レース中でもカメラを向けられるとついやってしまいます。走っている間に全部で5回はコマネチしていますから、少なくとも20秒くらいはロスしています。ごめんなさい。もうしません。(Photo by 千葉智雄)
みなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
今週も明るく楽しくヨタ話からまいりましょう。
恒例のホノルルトライアスロンに出場してまいりました。
今年もオリンピックディスタンスのレースを中心に、たくさんのレースに参加しようと考えています。どフラットなコースで、距離も微妙に短いホノルルトライアスロンは、シーズン口開けの肩慣らしに最適の大会です。
ゴールをしたら嬉しいサプライズが! ハワイで活躍する花田美恵子さんが、レイで出迎えてくださいました。彼女が中学生の時に水泳をコーチしていたので、今でも会うと「ヤマグチコーチ」と呼ばれます。
中学の頃から可愛くて有名でしたからね。美人はいくつになっても美人なのだなぁ。美恵子さんのブログは
こちら。(Photo by 家倉呉美)
とまれ、こうして毎年大勢の仲間と連れ立ってレースに参加できるのは本当に幸せなことです。仕事とプライベートと健康のバランスが上手い具合に取れていないと続けられません。関係各位には心より御礼申し上げる次第であります。
Team ALAPAの面々と。今年も良いシーズンにしていきましょう!
今回ホノルルに来たら絶対に訪れたかったのが、Amazonが買収したことでも有名な「ホールフーズ」です。今まではクルマを飛ばしてカハラ店に行くしかなかったのですが、アラモアナからほど近い場所に大規模な新店舗がオープンしたのです。
日本では入手が難しかったり、やたらと高額だったりするオーガニックの調味料もたくさん揃っています。見て回るだけでも十分に楽しいです。
5月9日水曜日にオープンしたばかりのこの店、レジのお兄さんと話したら、「水曜日は忙しくて倒れるかと思ったよホント!」とのことでした。訪れた土曜日も大変な賑わいでレジも大混雑。少し重いですが、ショッピングカートではなくカゴで買い物をしてカゴ専用のレジに並ぶとスムーズに会計できます。今年の夏から、アマゾンプライムの会員は10%オフになるというプログラムも始まるとのこと。期待しましょう。
こちらはネットショッピングに押されて業績不振が伝えられるウォルマートの家電コーナー。Samsungの75インチ液晶テレビが何と1000ドルぽっきりで売られています。日本では大画面の液晶が高止まりしていますが、海外ではこんなことになっています。安く持って帰れる手段があるのなら本気で買いたいです。
75インチですよ! 4Kですよ! HDR付きでたったの1000ドルですよ奥さん! もちろん安いのは嬉しいのですが、作る側の苦労を少しでも知っていると、この「叩き売り価格」には涙が出てきます……。
今回も現地での移動の足はUberを利用しました。遂にホノルル空港でのピックアップが解禁され(地元のタクシー業者の反対が強く、なかなか実現できなかったそうです)、ますます便利になりました。無論時間にもよりますが、空港から街中まで自転車を載せられるLサイズのクルマに乗って30ドル台というのはやはり魅力です。
やはりアメリカはピックアップ大国です。ホールフーズの帰りにUberを頼んだら、アメリカで2番目に売れているクルマであるシルバラードがやって来ました。海軍時代に横須賀の基地勤務だったというドライバー氏、「新しいエンジンは、意外と燃費が良いんだよ」とのことでした。
さてさて、それでは本編へとまいりましょう。
予定ではトヨタのタイ工場見学記をお届けするはずだったのですが、このタイミングで2年と4カ月乗った愛車フェル号が売れたので、急遽「クルマを売ったらこうなった」をお送りすることとなりました。タイ工場のみなさま。申しわけありません。来週号で必ずや。
編注:以下のフェルさんの原稿は全部社名入りで書かれていましたが、事実にせよあくまでも一例であること、ご本人が自覚している以上に当コラムは(よくも悪くも)影響力があるらしいことに鑑み、社名はすべて伏せさせていただきます。ご了承ください。コメント欄での当てっこもお控えいただければ幸いです。小心者ですみません。(実はぜんぜんマイトじゃないY)
売る売ると言いながらも、なかなか行動に移らなかったのは、次のクルマが決まらなかったことと、業者さんにクルマを見てもらう時間の取れる週末に東京不在が続いていたからだ。次期フェル号が決定して納車時期が決まっても、「売ろうかな、面倒だな、2台持ちもありかな」などと呑気に考えていた。
そんなある日、イキナリ転機が訪れた。
なんと、走り慣れたいつもの通勤路を走行中、電信柱にミラーをヒットしてしまったのである。コードで繋がったミラーがだらしなくケースから垂れ下がり、フェンダーの先端も軽く擦っている。今までバンパーに小傷すら付けたことのないピカピカのクルマの変わり果てた姿を見て、イッキに心が「売りモード」に転換してしまった、というわけだ。
ヒットの翌日、早速会社の帰り道に幹線道路沿いの買取専門店に飛び込んだ。
気が動転していたこともあるのだろう。そこそこの値段が付いたら、1軒目で売ってしまおうと考えていた。飛び込んだのは最大手の一角、A社の大型店舗である。予約も入れず、ミラーが壊れたままのクルマで乗り付けた。
さすがは有名どころ。店内から店員さんが駆け出てきて、最敬礼で迎えてくれる。クルマを降りるとドーゾドーゾと店内に通されて、対面式のデスクに案内される。すかさずコーヒーが運ばれてくる。名刺をいただいて早速商談開始である。ご担当いただくのは、この店の副店長である。
アタマに血が上って駆け込んだA社
F:クルマを売ろうかと考えていた矢先に、ミラーを擦ってしまいました。これでもう私のクルマは「事故車」という扱いになってしまうのでしょうか。
副店長:まだおクルマを拝見していないので何とも言えませんが、その程度は事故車とは言いません。大きくブツけていなければ大丈夫です。ただし、Gクラスのミラーは20万くらいしますから、その分は通常の買取価格より低くなってしまうと思います。
そう言いながら、副店長さんは顧客シートを差し出した。その紙に、住所氏名電話番号等の個人情報を書き込み、「いつ売るか」「次のクルマは決まっているか」を記入する。次に購入するクルマは既に決まっている。納車は1週間後の予定である。同じタイミングでクルマも手放す。それらをすべて有り体に記入した。
副:次に買うクルマは決めておられるのですね。他のお店で買取価格は聞かれましたか?
F:いえ、ここが初めてです。
副店長さんはそうですかと言うと、往事のカーセンサーくらいの厚さの価格表を取り出した。
副:これが中古車買取価格の基準となる本です。クルマがどれくらいの価格で取引されているか、平均値が載っています。お客さまのおクルマは走行距離が少ないですし、とてもキレイに乗っておられるので、本当であればここに出ているよりもいい値段が付く筈なのですが、何しろミラーが壊れていますので……。
F:それよりも安くなってしまいますか。
副:基本的には安くなります。査定はすべて本部がおこなうので、何とも言えませんが。我々はチェック項目を埋めて、写真と一緒に本部に送って、本部が決めた値段をお伝えするだけなので。
鉄板のはずのGクラスが…!?
チェーン展開している買取店の多くは、このようにデータを本部に送って、専門の査定員が価格を決めるのだそうだ。副店長さんはパラパラと本をめくり、メルセデス・ベンツのページ探している。Gのページに行き着き、2016年式G350dの欄を指で追い始めた。
副:えーと……650万ですね。
650万! 車両価格1100万円のクルマが、僅か2年と少しでここまで下がってしまうものなのか。顔面からサッと血の気が引いていくのが自分でも分かる。
F:あ……あの……そんなに安くなってしまうものなのですか? Gクラスは鉄板車種で、ほとんど値が下がらないと聞いていたのですが……。
副:これはあくまでも基準値です。おクルマの状態により、これよりも下がることも、もちろん上がることもあります。おっしゃるとおり今までGクラスは鉄板だったのですが、右ハンのディーゼルが出て台数が増えてからイッキに値段が下がってしまいました。やはり台数が増えて一般的になると、それにつれて値段は下がってしまうものなのですね。
F:安い……。ショックです。もっと高く売れるものかと高を括っていました。
副:まあ、本部からの連絡を待ちましょう。
しばらくひとりポツンと待たされる。手持ち無沙汰でスマホを覗くと、担当編集マイトのYからいつものように「いい加減にしてください。約束は昨日の朝ですよ」と、怒りの催促メールが届いている。うるせえ。今それどころじゃないんだよ。
程なくして、タブレットを携えた先の副店長さんが戻って来た。
副:お待たせしました。本部から価格が届きました。
F:いくらになりますか?
副:えーと、619万ですね。
F:……は?……。
副:ですから、買取価格は619万円です。
フェル、顔面蒼白
副店長さんは、無慈悲な医者がガンの告知でもするような口調でそう言い放った。
あのねぇ、日本人の死因は悪性新生物、つまりガンが第1位。あんただけじゃないんですよ。でもまぁまだ早期ですから希望はあります。オペの日程を決めましょう。はい次の患者さん……そんな感じだ。
顔面からさらに血が引いていき、背中に冷たい汗が走る。舌先が痺れてきた。2年と少しで500万円もスッてしまったのか。気が遠くなる。
F:あ、あの……先程650万とおっしゃったのは……。
副:ですからあれは基準値です。ミラーの交換をしなければいけませんし、フェンダーの塗装も必要です。店頭に並べるまでには、いろいろとコストがかかるもので……。
とてもこの価格では納得できない。アチコチ回るのは面倒なので、1軒目で決めてしまおうと思っていたのだが、考えを改めねばなるまい。
F:もう少し高く売れるものだと思っていました。他の業者さんと比較しますので、いったん保留させてください。
副:……いくらなら売るのですか?
F:は?
副:ですから、いくらでなら売却をお考えですか? 我々としても、どうしてもこのクルマは買わせていただきたいので。希望価格をおっしゃってください。
交渉の余地があるということか。それにしても、「いくらで買います」ではなく、「いくらなら売るか?」という言い草はどうなのか。
F:売る方としては、もちろん高いほうがありがたいです。800万……いや、850万円でどうでしょう。
私がそう言うと、「それは店頭販売価格ですよね」と副店長さんは鼻で笑うように言った。この人は客商売に向いていないのではないか。それから本部にもう一度聞いてきます、と言って席を立ち、3分ほどして戻ってくる。
副:700万でいかがでしょう。この場で決めていただけるなら、700万円で買い取ります。
「比較サイトに電話すると大変なことになりますよ」
一声で81万も跳ね上がった。価格が上がるのは嬉しいが、一声で13%も上がるとなると、逆に不信感が湧いてくる。それでは最初に言った値段は何だったのか。
F:やはり他の業者さんと比較をしたいです。今日はこれで失礼します。
副:どこへ行かれても同じことですよ。結局はみんなオークションに出すのですから、最終的に値段はどこも同じになるんです。
F:複数の会社が同時に見積もり価格を出してくれるサイトがありますよね。あれを試してみようと思います。
副:あれに頼むと、電話がジャンジャンかかってきて大変なことになりますよ。結局クルマを見ないと値段は出せませんから、10社に頼んだら10社が順番に来るわけです。あと、小さな業者は、初めにうんと高い価格を提示しておいて、あとから「二次査定の結果、100万円安くなります」とか平気で言ってくるので気を付けてください。クルマを渡してしまってから言ってくるのですから、お客さんとしてはどうしようもありません。この業界、本当にいい加減な業者、悪質な業者が多いんですよ。
F:二次査定。そんな言葉があるのですか。
副:他にも本来なら月割にして返すべき自動車税を返さなかったり、預かったクルマで事故を起こして価格が下がりましたと言ってきたり、酷い会社が結構あるんです。
F:つまりB社とか、大きな会社で売ったほうが安心ということですね。
副:B社さんは輸入車弱いですよ。あそこは国産専門と思ったほうが良いです。正直な話、これ以上の価格は他では絶対に出ないですよ。ウチも本当に頑張っている値段ですから。
「いま現在」の価格で押してくる
他では絶対に出ない。そこまで言うか。ますます不信感が湧いてくる。
F:一応他の会社も当たらせてください。本当にA社さんが一番であれば、こちらに戻って来ますから。
副:いまお伝えした値段は、あくまでも“いま現在”の値段です。来週になればまた変わります。基本、中古車価格は下がり続けるものなのです。いま決めていただければ、この値段を保証しますので。
ともかく「この場で決めろ」のプレッシャーが強い。最終的に、「他の店の値段が出たら必ず教える」ことを条件に解放していただいた。商談の印象は100点満点で60点というところだろうか。
帰宅してGoogleで検索し、上位に出てきた「7社同時見積もり」のサイトに登録をする。A社の副店長氏が言ったとおり、翌日から大変な電話攻勢……は、しかし始まらなかった。
7社の内、電話をかけてきた業者は4社だけで、そのうちの一社は既に見積もりの済んだ先のA社である。内部の連携はあまりよろしくないようだ。
一番に連絡して来たのは最近とみに元気なB社で、2番目がA社の別部門、次いでC社、D社である。後半の2社は初めて聞く社名である。各社とも直接ケータイに連絡をしてきて、「他の会社と同じ時間に呼ぶのは止めてください」というのも共通している。
どこも「すぐに売る予定」というキーワードに敏感に反応し、一概に「ぜひこのクルマを買わせていただきたい」と言う。
ここで結論を先に言ってしまうと、最終的に決めたのは、失礼ながらあまり聞いたことがない社名のC社である。他の3社は「他社はいくらと言っていますか?」ということをシツコク聞いてきた。ところがC社だけは、「それはマナー違反なので伺いません。当社としてベストの価格を提示させていただきます。その代わり、ウチの値段も他社に伝えないでください」と言ってきた。
その紳士的な対応に惚れた……わけでもなく、C社に決めた理由は単純に買取価格が一番高かったからだ。
B社脱落、D社は連絡をよこさずブッチ
商談の順番は、一番初めにA社の実店舗、次いでC社、B社、D社の順である。A社の提示価格が700万、C社が買取保証価格728万、委託販売価格が745万、B社とD社は最初からギブアップであった。
C社は、買い取ったクルマを自分の店に一定期間展示して販売を試みる仕組みになっている。3週間以内にそこで売れれば、私には745万円が振り込まれる。3週間経っても売れなければ、彼らはオークションに流し、私には保証価格である728万円が振り込まれるという仕組みである。「ウチの出した価格は他に言わないでください」と言われていたのだが、卑怯者の私は高く売りたい一心で他の業者にもC社の価格を躊躇なく伝えた。
価格を聞いたB社は、「正直、ウチは輸入車が今ひとつ弱いんですよ。今後の課題なんですが……。いずれにしてもその価格にはかないません」、と言ってその場でギブアップした。商談は成立しなかったが、やりとりの印象は非常に良かった。
最後に千葉から来たというD社。時間をかけて査定をしていき、「明日中に価格をご報告します」と言ったきり、音沙汰がない。電話もなければメールも来ない。ギブアップするのは勝手だが、連絡くらいはよこせないのか。なるほどA社の副店長が言うとおり、「いい加減な業者」は実存する。
C社から聞いた話では、私が一括見積もりサイトに登録した情報は、一件当たり3500円で買取業者に販売される「メシの種」なのだそうだ。業者はさらに交通費をかけて客の自宅や勤務先にやってくる。「無料査定」の段階で、既に結構なコストが発生しているのだ。
だから彼らは必死である。必死になり過ぎて、他の会社の悪口を言ったり、これ以上の価格は絶対に出ない、等という根拠のないこともつい口走ってしまうのだろう。
売る側としては、業者の勢いに押されないよう、落ちついて交渉する冷静さが必要だ。
今回買い取っていただいたC社の担当者は、トヨタのディーラーで定年まで勤め上げた“自動車販売のプロ”だった。「売る側」から「買う側」に180度方向転換を図った、ということになる。
「クルマを売るのと買うのと、どちらが楽しいですか」と尋ねたら、「実はディーラーの営業担当って、クルマの仕入れ価格を知らされていないんですよ。だから日々の仕事で、自分がどれほど会社に貢献しているかが全く見えないんです。一方で買取業者は、仕入れ値も売値もすべて見えますから、断然こちらの方が楽しくやり甲斐がありますね」とのことだった。
割り込んですみません、担当Yです。
すべてが終わった後、フェルさんが電話してきて、こんな話をしました。
「で、フェルさんの結論としてすべてはカネだ、ってことですか」
「いや、原稿ではカネカネ書いたし、実際に金額がC社に決めた一番の理由だけどさ、担当者の方の人柄が良かったことも大きかったのは間違いないんだよね」
「へえ、人柄。紳士的、って書いていたところですか」
「それもあるけれど、うわべの態度が丁寧だ、ってことじゃなくて、委託と買取の値段を明確に出してくれたり、ロジックをちゃんと説明してくれたのが嬉しかった。紳士的と言うより、公正、フェアであろうとする態度、ってことかな。つまりは、自分の仕事が好きだし、プライドを持ってやっていらっしゃるんだろうと思えた」
「ああ、なんかわかります。仕事でもそういう人に会えると嬉しいですよね」
「これからクルマを売る友達には、この方を紹介しよう、と思ったくらいだよ。Yさん、あの太古ベンツそろそろ売らないの。紹介してあげようか」
「売る気はありません、結構です!」
と、思わずガチャンと電話を切ってしまいました……。
C社に引き渡す直前の写真です。なんか車がさびしそう……。
今回は中古車買い取りというセンシティブな話題に素人目線で切り込んだので、カーセンサーの出身で、中古車のプロである高橋満氏にキッチリとフォローしていただこう。
それではマンちゃん、あとよろしくー!
こんにちは、AD高橋です。
フェルさんの愛車売却、急展開でしたねぇ。実は昨年から「クルマを手放そうと思う」という話は聞いていたのですが、一向に動き出す気配がなかったので思っているだけなのかなと感じていたのですが(笑)。それにしても、人柄でこの人! と決められて、しかもそこが条件良いというのは最高ですね。やっぱフェルさん、持ってるなあ。
今回の実録レポートをみなさんと同じように読んで、興味深い部分がいくつもありました。そのあたりを客観的に見ていきましょう。
まず大前提として、今回の話はフェルさんがこのタイミングでGクラスを手放すことにした際の“ひとつの事例”です。もしみなさんが今回の記事を読んでクルマを手放そうと思っても、車種やクルマの条件、売却タイミングが違うので同じような流れにはならないことを、しっかりとご理解ください。
「この場で決めていただけるなら」の背景を探る
さて、フェルさんが最初に訪れて査定を依頼したA社。
副店長が話す(鼻で笑う?)ように、800万~850万円というのは販売価格でした。カーセンサーを見ると2016年式で走行距離1万~2万kmの中古車がだいたいこの価格で売られています。
2016年式だと、流通している中古車の8割近くが右ハンドルのディーゼル。副店長の言うとおり、市場で供給過多になっている可能性があります。実際、この年式のG350dはわずか3カ月で平均価格が30万円以上落ちていました。買い取る側としては今後も同じペースで値落ちしていくリスクを考慮した査定をしたのでしょう。万が一長期在庫になってしまったら、仕入れ価格より下げないと売れないという可能性もありますからね。
ところで、A社は「この場で決めていただけるなら」と新たな買取価格を提示しました。これは実際の査定現場ではよく聞く話です。なぜこのようなことが起こるのでしょう。
まず、中古車相場は常に変動しています。フェルさんのGクラスのように数カ月で30万円も相場が下がることもあれば、逆に相場が上がることもあります。
でも、買取店を訪れるお客さんは今すぐ売却する人ばかりではありません。たとえば店で査定額を聞いてから買い替えるかを検討しはじめ、次のクルマを探し、納車日が決まってから「クルマを売る」とやって来る人もいます。そうなると査定してから数カ月、人によっては半年~1年後に売却することになる。
そういうお客さんに最初に「今ならこれ!」という査定価格を伝えてしまうと、数カ月後にトラブルになることもあると言います。時間が経って相場が下がっているからお店はその額では買い取れない。でもユーザーはその時聞いた額で購入計画を立てているから、高く買い取ってくれないと購入資金が足りない。これが原因です。だからお店はトラブルを避けるために、平均価格などを伝えるようです。
逆に、本気で今すぐ売却するということならば、お店は利益を見込めます。もし他のお店に売られてしまったらお店はまったく儲かりません。そこで、最大限頑張れる価格を提示して自分のところで仕入れる努力をします。
ただ、B社が「ウチは輸入車が弱い」と言ったように、お店によって得意不得意があります。たとえば軽自動車ばかり扱うお店に突然Gクラスが並んでも、お客さんはまず来ないでしょう。
A社を擁護するつもりはありませんが、副店長はフェルさんが「他と比較する」と話したことで「この人は本気で売却するつもりだ」と判断し、“今なら価格”を提示したのかもしれないですね。ただ、なぜ買い取り価格が急に跳ね上がったのかの説明がないと、フェルさんのように不信感が芽生えても仕方ないと思います。
ちなみに「“今なら価格”はどの程度有効なのか?」とある買い取り店に取材で聞いたことがありますが、「本当にその場で決めた場合のみ有効と思ったほうがいい」とのことでした。
数日のうちに相場が変動する可能性がありますし、翌日にはクルマを探しているお客さんが他の店で購入を決めてしまう可能性もある。そして「査定担当はその場で契約を決めたいからこそ、本部に無理を言って高値を付けていることもある」とのことです。数日後に「やっぱりオタクにクルマを売るよ」と連絡しても、その時点であらためて査定額が算出される、と思っておきましょう。
修理してから売るべきか?
また、今回フェルさんのクルマはミラーが壊れ、フェンダーを擦った状態でした。このような場所を直してから査定をしてもらうべきか。これまた、悩ましいところです。
あくまで一般論ですが、キズやヘコミはそのままの状態で査定に出したほうがいいでしょう。修理する際は部品代以外に工賃もかかりますが、査定で引かれるのはその金額よりも低い(部品代+αくらい)ことが多い、と言われています。
最後に、フェルさんがちょっと触れた「委託販売」について。
委託販売とは、愛車を買取店に売却するのではなく、店頭に展示してもらってお客さんを待つ方法です。オークションなどを通さない分高く売れる可能性はありますが、個人的にはあまりおすすめしません。
フェルさんが利用した店舗は委託販売をシステム化し、事前に期間や金額を取り決めているので大丈夫でしょう。ただ、一般的な委託販売だと
- クルマが売れるまで現金が手元に入らない
- 委託で売れなかったときに買い取りを依頼しても、相場が下がっている可能性が高い
- 手数料や保管料が必要
- 展示中にいたずらの被害にあった場合の責任問題
など、慣れていない人にはいろいろと悩ましいことが付きまとうからです。個人的には買い取りまたは下取りで名義変更もきっちりやってもらって、すっきりした気持ちで次のクルマに目を向けるほうが安心かなと思います。
ところでフェルさんの新車、なんでしょうかね。やっぱり……?
この記事はシリーズ「フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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