S660は現在日産48台と超スローな生産体制である。

 ディーラーで集計された注文がメーカーに送られるのは三ヶ月に一回のペースで、実にノンビリとした商売である。街で見かける機会は当然少ない筈なのだが、さにあらず。通勤の往復でも、最低一日一回は見かける。拙宅の近所にもオーナーさんは二人おり、イザとなったら日産リーフの時のように突撃訪問をしようと目論んでいた。

 そんなとき、目黒通りと交差する環状7号線の側道に位置するコンビニ前で、お買い物中の白いS660のオーナーさんを見つけた。迷わずクルマの後に駐車し、持ち主が出てくるところを待った。

 程無くして、コンビニ袋をブラブラさせた青年が現れた。

S660に乗っているとオジサンとの出会いが増える

 クルマから降り、S660のドアに手を伸ばした青年にコンチハ、と声をかけた。青年の名前は片山芳雄さん(仮名)。28歳の会社員である。

F:コンニチワ。突然失礼致します。ちょっとおクルマの事でお話をうかがいたくて。私、日経ビジネスオンラインというメディアで自動車の記事を書いているヤマグチと申します。

片山(以下、片):あ……はいコンニチハ。クルマの話ですか。短い時間なら良いですよ。

 今まで見かけてきたS660のドライバーは、100%中高年の方だった。こんなに若い方は初めてだ。若い人らしく、リア部分には立派な黒い羽が屹立している。片山さんが意外にアッサリとインタビューを承諾して下さったのには訳がある。このクルマに乗っていると、「やたらと知らないオジサンから声をかけられる」と言うのである。

F:はぁ。知らないオジサンから声を。それはどのような状況で。

:一番多いのはS660に乗っているオジサンですね。信号でS660同士が偶然隣に並んだりすると、大抵は手を上げて挨拶されたり、直接声を掛けられたりします。天気が良くて気持ちが良いねぇ、という事も有りますし、君、若い人がこのクルマに乗るのはとても良いことだよ。君みたいな若者がもっと増えれば、日本はもっと良くなるんだ、なんて人もいます(笑)。

F:往年のドライバーは、若い方がこうしたスポーツカーに乗っているのが嬉しくて堪らないのでしょうね。それで思わず声をかける。

:そうなのかも知れません。このクルマね、日本の宝だからうんと大事にしてあげてね、なんていう人が結構多いです。

信号でS660同士が偶然隣に並んだりすると、挨拶されたりすることが多いとのこと(写真は広報車)

ステップワゴン狙いが、ディーラーで一転衝動買い

F:どのような経緯でこのクルマを選ばれたのですか。それまではどんなクルマに乗っておられましたか?

:今まではクルマナシの生活です。たまに家のクルマに乗ることは有りましたが、父親がゴルフに乗って行っちゃうので使えないことが多くて。あ、家のクルマはマークXのシルバーです。普通のオッサンセダンです(笑)。

 S660を買った理由ですか。ディープなファンの方には叱られちゃうかも知れませんが、衝動買いです。ディーラーで一目見てコレダと閃いちゃって。

F:ははぁ。衝動買い。ディーラーに行かれたということは、何か他のクルマを探していたということですか。

:はい。本当はステップワゴンを見に行ったんです。トヨタのノアにするか日産のセレナにするかステップワゴンにするか。まあ何となくホンダのクルマは走りが良いのかな、程度に考えていて。それにほら、ステップワゴンは後ろのドアが便利そうじゃないですか、横に開いて。

F:わくわくゲート、でしたっけ?(笑)。

:そうそう、それです(笑)。あれはなんか便利そうでしょ。

 ステップワゴンを見に行った片山さんは、たまたま停めてあった試乗車のS660に一目惚れをしてしまった。それまでは一切検討対象に入っていなかったのだと言う。