みなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
今週も明るく楽しくヨタ話から参りましょう。
人事異動のシーズンで、当コラムも編集担当とコーディネーターが同時に入れ替わるという“刷新”がなされた訳ですが、新天地を求めて日経BP社を退職された方もいらっしゃいます。仕事ではご一緒したことがありませんが、何度も一緒に走って飲んだ瀬川明秀さんです。
これからコンサル業に転じて、web業界にドカンと喝を入れられるそうですが、たくさん飲んだので具体的に何をやるのかは覚えておりません。企画書お待ちしております。
それにしてもこの店は旨かった。この焼き鯖鍋なんか最高でした。改めて来てみましょう。
異動のシーズンは引っ越しのシーズンでもあります。拙宅の近所でも、いくつかの引っ越し風景を見かけましたが、これはひどい。
もう少し道の隅に停めるとか配慮はないのでしょうか。マナーが悪すぎます。
こちらの引越し業者、私の友人が住む麻布のマンションでは余りのトラブルの多さにより管理組合から「使用禁止令」が出されたのだとか(実話)。何でも同社は、オリコンが実施する「日本顧客満足度ランキング引越し会社第一位」だそうですが、顧客満足が周囲の不満足により成り立っているようでは困るんですよね。
トライアスロン仲間の森本君と吉村君がサハラマラソンに出場するので、壮行会を開きました。砂漠の中を6ステージ7日間。荷物を担いで延々250キロも走破するという酔狂以外の何ものでもない過酷なレース。IRONMANに飽きた仲間内では密かに流行っておりまして、高じてアマゾンとか南極マラソンに出場する人まで出る始末。経営者は自ら進んで困難を求めると言いますが、リーマンの私には全く理解が出来ません。とまれ、武運長久をお祈りいたします。
ドクター森本(右)と会計士吉村くん(左)。しかしムチャしはりますなぁ。どうか道中ご無事で。
壮行会とは名ばかりで、結局いつも通りに飲めや歌えの大騒ぎをしただけなのでありました。
友人の保村良豪くんが、二子玉川に新しいレストランを開きました。
「CHICAMA CAFÉ」
内装工事が遅れてしまい、トレーニング期間が実質二日間しか取れなかったとのことですが、どうしてどうして、プレオープンから淀みのない実に見事なオペレーションでした。
この会社は、もともと国立、吉祥寺周辺にドミナント展開をしていたのですが、原宿の出店で大成功して、エリアの拡大を始めています。ピザにパスタにパンと、ともかく粉モノが美味しいのです。二子玉川の駅から徒步2分もかかりません。お試しあれ。
社長のヨシタケ君と店長さん。ここは間違いなく流行るでしょう。沿線の人は、わざわざ都心に出なくても、ニコタマで映画を見て、ここで食事をして軽く飲んで帰る、なんてコースが定着するかもしれません。
さてさて、それでは本編へと参りましょう。
レクサス最大の売れ筋商品「RX」を軸にしたレクサスの開発者インタビューであります。
名車LS(日本名セルシオ)を引っ提げて、レクサスが米国でブランド展開を始めたのが1989年。今から30年近くも前の話である。どんなに品質が向上しても、またどんなに性能が優れていても、「安価な大衆車」なるイメージを長らく払拭することができなかった日本製のクルマはしかし、レクサスの登場により、その見方を大きく変えられることとなった。レクサスは、「エエ物はエエ」というアメリカ的合理主義に大いに歓迎され、初年度から1万台超という見事なセールスを達成したのである。
北米で着実にブランドイメージを構築し、向上させてきたレクサスは2005年。満を持して祖国日本に逆上陸することになった。しかし逆上陸当初、日本のマーケットは極めて冷淡だった。「トヨタのバッジを付け替えただけ」とまで言われる始末だった。
逆上陸から今年で12年。最近何となくレクサスがイケている。欧州車から乗り換える人も出始めている(このことについては、後日掲載するRXのユーザーインタビューで詳しくお話しよう)のだ。今回のインタビューでは、RXという個体に限らず、広くレクサスというブランドについてもお話いただいた。
お話を伺うのは、レクサスのチーフエンジニアである加藤武明さんである。
F:はじめまして。フェルディナント・ヤマグチと申します。今日はよろしくお願いします。
加藤さん(以下、加):こちらこそ。よろしくお願いします。
F:先週までレクサスRXをタップリと試乗させて頂きました。人と荷物を満載して、高速道路を走り、雪道も走りました。細かいケチを付ければキリがありませんが、レクサスもいよいよ世界的なクルマになってきたな、というのが正直な感想です。とても良かったです。
加:ありがとうございます。
F:今回のモデルチェンジは4代目、レクサスが逆上陸した当初、RXは「ハリアー」という名前で、トヨタのブランドでも売っていました。中身は同じクルマなのに、バッジを替えて100万円以上も価格差を付けて売っている、と悪口を言われていました。
加:RXは、先代の3代目から、ハリアーとは全く別のクルマになりました。2代目のハリアーは2003年に立ち上がっているのですが、日本ではレクサス店が2005年に開業した後、2009年に3代目RXが登場して、国内でも初めてRXという名前で出した時に2代目ハリアーと併売していました。2012年ぐらいまでです。つまり世界的に見ると、2代目から3代目にバトンタッチしているのですが、国内だけで見ると、2代目というか、ハリアーが残っている中で3代目が立ち上がっているんですね。
F:併売していた。トヨタでハリアーを売りながら、レクサスでRXを売っていた、と。
加:はい。ただし残したハリアーは2.4リッターと3.5リッターV6のガソリンエンジン、そしてハイブリッドで、当時我々が3代目として出した、いわゆる「RXとしてのRX」はV6エンジンです(後にハイブリッドと2.7リッターを追加)。ハリアーはもともと2.4リッターとV6の2本立てです。ちなみに2.4リッターは国内でしか売ってないエンジンです。
F:エンジンが違うとは言え、当時は「どうせ中身は同じクルマだよね」と言われてしまいました。実際にそれが理由で忌避していたお客さんも多かったと思います。どうして中身が同じハリアーを残し続けたのですか。悪く言われる声は、当然トヨタにも届いていたと思うのですが。
加:クルマ自体の完成度が高いし、新しいし、ハリアーはとても人気があったんです。ですから当然、国内のトヨタブランドとしてハリアーを残したい、という販売店さんからのご意見が大きかったんです。
F:あ、なるほど。ディーラー網が……。トヨタは国内販社がとても強い力を持っているから……。
加:長らくトヨタブランドを愛してくださっているお客さんは、やはり尊重しなければいけません。ちなみに、ハリアーというクルマは、あくまでもレクサスRXとして開発したクルマです。当初はそれをハリアーとして販売したのです。国内では当時、まだレクサスブランドがなかった訳ですから。
F:しょうがなくやったと(笑)。
加:まあ、あの……しょうがなくと言われてしまうとアレなんですが……(苦笑)。
新コーディネーター高橋満:ちょ……フェルさん。失礼ですよ。少しは言い方を考えてください(汗)。
旧担当Y田:ああもういつもこんな感じですよ。じきに慣れますから。はっはっは。
新担当Y崎:…………。
引き継ぎのために取材に同席されている前任者Y田氏。晴れてお役御免となり高らかに笑い声を上げている。一方で終始うつむき加減の新担当Y崎氏。トヨタ東京本社の会議室では、明暗のコントラストがクッキリと浮かび上がる。人生いろいろ、仕事もいろいろである。
加:初代からRXとハリアーの根っこは一緒です。販売も同じタイミングで行っています。ただし、当時国内ではレクサスというブランド展開をしていませんでしたから、LSがセルシオとか、ISがアルテッツァとかトヨタの名前を付けて売っていた訳です。我々の中でハリアーというクルマは、あくまでも「レクサスのクルマを国内に展開する上での名前」という位置付けだったんです。
F:なるほど。ハッキリおっしゃいますね。
加:ただし、ハリアーという名前で売るものですから、レクサスでこだわってきたパフォーマンスに対して、国内のお客さんのニーズを考えると、4発エンジンがあっても良いよね、ということで、初代から国内だけは直4のエンジンを持っている、という格好です。
F:直4のエンジンはあくまでも国内だけですか。海外には一切輸出せずですか。例えば中国などでは売っていないのですか。
加:売っていません。ただ、世界を回りますと、いわゆるグレーインポート、並行輸入車が日本国内からどんどんどんどん流出していますので、並行としては海外に多数の4発RXが存在します。それらは正規代理店では売ってないものですから、いろいろな業者さんが、日本から持ってきて、いわゆるハリアーの名前そのままで売っている人もいれば、RXにバッジを付け替えて、レクサス仕様にして売っている人もいるという感じです。
F:ほー!面白い。海外では正規品では有りえないトヨタ印のハリアーで乗る人もいる。
加:その辺はグレーな話なので、我々も正確には把握していないのですが、やはり海外で日本車の信頼度は非常に高いですから、何かRXと名前が違うけど、これはトヨタだからきっと良いよね、と言って喜んで買っている人もいるという話です。並行輸入のハリアーにレクサスRX仕様の4発。そして正規モノ、といろんなRXが混在している国があるんです。おかしいのは、国内で新しいハリアーを売り出すと、直後にもう海外で走っているんですよ。我々は輸出をしていないのに(苦笑)。
F:面白い。実に面白い。いい話だなぁ、ねえY崎さん。
新担当Y崎:え?あ……そうですか。
加:特にアジア圏で多いのですが、ハリアーももう代を重ねて何年にもなるでしょう。既にハリアーとして認知されている部分があるんですよね。
F:並行輸入業者が勝手にやっていて、トヨタとしてはあずかり知らない話なのに。
加:はい。ハリアーのままで売れるみたいですね。ハリアーで売れるって、面白い現象だなぁと僕は思っています。ただ、これは我々トヨタにしてみれば、大変なビジネスチャンスを失っている事にもなりますので。
F:トヨタでは逆のパターンも有りますよね。海外でしか売っていないFJクルーザーが、並行輸入で日本国内でバンバン売れて、向こうでは3万ドルしないクルマを日本では500万近くで売ってボロ儲けしていた業者がありました。それでトヨタが何年もしてから追っかけでFJの国内販売に踏み切った、という。
加:追っかけと言われてしまえば確かに追っかけなのですが……。FJでもハリアーでもそうなのですが、今はネットの時代ですから、みなさんもう知っているわけですよね。自分の乗っているハリアーは、本来RXで売っているのだと。自分の国には正規で入ってないと。並行輸入で買うことはできるけれども、自分はやっぱり正規のクルマが欲しいというお客さんもいらっしゃるわけです。例えば並行輸入車を正規ディーラーに修理で持ち込まれた際に保証できるかと。それはやはり、保証できないわけですよ。
F:できませんよね。というか、するべきではないですよね。それでは正規のお客さんが怒っちゃいますもの。
加:はい。ですがそれでも自分たちのクルマをご愛顧いただいているお客さんである、というところもあるわけでして。ここはもう現地の判断になりますが。
F:なるほど。並行輸入車でもトヨタはトヨタ。レクサスはレクサス。自分たちの造ったクルマですものね。
加:無償修理はかなわないかも知れませんが、現地でもそれなりには対応しています。並行輸入車でもトヨタのお客さんですから。そうやっていい関係になれば、後々、正規ディーラーでクルマを買っていただけるかも知れませんし。
F:お!トヨタ的な優等生回答(笑)。
加:いや……(苦笑)。
かように和やかな雰囲気でインタビューは進んでいきました。
次号からはいよいよレクサスRX開発の核心に迫ります。
お楽しみに!
みなさま、はじめまして。
長くこの企画を担当していたADフジノ氏の後を引き継ぎ、ADを担当させていただくことになりました高橋満と申します。おそらくフェルさんには原稿内で「マンちゃ~ん」などと呼ばれることになるかと思います。どうぞお見知りおきください。
さて、今週よりスタートしたチーフエンジニアの加藤武明氏へのインタビューは、本企画初取材となる私にとってドキドキのスタートとなりました。そしてフェルさんの貪欲さに度肝を抜かれることに…。
右も左もわからない私は、レクサス広報部への取材依頼で「1時間で終わると思いますが念のため1時間半ほどお時間をいただけますか?」と話しました。インタビュー当日、フェルさんは取材スタッフ、そしてレクサス広報担当のY氏が時間を気にしているのもお構いなしにいろいろな質問をぶつけていきます。結果、2時間半にわたる超ロングインタビューとなりました(「あと10分で…」となってから軽く30分は話していましたね)。
ところで、加藤氏はレクサスのSUV以外にもさまざまな企画を担当されています。
レクサスが前回の東京モーターショー2015で世界初公開したコンセプトカーがLF-FC。「将来のレクサスのフラッグシップカーをイメージしたコンセプトカー」とアナウンスされたこのモデルはパワートレーンに燃料電池技術を採用し、ロングノーズショートデッキスタイルのFRベースで、前輪にインホイールモーターを採用した4WDとなっています。加藤氏はLF-FCのチーフエンジニアです。
今夏にアメリカで公開予定のリュック・ベッソン監督作品『VALERIAN AND THE CITY OF A THOUSAND PLANETS』。28世紀を舞台にしたコミック『VALERIAN』を映像化したこの作品に登場するSKY JETはレクサスと映画制作会社のEuropa Corpがクリエイティブパートナーシップを締結し、加藤氏とデザイナーが協力して生み出しました。下の写真からSKY JETのフロントにレクサスのF SPORTを彷彿させるスピンドルグリルが採用されていることがわかりますね。
これからも加藤氏への熱いインタビューが続くと思いますので、どうぞ楽しみにしていてください。
この記事はシリーズ「フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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