「いつも心の何処かに必ずポルシェが引っかかっている」

:やっぱりポルシェは凄いんだ。絶対的、圧倒的に凄い。GT-Rを作っていても、いつも心の何処かに必ずポルシェが引っかかっているんだ。

 実はフェルちゃんだけじゃないんだよ。前より速くなったんですか、ポルシェとどっちが速いんですか。こう聞いてくるのは。極端な話、もうそれしか聞かれない。

 でも、こうなってしまったのは俺達も悪いんだ。今までそうやってGT-Rを推してきたからね。俺は速いぞ。俺ら2コンマ何秒だぞ、こんなことばかり言ってきたことに問題がある。

 せっかくGT-Rを通してお客さんをプレミアムの世界に誘っているのだからさ。タイムだけじゃなくて、さっき話したヒゲ取りの話とか、高速安定性の話とか、静寂性の話とか、そういうことをキチンと伝えていかなければいけないな、と思っているわけ。やっぱり点ではなく、線とか面で話をして行きたいわけ。

F:それはとてもよく分かります。ただ、「キーワードとしての数字」というのもとても大事じゃないですか。もちろん300km/h超えとか、0-100コンマ何秒なんていう世界は、普通に乗っている人にはまったく関係が有りません。サーキットにでも行かない限り、そんなパワーを出す機会なんて全く有り得ない訳ですから。

 でも伝家の宝刀じゃないですが、所有欲に対する訴求力って有るじゃないですか。俺の持っているこのクルマは、イザとなったら300km/hも出るんだぜ、というヨロコビ。実際にはイザなんてことは無いんですが(笑)。

:分かるよ、フェルちゃんが言っている意味はよく分かっている。

F:言わばダイバーズウォッチみたいな。9000メートルとか絶対に潜らないですよね。タンク背負って潜っても、せいぜい20メートルがいいところです。でもダイバーズウォッチを買う人は、5000とか9000メートルも潜れる、超オーバースペックなモデルを喜んで買うわけです。それで実際に潜る時は、カシオの安いのに付け替えたりして。リーフで傷付くと困るから(笑)。

:いるいる(笑)。

F:クルマと時計を並べてしまうのは些か乱暴かとも思うのですが、似ている部分も有ると思うんです。9000メートル潜れる時計と、300km/h出るクルマって。決してその世界までは行かないけれど、“それが出来るモノを所有している俺”っていうところがよく似ている。

:うん。有るだろうね。だからこのレベルまでGT-Rのスペックがまとまって来たら、そういう具体的な数字を語らなくても、コンマ1秒や2秒で口角泡を飛ばさない世界観や、大人の会話ができるようなスポーツ・カー・ワールドにしていきたいな、という思いがある。これが俺の卒業論文のテーマとも言えるよね。

F:田村さんの卒論、ですか?