「数字だけを追い求めていては勝てない」

:現実の速さと、本当にお客様が味わうことのできる一番大事なポイントとの乖離があまり大きくなり過ぎることにも違和感を覚えるんだ。例えばフェルちゃんが夜中に首都高をシャカリキになって飛ばした所で、それが570馬力を炸裂させたことになるのかと。

 実際フェルちゃんが使えていたのは、せいぜい3000回転から6000回転ぐらいまでのトルクカーブのラインで、ピークパワーなんか殆ど使えてないんじゃないの、と思うわけよ。

F:使えてないでしょうね、殆ど。そもそも殆どパドルも叩いていないし。おまかせモードで走っていましたし(笑)。

:何て言うのかな、そういうことが語れる世の中にならないと、永久に日本のスポーツカー業界がインプルーブしないような気がするんだよ、俺は。

F:ポルシェは別格としても、アストンマーチンなどは最早速さでは勝負にならないですよね。それでもスポーツカーとして独自の世界を確立している。

:そう。お客さんは”速さ以外の何か別のもの”。つまりプレミアムな部分を評価して買っている。

F:GT-Rもアッチの世界に行きたい、ということですか?

:アッチの世界も表現していかないと、日本のスポーツカーは廃れる、と確信犯的に言っている。数字だけを追い求めていては勝てないと俺は思う。もちろん数字は大事、だからフェルちゃんの言う9000メートルの世界もリスペクトする。だけど、それはある範囲にブチ込めばよくて、「絶対いつもその世界にいなければダメ」というのもどうかな、というのが正直なところ。

F:世界最速の座にはいなくてもいいと。

:そうは言っていない。GT-Rの全てのモデルがそうではない。プレミアムエディションはその座にいなくてもいいけど、NISMOの方は、9000メートルの世界をもっと色濃く出して、アタマも取って行かなければ、と思っている。

F:最後にひとつだけ。プレミアムについて教えてください。田村さんに取って、プレミアムとは何ですか?

:他では決して得られない特徴的なもの。唯一無二なもの。それがプレミアムの一つだと思う。概念的に言うと、点の集合体が線だとすると、その過程を紡いでいく物の中に、きっとプレミアムでなければ表現できないことが有ると思っている。

 線だけでは表現できないから、そこにもう1軸増やして面にして、カタマリのような物を表現して。そこから質感のような物が生まれてきて……。

F:感覚、と言っても良いのでしょうか。他では得られない感覚。

:そう。感覚。でもここで難しいのは、デファクトのものはデファクトのもので、「普通こうだよね」という感覚のものと、「でもやっぱりこれが唯一無二だよね」というのが同居しているのがプレミアムなのだろうと思うんだ。だから完全にデファクトで、みんなと同じものだと、単なるモノマネになってしまう。ともかく背をうんと低くすればスーパーカーになるのか、というね。

F:GT-Rは決してモノマネじゃないですものね。唯一無二の存在と言って良い。

:一種無骨で、流麗でスリークなデザインでは決して無いけれども、唯一無二。「あいつ何だかスタンドアローンだよね」と言って貰えればそれでいい。他に無い存在で、1つの世界を表現し、強調できていれば、それがプレミアムなんじゃないの、と。

F:なるほど。

:悪い言い方をすれば、唯我独尊とも言えるかも知れない。

F:天上天下唯我独尊。お釈迦様ですか(笑)。

:孤立を恐れず、孤高に陥らず。そんな世界を表現していきたい。一方で孤立を恐れないが故に、ストレンジにし過ぎてもおかしいわけで。ストレンジとユニークは違うからさ。