椋本さんのお話は異常なほどに面白い上に、方方にとっ散らかるものだから、文字通り留まる所を知らない。このままだと本当にエンドレスになってしまうので、今回で強制終了しなければなるまい。

 いままでは「S660のなりたち」と「スポーツカーとは何か」について、言わばソフト面についてを伺ってきた。最終回の今号では、ハード面についてお話を伺おう。

「最高回転数を700上げるのは大変なことなんです」

F:S660は相当にカネのかかった作りをしていると聞いています。このテのクルマとしてはとてもよく売れていますが、それにしてもN-BOXなど売れ線のクルマからすれば出る数は知れている。放っておけば1台あたりのコストはどんどん跳ね上がってしまいます。

椋本(以下、椋):ええ。ですからまずはS660は出来る限り「アリモノ」を使うようにしています。例えばエンジン。S660のエンジンは基本的にN-BOXと同じものを使っています。もちろんクルマの性質が異なりますから、高回転までストレス無く回るように様々な工夫を施してありますが、基本は同じエンジンです。トランスミッションも、MTは新設計ですが、CVTはやはりN-BOXと同じものを使っています。

F:部品の共通化。これは基本ですね。でもスポーツカーのエンジンがN-BOXと同じって、それで良いんですか?やっぱり4気筒が欲しいとか、そういう思いは無かったのですか。

:ないですね。このN-BOXのエンジンは、元がとってもしっかりしているので。フェルさんが言わんとすることは分かります。でもスポーツカー専用のエンジンをゼロから開発したら、車両価格は軽く400~500万円になってしまいます。

 僕らは「自分たちが買えるスポーツカー」を作りたかったんです。そのために何が必要かと。パワーが必要なのか、ハンドリングなのか、或いは重量か。人を真ん中に乗せるのは外せないよね、とか。全てを勘案していくと、なんだ、ここにこんなに良いエンジンが有るじゃないかと。もちろんそのまま持ってきてポン付けって訳には行きませんから、いろいろと手を加えていますが。

F:それはどのような。

:まず最高回転数を上げるセッティングです。最高回転数が700も違いますから。

F:700回転、ですか……。

:あ、大したことねーなと思ってるでしょう(笑)。確かに700回転と聞くと、少ないと思われるかも知れません。でもそもそも軽のエンジンって燃費を出すために限界まで軽く作られているんですよ。もうこれ以上は回さないよねと見越して作っているので、たった700でも、それを上げると様々な場所に想定外の負荷がかかるものなんです。これをひとつひとつ解決していきました。コストとにらめっこしながら。

F:なるほど。

:エンジンだけでなく、いろいろなクルマから使えそうな部品を剥ぎ取って流用するのが基本です。でもお客さんの目に触れるところには積極的におカネを使いたい。またクルマの魅力となる部分にはもっとカネを掛けたい。それじゃどこを削るかというと、「お客さんに迷惑を掛けない部分」なんですよね。

F:お客さんに迷惑をかけない部分。例えばどのような。

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