みなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
長いお休みですっかり頭がボケてしまいました。
通常の会社員モードに戻るには、数日の“暖機運転”が必要なようです。
ということで、リハビリがてらのヨタ話からまいりましょう。
私の勤務する会社は連休の中日もドカッと休みにしてくれていまして、4月28日から5月6日までの9連休。私は金曜の夜から出かけましたので、結構な長期休暇となりました。
で、今回出かけたのは当欄でも予告していたタイはバンコクです。
旅の主たる目的は「食」にあります。
バンコクはAsia’s 50 Best Restaurantsのベスト10にランキングされている店が3軒もある文字通りのフーディー都市。アジア1位を4年連続で取り続けている名店GAGGANも、ここバンコクに在るのです。パッポン通りのゴーゴーバーも結構ですが、バンコクへ来てアジアNo.1の店に行かないテはありません。
すべての料理を手で食べさせるGAGGAN。タイの店ですが、供するのはインド料理。和のテイストも存分に織り込まれており、ペアリングを頼むと日本酒(出羽桜!)も出てきました。
食事は1コースのみのプリフィックス。ワインのペアリングを頼むと円換算でお一人4万6千円と結構なお値段でしたが、それでも予約は軽く4カ月待ち。時期によっては半年待ちという人気店です。しかしGAGGAN氏は、この店を2020年でクローズすると宣言しています。「レストランの寿命は10年である」と。
電気じかけの曇りガラスで仕切られていたキッチンは、あるタイミングでパッとクリアになります。キッチン横のこの席が特等席。こうしたサプライズも人気の秘密でしょう。
伝説のレストラン、「エル・ブジ」のOBであるGAGGAN氏は、2020年以降福岡に進出するとも話しています。どのような店になるのでしょう。今から楽しみです。
すべての料理に豆腐か豆乳が使われています。美味しかった。
もう1軒はこちら、先のGAGGAN氏と福岡は西中洲の三原豆腐店とのコラボレーションである「Mihara Tohuten Bangkok」。
こちらで豆腐を仕込んでいるのかと思いきや、水も豆腐も毎日九州から空輸しているのだそうです。すべての料理に豆腐か豆乳が使われており、「まさかコレにも豆腐が……?」という料理もありましたが、奇をてらったものは一品もなく、大変美味しくいただきました。
三原豆腐店は元Jリーガーがセカンドキャリアとして始めた珍しい店です。昨年は福岡トライアスロン(今年は諸般の事情で中止になりました……)の打ち上げで本店に行ったのですが、こちらも楽しい店でした。
タイは失業率が非常に低く、日本以上に人員の確保が難しいそうですが、しっかりとしたスタッフが食事を楽しく盛り上げてくれました。
トライアスロン仲間の三戸政和選手が物した『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』。
兵庫県議会であの号泣議員と同期だったという経歴を持つ彼のデビュー作は、イキナリ重版が掛かるという売れっぷり。一緒に食事をした日はamazonでも売り切れ状態となっていましたが、本稿が上がる頃には新しい版が刷り上がっているでしょう。帯を見るとまるで堀江氏の本のようですが、ちゃんと三戸くんが書いています(笑)。お勧めします。
で、予告していたトヨタのタイ工場見学ツアー。行ってまいりました。
今回の記事のヨタで軽く触れようと思っていたのですが、創意と工夫に満ち溢れた工場はやはり抜群に面白い。ヨタで収まるボリュームではありませんので、次次回に一本の記事としてお届けします。こちらもお楽しみに!
部外者立入禁止のエアシャワーを浴びて入る塗装ラインも見せていただきました。再来週の記事にご期待ください!動画付きでお送りします!
せっかくタイに来たのですから、涅槃仏に参拝して来ました。大きいなぁ。
ということで本編へとまいりましょう。
気が付いたらマツダ地獄の藤原大明神並みの長期連載になってしまったトヨタのハイラックス特集。
今回お送りするのはユーザーインタビューです。
長らく国内販売から遠ざかっていたハイラックスの復活を決めたのは、北海道にお住まいのハンターから送られてきた熱烈なビデオレターであったことはお伝えした通りである。
実際はシティユースされている方がほとんどなのだが、できれば本格的にオフロードで使われる方にお話を伺いたい。しかしインタビューのために北海道まで出張るのも難しい。
さてどうしたものかと思案していたら、友人でホンダのワークスレーサーで絶版車販売日本一の会社の社長でヨット乗りでハンターの植松忠雄氏が「え? 俺ハイラックス買ったよ」と言うではありませんか。日頃の善行の賜物でしょうか。真面目に生きてきて良かったです。
F:しかしまさか植松さんがこのタイミングでハイラックスを買うとは思ってもいませんでした。そういえば植松さんはハンティングをやるのでしたものね。本当に助かりました。よく売れているクルマとはいえ、そうそう街中で見かけるものではありませんから。
植:フェルさん、こうして本当に取材して書くんだね。僕はてっきりヤラセなのかと思っていた(笑)。
F:な……な……
植:だって実際に乗っている人をつかまえるなんて難しいでしょう。あとはメーカーの仕込みの人を出すとかさ。
F:あー、それは絶対にやりません。当欄の読者はとても厳しいですから、仕込みをやると一発で見抜かれます。ユーザーインタビューは必ず足で探して、どうしても見つからなければゴメンナサイで飛ばしてしまいます。ロードスターと結婚したような、特殊な人をマツダからご紹介いただくとかの特別なケースを除いては、全て正真正銘の突撃インタビューです。だからこうして知り合いが当該のクルマをお持ちだと、本当に助かるんです。
植:なるほどね。実生活とは違い、こっちはちゃんとやってるんだ(笑)。
F:な……な……
植松氏は絶版バイクの専門店、「ウエマツ」を経営する社長さんである。それと同時にデビュー以来破竹の進撃を続けるスーパー耐久ST-TCRクラスのModulo CIVIC TCRを駆るホンダのワークスドライバーでもある。そして本格的なハンティングを楽しむハンターでもあるのだ。ハイラックスを“作る側”からすれば、「芯を食った」ユーザーであると言えよう。
F:主にハンティング用としてこのクルマを買ったのですか。
植:そうですね。ハイラックスは完全にハンティング用。やはりこのピックアップというボディ形状が決め手となりました。
「ダサいでしょこのチョッキとキャップ。でも銃を持ったら必ず着用しなければいけないんだ」
F:今まではどのようなクルマに?
植:ハンティング用としては、ジムニーの23、ランクルの80、あとはハイラックスサーフの2006年最終型の3台ですね。乗ってきたと言うか、これらは現有のクルマです。
入れ替え? とんでもない!
ジムニーのJB23は20年落ちの中古でも50万円以上の値が付く軽自動車界の至宝である。
ランクル80もハイラックスサーフ最終型も、中古市場でタマ数の少ない希少車である。
さすがは絶版バイク店の経営者。値落ちが少ない(それどころか値上がりしてしまうこともある)クルマを上手に選んでおられる。
F:その3台のうちのどちらかと入れ替え、ということですか。
植:いや、それぞれに思い入れがあり愛着のあるクルマばかりなので、簡単に手放すわけにはいきません。今回は増車ということになりますね。
F:はー。クロカン車を4台も……。
植:それぞれに使い道が違いますので。特にジムニーは狭い日本の林道では重宝するんです。車体が軽いからどんなところでもトコトコ登って行くし。ランクルやハイラックスも凄いクルマだけど、ある意味でジムニーは世界最強の四駆かもしれない。パタンと倒れちゃっても2人いれば自力で起こせるし(笑)。今度久しぶりにフルモデルチェンジするんでしょう。フェルさん、あれは絶対に試乗しておいたほうがいいよ。いいですよジムニーは。
F:ありがとうございます。それじゃ試乗リストに入れておきます(スズキの広報の方、その際はよろしくお願いします)。先程ピックアップのボディ形状が決め手になったとおっしゃいましたが、ハンティングにはやはりピックアップがいいですか。
植:そう、やはり仕留めた獲物の臭いとか血液とかがかね。最近は害獣駆除の名目で鹿を撃ちっ放しで捨ててっちゃう人がいるんだけど、我々は必ず解体して肉にして持って帰るので。
F:はー。撃ちっ放しで獲物を捨てていってしまう人が……。
植:県によって条例が違うのだけど、大型動物は埋めるなり焼却するなり行政に処理を依頼するなりして、キチンと死体を処理しなければいけないわけ。それを面倒くさがってやらない人がいるんですよ。呆れたことに。それを目当てに熊が下りてきたりもするから、衛生上の問題だけじゃなく、本当にいけないんですよあれは。
F:なるほど。しかし今までお持ちだった3台はいずれもクローズドボディのクルマです。
血とか臭いとかは大丈夫だったのですか?
砂や埃の侵入防止として、山を歩く時は銃口にこのような指サックを付けている。獲物が出たら、外さずにこのまま撃つのだそうだ。
植:車体後ろにヒッチカーゴを取り付けて運んでいましたね。さすがに中には積めないので。
上の写真でモトコンポを載せている部分がヒッチカーゴ。ヒッチカーゴは、牽引時に使うヒッチメンバーにキャリアを取り付けたもの。車体からのはみ出しは全長の10%以内まで認められていますが、ナンバープレートや灯火類が隠れるのはNGです。
F:このクルマはいつ納車されたのですか。
植:暮に来たばかりだから、まだバリバリの新車です。募集開始と同時に申し込んだのだけど、結構時間がかかりましたね……。と、まあここで話していても仕方がないから、ちょっと山に入ってみましょうか。フェルさん今日は試乗車で来ているんでしょう? 実際に山に入ったほうがいい写真も撮れるだろうし。
(このインタビューは1月中旬に実施されている。前田さんのインタビューが予定よりも長く続いたので、かくも長期間寝かせることになってしまったのだ)
F:え? 今からですか? でも山に行く時間なんてありますか。
植:大丈夫。すぐ近くだから。
どんどん山奥へ。コスったらどうしよう……
言うが早いか、植松氏はオフィスを出てクルマに飛び乗ってしまった。
こうした「即断即決」が商売成功の秘訣なのだろう。
中央高速に平行した下道をしばらく走り、住宅街を抜けるとすぐに山に入る道があった。普通の乗用車だと躊躇するほどに轍が深いが、懐の深い(最低地上高が高い)ハイラックスだから気にせずに入っていける。轍の道はじきに凹凸の激しい山道になった。
ケータイで植松氏に連絡を取る。
「あの、このあたりで良いんじゃないですか。もう十分に山奥だと思いますけど……」
「もう少し行きましょう。いい場所があるから。いい写真が撮れますよ」
どんどん先に行ってしまう植松号。ちょ、ちょっと待ってください。
トヨタの広報はクルマの管理にことのほか厳しいので有名だ。ホンの少しのかすり傷でも絶対に見逃さないであろう。そして日経BP社は万一試乗中にクルマを傷付けたら、完全に「自己責任」なのである。いい写真は撮りたいのだが、足が出るのは嫌だ。この辺で引き返しましょうよマジで。
サーキットでは鬼のように速い植松氏だが、オフロードでの運転は実に慎重だ。「急」と名が付く操作は一切おこなわず、グリグリとゆっくりじっくり登っていく。
植:このあたりでいいでしょう。どうですか。なかなかの場所でしょう。
積み重ねてきた歴史とノウハウへの絶大な信頼
植松氏の言う通り、オフロード車の撮影には絶好のポイントだ。八王子の中心部からクルマで15分程度の場所に、このようなオフロードがあったとは知らなかった。きたるべきジムニーの試乗でも、ここへ来てみよう。
F:いま日本でピックアップを買うとなると、数は限られてくるのですが、それでもいくつかの選択肢があります。ハイラックスを選んだ理由は何ですか?
おかげさまでカタログに出てくるようないい写真が撮れました。
植:ハイラックスを選んだ理由? それはハイラックスだからです。何かもっと気の利いたことを言えればいいのだけど、フェルさんみたいに言葉が商売じゃないからね、上手い言い方が見つからない。本当にハイラックスだから買ったとしか言いようがない。
F:ハイラックスを選んだ理由は、ハイラックスだから、ですか。
植:そう。積み重ねてきた歴史があるし、それに伴って培ってきたノウハウもある。ハイラックスには絶対的な安心感があるんですよ。壊れないしね、強いですよやっぱり。まだこのクルマで実際に狩りには出ていないから、あまり利いたふうなことを言ってはウソ臭く聞こえてしまうけれど、やっぱりいいクルマなんですよ。パッケージとして完成されたクルマです。
F:このクルマで実際にオフロード走行はされたのですか?
植:そりゃもう。13年ぶりのハイラックスの新車ですからね。納車されたその日に走りに行きました。やっぱりディーゼルはいいですよね。粘りがあって良い。ジワーッと登っていける。
F:あ、今お持ちのサーフはガソリンエンジンでしたっけ?
植:うん。サーフの最終型は日本ではガソリンしか売っていないので。
F:なるほど。これから改造していく予定はありますか?
植:しばらくこの形で楽しんで、5月くらいからイッキにやろうと思っています。バンパーを替えて前後にウィンチを付けて、カラーにもうんとこだわって。
取材時は荷台カバーだけだったが、今頃はファクトリーで大改造が施されているはずだ。
F:ウィンチって前後に付けるものなのですか? 前だけなのかと思っていた。
植:そう都合よく前から上がればいい場所にハマるとは限らないからね。まあプーリーを使ったりして工夫をすれば前だけでも良いのだけど、前後に付けていたほうが圧倒的に便利ですよね。安全だし。ワイヤーをアチコチに走らせると、それだけリスクは高くなるわけだから。
F:ハイラックスを買おうかと悩んでいる人に、何かメッセージをお願いします。
植:メッセージ? 俺が他の人に? 特にないけどなぁ。フェルさん適当に書いておいてよ(笑)。
F:そうはいきませんよ。ぜひご自身の言葉で。
植:困ったな。まあアレです。これから気候変動で冬には大雪が降ったり、夏にはとんでもないゲリラ豪雨が降ったりするらしいので、こういうクルマも良いんじゃないですか。東京で大雪が降ったりしたら、それこそコンビニにも行けなくなるので。
F:ありがとうございました。
そして植松さんにお話を伺った翌日が、奇しくも東京豪雪の日なのであった(こちら)。
東京は植松さんの予言通りに、「コンビニにすら行けない」状況に陥った(行けたところで、商品はなくなっていたのだろうが)。
レジャーやファッションのつもりで買ったクルマが、都会でリアルで役に立つ日が本当にくるのかもしれない。
さて、長らく続いたハイラックスの大特集。
お約束通りタイの工場見学記をお届けしようと思っていたのだが、先日愛車フェル号が売れたので、緊急特集として「クルマを売ったらこうなった」をお届けすることにする。
店によって100万円以上も差がつくのですからね。ホント凄い商売があったものです。
それではみなさまごきげんよう。
軽のリフトアップに意外な需要が?!
こんにちは、AD高橋です。
8代目ハイラックスの開発責任者である前田昌彦さんは、現行型ハイラックスを日本に導入した経緯を、北海道の鹿撃ちの方から「トヨタさん、次のはいつ出してくれるの。俺たちは次に何に乗ればいいの? 日本ではもう売らないの?」と言われたことだと説明してくれました(こちら)。
猟師は仕留めた獲物を積むクルマとして、ピックアップトラックを選ぶ。なぜなら血なま臭いものを室内に積みたくないから。
実はまったく同じ話を私は3年ほど前に聞いたことがありました。
某出版社で私の担当をしてくれていた編集E君から会社を辞めたという連絡が入りました。今後は自身の経験を活かしながら食の生産者をサポートする仕事をすると言います。
そして彼は漁師の方と一緒に漁船に乗り込んだり、狩猟免許を取得してハンターと一緒に山に入っていったりしているのです。
猟師にとってハイラックスは最強の相棒です。絶対的な4WD性能はタフな山道をものともせずに登っていけます。そして仕留めた獲物は広い荷台に載せることができる。ただ、彼が入る山は道が狭く、軽自動車しか入っていけない。そこで活躍するのが4WDの軽トラックです。
中でもダイハツのハイゼットデッキバンは猟師が4人乗れて荷台もあるので、需要が高いということでした。
ハイゼットデッキバンは、軽商用1BOXのハイゼットカーゴをベースに荷台を付けた特装モデル。4人乗り+荷台という組み合わせは家庭菜園を楽しんでいる人などからも需要があると言います。一般的な軽トラックより荷台は小さくなりますが、山で仕留めた獲物を積むには十分な広さがあるそう。
また、軽自動車のカスタムショップを取材した際にはこんな話を聞きました。
そこはファッション志向のカスタムとして、軽自動車のリフトアップを売りにしていました。リフトアップしたエブリイワゴンやハスラーの迫力はなかなかのもの。お客さんの多くはカスタムカーを街中で乗りますが、ほとんどの人が4WDを選ぶそうです。理由はリフトアップ+大径タイヤでアウトドアテイストが増すため、「やっぱ4WDでしょう!」と考えるから。
ところが最近、このカスタムが思わぬところで注目されているというのです。それは林業従事者やハンターなど、山の中でクルマを使う人たち。軽自動車は4WDでも車高がそこまで高くないので荒れた林道を走ると下回りをぶつけてしまう。そんな人たちのために日本にはジムニーという最強モデルが存在しますが、ただ、ジムニーだとホコリまみれの荷物や獲物を室内に積むことになるため、室内を汚したくない人から「4WDの軽トラックをリフトアップしてくれ」と頼まれるのだとか。
そのショップは山の中で求められる機能がわからないので、山の中でクルマを使うプロに話を聞きながら、彼らのニーズを満たすカスタムカーを開発していると話していました。
日本ではオンリーワンの存在であるハイラックスですが、意外なカスタムカーがライバルになっていくかもしれないですね。
この記事はシリーズ「フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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