはもうサチってしまった。
サチる、とは英語の(saturation:飽和)を動詞化した言葉で、これ以上上がらない、これ以上増えない、というようなニュアンスで使われる。
F:サチってしまった。前のプラットフォームは、もう行き着く所まで行ってしまったと。
井:そう。前のプラットフォームをこれ以上詰めていくと、ムリが出ちゃう。例えばステアリングをもう少しクイックにしたら、振動がバンバン出て破綻してしまうとか、そういう相反するところがアチコチに出て共有しきれないと。そういうことなんです。
F:なるほど。煮詰めていくと、やがては限界が来ると。
井:来ますね。やっぱりそれが10年、15年というスパンで見ると、どこかで必ずサチります。今回は13年かかりましたが、そういうことなんです。前のプラットフォームが2003年のレガシィ4代目のときですから。
F:1つのプラットフォームを、そんなに長く使うものなのですね。
井:10年ぐらいは使います。だから今回のプラットフォームも10年先に最も影響がある衝突安全の性能を見越して、10年先ならこれぐらいは要るよね、今までの進化からすると約40%はエネルギー吸収が必要だろうね、というところまで見越して設計しています。
F:それは10年後に予想される法規面の変更も含めての話ですか。
井:もちろんそうです。10年後ならこれだけエネルギーを吸収しなければいけないだろう、と。我々はそれを約40%と見ています。だから旧型よりも、クラッシュのエネルギー吸収特性を40%高めた車体になっている、ということです。
F:やはりクルマというものは新しい方が安全なんですね。
井:はい。間違いなく安全です。当然。
F:もし今のインプレッサと前のインプレッサがガシャンと正面衝突をしたら、現行モデルのほうが助かる可能性は高いですか?
井:現行モデルの方が吸収性能は高いですから、キャビンが残りますね。旧型の方はキャビンが変形する可能性が、例えばガラスが割れてしまったりする可能性が高いです。それは否定しません。
硬くて丈夫なのは良いことなのでは?
F:昔の巨大なアメ車のセダンと、今のコンパクトになったセダンを正面衝突させる動画がYouTubeに上がっているのですが、昔のセダンは本当にペチャンコになりますものね。車体は昔の方が全然大きくて立派なのに。やはり新しい方が圧倒的に強い。
井:今アメリカでは、「オブリークテスト」という非常に厳しい衝突試験があります。2.5トンの鉄の塊を時速80キロ、時速90キロで斜めにぶつけるようなテストです。新しいインプレッサは、それにもほぼ適合するぐらいにキャビンはがっちり、かつ吸収特性はよく、というふうに出来ています。ただ、唯一の難点は、「Aピラーの根っこが硬い」ということです。
F:はあ、Aピラーが硬いのがなぜ難点なのですか?硬くて丈夫なのは良いことなのじゃないですか。衝突した時に安全だし、クルマ全体の剛性が増すし。良いことづくめのような感じがしますが。
井:ところがそう良いことばかりじゃないんです。運転している側に取っては良いのですが、歩行者にとっては……。
F:あ!人をはねた時に死んじゃうと……。
井:そう。人が死んじゃうんですよ、ぶつかったら、ピラーが硬すぎて。ですからそこを守るために、歩行者エアバッグを全車に装備している訳です。
クルマの「安全」は、むろん乗員だけのものではない。これからの時代、歩行者の安全も確保しなくてはならない。SUBARUは歩行者保護用エアバッグをインプレッサで国産車として初めて採用した。ワールドワイドで見ると、ボルボ(やはりこういうことはボルボか……)、ランドローバーに次いで3番目である。ちなみにエアバッグの風船の部分はタカタ製、インフレーターはスウェーデンのオートリブ製である。
井:歩行者保護用エアバッグを採用したのは、結論も何も、技術的にはもうそれしか解がないだろうということだったんです。
F:乗員だけのことを考えたら、Aピラーはいくらでも強く作れるものなのですか?
井:もちろん作れてしまいます。でも、頭がピラーに直撃すれば、コンクリートに頭を打ったのと一緒ですから、死んじゃいますよと。それも吸収するために、エアバッグを全車に入れた訳です。
F:最近のクルマは、エンジンフードとエンジンの間の隙間を大きく取っていますよね。歩行者をはねちゃった時に、頭をエンジンのてっぺんにゴツンとやらないように。
井:ええ。例えばインプレッサよりもっとでかいクルマであれば、フロントまわりがもっと長くなるから頭が当たる位置はもっと前方になるのですが、インプレッサのようなCセグになると、ピラーの付け根にちょうど頭がいっちゃうケースがあるんです。バンパーからピラーまでの距離と、人が倒れかかる距離が、ちょうど同じくらいになっちゃう。
それでインプレッサに歩行者エアバッグを標準装備にした訳です。これがもっと大きなDセグのクルマ。例えばレガシィだったら……レガシィのセダンだったら必要ないのかも知れません。だって頭が付け根まで届かないから。
F:なるほど。はねてもピラーまで届かない。飛んでこない。それじゃコルベットもいらないわけだ。うんと前が長いから(笑)。
井:コルベット、いらないでしょうね(笑)。でも冗談じゃなく、日本の交通事情があって、歩行者との接触で老人の方が亡くなる、というケースがすごく多いんです。ピラーに当たってね。これはもうデータが示しているので。
F:なるほど。
井:今ほとんどのクルマは、ボンネットを開けるとエンジンの上に樹脂製のカバーが付いていますよね。あれも衝突安全を確保するためです。
F:あれはカッコつけてるだけじゃないんですね。
井:それもありますが、安全のためでもあります。あれも意外と効くんです。あと厳しいのは、サスの頭のところですね。ストラットの頂点のところ。あそこもエンジンルームの中の高い位置にあり、しかもうんと硬い。
自動車メーカーのインタビューで、「死んじゃう」なんて言葉は滅多に出てこない。担当エンジニアが安全に対して心を砕いている証左だろう。これは面白くなりそうだ。このインタビューは次号へ続きます。
と…..あれ?本稿執筆中にイヤなニュースが飛び込んで来たぞ。SUBARUでも無資格者による検査が発覚したと?しかもインプレッサが生産される群馬県太田市の群馬製作所で!?マジすかそれ?せっかく良いクルマを作っているのに、何をしてまんのホンマ。
締め切り時間をとうに過ぎているので、本件に関してはこれ以上書けないが、本稿が掲載される月曜日には事態が明らかになっていよう。SUBARU様にはインタビューで大変お世話になったのだが、それとこれは話が別だ。しかし何もめでたいモーターショーの最中に、ねえ。
それではみなさままた来週!
安全をブランドにするからこそ求められる抜本対策
こんにちは。担当編集のY崎です。
日産自動車に続く、SUBARUの完成車検査の不正問題が気になるところですが、記者会見が本稿の締め切りと重なったため、本稿の最後で触れさせていただきたいと思います。
さてフェルさんも記事で触れていた東京モーターショーのSUBARUブースで開かれた記者発表会に私も参加しました。登壇した吉永泰之社長がとりわけ強調していたのはSUBARUの安心安全へのこだわりです。日本でSUBARUは衝突安全技術の「アイサイト」を早くから積極搭載してきたことで知られています。さらに米国では同車の衝突安全などの性能がかなり前から高く評価されてきました。外部の調査機関による試験などをベースにしたクルマの安全ランキングで、SUBARUは群を抜く高い評価を獲得する常連です。
インプレッサに使われている新プラットフォームも安全に力を入れた自信作だそうです。「多くのメーカーがモジュール化などを進めてプラットフォームを刷新する際にコスト削減を優先するのに対して、我々は安全性能を高めることにむしろ力を入れている」(SUBARU幹部)とします。
その原点は航空機メーカーとして誕生したスバルの歴史にあります。スバルの前身である中島飛行機は戦闘機の「隼」を開発・生産しただけでなく、「ゼロ戦」のライセンス生産も担当。三菱重工業よりも多数のゼロ戦を製造していたそうです。
以来、今に至るまでSUBARUは航空機事業を手掛けており、現在は米ボーイング社の「777」「787」「777X」向けに中央翼を製造しています。中央翼とは2枚の主翼を支える機体の中央部分にある部品で高い精度と耐久性が求められます。さらに同社はヘリコプターも製造しています。
航空機はトラブルが起きれば墜落するリスクがあります。故障すれば路肩に止めることができるクルマと比べるとより高い安全性能が求められる。だからこそSUBARUには、高い安全への意識が企業文化として存在するそうです。
記者会見で吉永社長は「SUBARU VIZIV PERFORMANCE CONCEPT」も公開しました。スバルが毎回のようにモーターショーで使う、高さが変わる回転台に載せられて登場した同車は、SUBARUのハイパフォーマンスカーの将来像を示すコンセプトモデルです。
外観はこれまでのSUBARU車らしいデザインをより精悍にした印象で、もちろん独自の水平対向エンジンを搭載した4WD。高い走行性能に加えて、アイサイトによる自動運転技術も搭載しています。安全性もSUBARUクオリティーだそうです。
とはいえ安全を重視する姿勢をアピールするSUBARUが、日産自動車に続き、完成車検査で不正を行っていたのは見過ごせない問題です。10月27日の夕方に記者会見したSUBARUの吉永社長は冒頭で「多大なご迷惑とご心配をおかけして本当に申し訳ございませんでした」と謝罪しました。
10月1日時点で、完成検査員は245人で、認定前に検査を行っていた人は4人。リコールの対象はレガシィ、インプレッサ、フォレスターなどの全車種で合計25万台。30日に国土交通省にリコールを届け出る予定です。費用は50億円超を見込んでいます。
「すべての質問にお答えしたい」と吉永社長は語り、質疑応答に臨みました。経営責任を問う数々の厳しい質問に対して「30年以上、これがまずいという認識がないままやってきた」「会社の成長に全体がついてきていないところがある」「正しいと思ってやってきた」などと発言しました。
SUBARUでは米国を中心とする海外市場で好調が続き、生産が急拡大。品質管理が難しくなっていることを受け、最近になって新たにCQO(最高品質責任者)を置いて、品質管理の体制を強化してきました。経営陣はリスクを認識して手を打ってきたものの、現場の管理体制に死角があったようです。安全を看板にするSUBARUのブランドイメージに打撃を与えることは避けられない問題で、早急かつ抜本的な対応が求められています。
この記事はシリーズ「フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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