みなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
今年も懲りずにホノルル・トライアスロンに出場して参りました。
なにやら毎週遊んでいるようでアレなんですが、これも取材活動の一環でございます。

「ホノトラ」の愛称で呼ばれるホノルル・トライアスロン。毎年着実に出場者が増えておりまして、今年は前年より50名増の1720名が出場いたしました。その内日本人選手は832名ですから、約半数が日本からの参加ということになります。

当日温度の気温は24.1℃、水温は26.1℃と非常に良好なコンディションでした。

そしてこちらはホノトラ恒例のチーム横断打ち上げ会。
今年はBALS高島社長の還暦のお祝い会を兼ねておりまして、全員が赤い衣服を着用して参加するという取り決めがありました。


とまれ、楽しい大会でありました。思えばこの大会に初めて出場したのは7年前のこと。トライアスロンは正しいトレーニングを続ければ、年を取っても着実にタイムが伸びていくことが魅力です。

さあさあ。ヨタはこの辺にして、本編へと参りましょう。
ホンダS660開発責任者、本田技術研究所 四輪R&DセンターLPL椋本陵さんのインタビュー最終回です。
椋本さんのお話は異常なほどに面白い上に、方方にとっ散らかるものだから、文字通り留まる所を知らない。このままだと本当にエンドレスになってしまうので、今回で強制終了しなければなるまい。
いままでは「S660のなりたち」と「スポーツカーとは何か」について、言わばソフト面についてを伺ってきた。最終回の今号では、ハード面についてお話を伺おう。
「最高回転数を700上げるのは大変なことなんです」
F:S660は相当にカネのかかった作りをしていると聞いています。このテのクルマとしてはとてもよく売れていますが、それにしてもN-BOXなど売れ線のクルマからすれば出る数は知れている。放っておけば1台あたりのコストはどんどん跳ね上がってしまいます。

椋本(以下、椋):ええ。ですからまずはS660は出来る限り「アリモノ」を使うようにしています。例えばエンジン。S660のエンジンは基本的にN-BOXと同じものを使っています。もちろんクルマの性質が異なりますから、高回転までストレス無く回るように様々な工夫を施してありますが、基本は同じエンジンです。トランスミッションも、MTは新設計ですが、CVTはやはりN-BOXと同じものを使っています。
F:部品の共通化。これは基本ですね。でもスポーツカーのエンジンがN-BOXと同じって、それで良いんですか?やっぱり4気筒が欲しいとか、そういう思いは無かったのですか。
椋:ないですね。このN-BOXのエンジンは、元がとってもしっかりしているので。フェルさんが言わんとすることは分かります。でもスポーツカー専用のエンジンをゼロから開発したら、車両価格は軽く400~500万円になってしまいます。
僕らは「自分たちが買えるスポーツカー」を作りたかったんです。そのために何が必要かと。パワーが必要なのか、ハンドリングなのか、或いは重量か。人を真ん中に乗せるのは外せないよね、とか。全てを勘案していくと、なんだ、ここにこんなに良いエンジンが有るじゃないかと。もちろんそのまま持ってきてポン付けって訳には行きませんから、いろいろと手を加えていますが。
F:それはどのような。
椋:まず最高回転数を上げるセッティングです。最高回転数が700も違いますから。
F:700回転、ですか……。
椋:あ、大したことねーなと思ってるでしょう(笑)。確かに700回転と聞くと、少ないと思われるかも知れません。でもそもそも軽のエンジンって燃費を出すために限界まで軽く作られているんですよ。もうこれ以上は回さないよねと見越して作っているので、たった700でも、それを上げると様々な場所に想定外の負荷がかかるものなんです。これをひとつひとつ解決していきました。コストとにらめっこしながら。
F:なるほど。
椋:エンジンだけでなく、いろいろなクルマから使えそうな部品を剥ぎ取って流用するのが基本です。でもお客さんの目に触れるところには積極的におカネを使いたい。またクルマの魅力となる部分にはもっとカネを掛けたい。それじゃどこを削るかというと、「お客さんに迷惑を掛けない部分」なんですよね。
F:お客さんに迷惑をかけない部分。例えばどのような。
生産台数が少ないクルマは開発費が大きく響く
椋:開発費は工夫をすれば削ることが出来ます。例えば試作車を作るとする。具体的な金額は言えませんが、試作車ってマジで大変なカネがかかるんです、たった1台作るにしても、ハンパな金額じゃありません。
何しろ初期の段階では、殆ど一品物の特注部品で組み上げていきますからね。考えてみてください。新たに型を起こしてヘッドランプを左右ワンセットサプライヤーさんにお願いしたら、いったい幾らの金額がかかるのか。でもそのヘッドランプって、衝突の実験とか、耐熱とか耐候性の実験には必要ないですよね。

空力の実験には同じ形状、同じ重量のヘッドランプが必要だけれども、すべての実験に必要な訳じゃない。そうしたらそこは削ってしまえばいい。不要なものをリストアップして、自分たちの工夫や我慢で削れるものは、片端から削ってしまいます。あれ?今の段階でナビのディスプレイなんて必要だっけ?要らんわな、みたいなアイデア出しを延々とやりました。
F:今まで他のクルマではやっていなかったのですか。コストダウンは各車両とも至上命令でしょう。
椋:今までの試作車はここまでやっていなかったでしょうね。ナビのディスプレイにしても、付いたままだったと思います。だって他のクルマは生産台数がハンパじゃなく多いですから。
エアコンの吹き出し口の原価を1台当たり2円下げると、20万台作れば40万円浮いちゃいます。吹き出し口が4つあれば、それだけでもう160万円。全ての車両に取り付ける部品のコストを下げるのは原価圧縮に効きますが、開発費は台数が多くなればなるほど薄まって行きますから、トータルの原価には余り響かないんですよ。
溶接は3往復…コストダウンのために
F:なるほどそうか。生産台数が文字通り「桁違い」ですものね。今は日産何台でしたっけ?
椋:いまは1日に48台製造しています。そうそう、製造といえば、コストダウンに関しては製造部分にもかなり頑張ってもらいました。新しいクルマを作るには工場に新しい設備が必要になります。設備投資ですね。この投資をできるたけ抑えて生産する方法を考えてもらいました。
F:ははぁ。製造部門にも……。
椋:例えば溶接です。普通溶接って、こうクルマがびゅーっとラインに入って行くと、横から溶接ロボットが出てきて治具でロックしてバン、バン、バンって留めて行くのですが、その専用治具を作るとこれまた法外にカネがかかる訳です。日産48台のクルマに専用の治具なんか起こした日には、1台あたりに一体いくらのコストがのし掛かるか……。
だからS660は、1回マシンに入れて、バチッと付けてから1回引き出すんですよ。また外で部品を付けて、もう1回入れてバチッと付ける。これを3往復ぐらいさせるんです。時間はかかりますが、これなら新たな投資は殆ど必要ない。
F:なるほど。ラインを一回通るだけでバンバンバンと連続溶接はできないけれども……。
椋:片道を一回通るだけでは出来ないけれども、何回か往復させて、一回一回溶接してあげれば結果は同じ加工ができちゃうんです(溶接・組み立て工程の動画はこちらのページからご覧になれます)。時間はかかるけれども、そこまで急いで大急ぎで作るクルマじゃないんで。
F:同じことをフィットでやろうとしてもダメですよね。
椋:そりゃダメです。叱られちゃう(笑)。あとはドアの窓枠の部分。ここは一枚のハイテン材の板からバーンとプレスで抜くんですが、抜いた内側の部分は丸々廃材になっちゃうんです。他のクルマなら捨てちゃうんですが、僕らはそれを回収して他の部品に回したりとか、そんな細々した事までやりました。
「ゴロンゴロンと横転しても大丈夫です」
F:安く作ったから弱くなっちゃった、なんてことは無いですか。ボディの剛性とかはちゃんと確保されているのですか。
椋:それはもう抜かり無くやっています。剛性は極めて高いです。やっぱり屋根のないオープンカーですからね。横転した時が怖い。頭部を守ってくれるロールバーがあるのですが、この強さもものすごいです。
あ、動画を見ますか?こんな実験は法律では求められていないのですが、僕ら、ここまでやっています。横からクルマを突き飛ばして、ゴロンゴロンと転がしちゃうんです。ほら(笑)。
こういって椋本さんはS660の横転実験のビデオを見せてくれた(動画はこちらのページからご覧になれます)。それは「衝撃映像」と言っても良いくらいに迫力のあるものだった。

F:(画像を見ながら)うわー。こりゃヤバい……うわわ。まだ転がっている。ここに見える青い棒はなんですか?
椋:下のブレースですね。剛性アップに寄与しています。横転時にちゃんと頭を守ってくれるBピラーです。絶対味わってほしくない性能ですが、僕らここにもうんとこだわってやっています。
「フルオプションで400万円超えのお客様はザラにいます」
F:凄いなぁ。ここまでやってお値段はいかほどでしたっけ?
椋:198万円から210万円ですね。
F:コミコミで300万円超になるモデルも有ると聞いたのですが。
椋:それはオプション込みの価格ですね。フルオプションで400万円超えなんてお客様はザラにいらっしゃいます。電動のテールゲートスポイラーを付けて、ホイールの色を変えて、幌を赤にして、と積み重ねていくと。
F:400万!軽自動車で400万円!
椋:思い入れの強い方が多いんですよね。
F:メーカーオプションも充実しているようですが、それ以上に多くのサードパーティー品も出ています。開発責任者として、そうした改造についてはどう思われますか。メーカーからベストバランスで出しているのですから、勝手な改造はやめて欲しいというエンジニアの方も多くいらっしゃいますが、椋本さんはどうですか。
椋:僕ら、このクルマは素うどんだと思っているんですよ。
F:へ?す、素うどん、ですか……?
椋:うん。僕らが提供しているのは素うどんです。良い出汁を使った極上の汁に、コシのある麺の最高の素うどんを出しますから、あとはお客様のお好きなうどんにして下さい、ということです。
F:なるほど。お揚げをのせきつねにしても、天カス入れてたぬきにしても。
椋:天ぷらうどんでも肉うどんでも何でもOKです。好きなものをトッピングしてもらって、お客様が自由に楽しんでいただければ良いなと思っています。あれこれ制限したくないんですよ。
いま若い人のクルマ離れが言われています。このクルマも、やっぱり買う人は40代、50代の方が中心です。でもそれはそれで良いと思っています。40代、50代の人がスポーツカーにカッコよく乗ってくれて、街でスポーツカーを見かける機会が徐々に増えていって、そうしたら若い人も、「なんかスポーツカーってアリかも……」と思うかも知れません。
ラーメン屋って、行列の出来る店がますます流行るじゃないですか。あれと一緒です。なんか人がたくさん並んでるから、俺らもちょっと並んでみようか、みたいな(笑)。
コーラに素うどんにラーメン。椋本さんの話には食べ物の例えが多く登場する。
電子制御をoffにできない理由
F:意地でもお尻を滑らせない、過剰なほどの電子制御の介入も同じ理由ですか。街で事故った姿をみせたくない、という。
椋:そうですね。僕らのコンセプトは、誰がいつ、どんな状況で乗っても楽しめるスポーツカーです。ミッドシップのクルマって、限界域は高いけれども、滑りだしてからのコントロールがものすごく難しいんですよ。もの凄く高いドライビングスキルが要求されるんです。
いったん滑り始めたら、少し腕に覚えのあるレベルの一般ドライバーでは、とても御すことが出来ません。快適に、安全にドライブして頂くためには、どうしてもあれくらいの介入が必要なんですよ。何しろミッドですから。
F:電子制御をoffに出来ないのはなぜですか。希望が多いと思うのですが。
椋:やっぱり誰もが安全にというところがベースなんですよ。スイッチひとつで簡単にOFFれると、冒険心から「ちょっとやってみるか」となるでしょう。でもミッドシップは滑り出しちゃったら誰もコントロールできませんよ。よほどのスキルがなければ。
簡単にドカンと行っちゃいます。事故を起こしちゃいます。するとどうなるか。「あぁ、やっぱりああいうクルマは危ないよね」。必ずこう言われます。僕ら、それだけは避けたいんです。事故が増えれば、ゆくゆくはスポーツカー離れにつながってしまう。やっぱり事故は起きてほしくないですもん。
F:うーん。でもそこは自己責任ということで……。
椋:それと、基本的には安全装置がある状態というのが今のホンダの安全思想なんです。これは全社での統一事項なので、S660だけが特別扱いという訳にはいかないんです。
F:なるほど。最後に1つ。S660を採点すると、椋本さんは何点を付けられますか。
椋:100点満点と言いたいですね。もう今、すでにすごく楽しんでくれているお客さんもいらっしゃいますし、その方にこことここがダメだったんで80点ですなんて言えないですよね。
このクルマに乗ると、40代50代の経験豊富なドライバーの方に、「そうそう。クルマに乗るのって、こういう感じだったよね」って思い出してもらえると思うんですよね。単純にクルマに乗るんじゃなくて、自分が若返る感覚があるんじゃないかなと思うんですよね。
僕らはこれを「童心に戻る」と言っています。初めて自転車を買ってもらったときって、どこに行くわけでもないけど、その辺をキャーキャー喜んで走り回ったじゃないですか。S660に乗ると、あの感覚を思い出してもらえると思うんですよね。

電制解除スイッチが付いていないことをして、「ホンダらしくない」という批判がある。
だが椋本さんのお話を伺うと、解除できない「安全の押し付け」もまたホンダらしさと見ることが出来る。
絶対的は速さは無いけれど、ともかく楽しい。
最後はクルマが助けてくれるけれど、ともかくコントローラブル。
そしてなによりカッコいい。
S660は、「今のホンダ」と「これからのホンダ」が凝縮されたクルマではあるまいか。
来週はいよいよ最終回。ユーザーインタビューに移ります。
お楽しみに!
輸入車市場で盛り上がりをみせるPHV
こんにちは、ADフジノです。
ようやく大団円を迎えたS660開発者インタビューですがいかがでしたでしょうか。その一方でいま輸入車市場で一気に盛り上がりをみせているのが、プラグインハイブリッド車(PHV)です。“プラグイン”の名があるように、プラグを利用して充電可能な電気自動車とハイブリッド車とを融合したモデルです。
メリットとしては、一般的なハイブリッドカーより大容量のバッテリーを搭載しているためより長くEV走行ができること。通勤や買い物などの近距離はEVとして、長距離ドライブはハイブリッド車として走行できるというものです。
一方でデメリットは、EV同様に充電設備が必要なこと(なくてもハイブリッドカーとしては走行できますが)。バッテリー容量が大きいため、コストや重量がかさむこと。また室内や荷室容量が多少犠牲になることなどがあります。
日本でも昨年のフォルクスワーゲン「ゴルフGTE」や、BMWの「X5 xDrive40e」などドイツメーカーを皮切りに一斉にPHVが導入されています。最近、いくつかに試乗する機会がありましたのでここでご紹介します。



実はハイブリッド同様にこのプラグインハイブリッドでも国内で先鞭をつけたのはプリウスでした。先代より設定されており、2009年には主に官公庁向けのリースがはじまり、2012年には一般販売が開始されています。しかしあまりにもベースのハイブリッドモデルが人気なため、少し割高なPHVは日陰の存在となっていました。
その年末には、三菱がSUVであるアウトランダーのPHV版アウトランダーPHEVを発売しています。12kWhというプリウスの倍以上もの大容量バッテリーを搭載し、カタログ上、満充電で60.8kmの走行が可能です。基本的にエンジンは発電用に使うことを前提に開発されており、バッテリーの容量が低下した場合には、エンジンが自動的に始動して発電を開始し、モーターとバッテリーに電力を供給します。また緊急時やアウトドアなどでの給電機能もしっかりと備えています。
欧州勢はいまCO2排出規制や米国のZEV規制などを見据え、このPHVへと一気に舵を切っています。試乗するとそれぞれに欧州車らしい良さがあるものの、日常使いするならば、平日は毎日往復20km程度の決まったルートの通勤や移動にEVとして使用、週末はハイブリッドカーとして遠方へドライブするなど、基本的にはEVと同様にルーティンなルートでの使用がメインでなければ金銭的なメリットは享受しにくいかもしれません(もちろんEV走行できる心理的な気持ちよさはあります)。
そうした中で、現時点でもっともよくできたPHVを挙げるとするならば、他車がガソリン車をベースに設計されているのに対し、EVをベース設計された三菱アウトランダーPHEVということになります。それは、このタイミングでなんとも皮肉な話ではありますが・・・。
この記事はシリーズ「フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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