F:時系列で整理をすると、椋本さんの入社が2007年。コンペに勝ったのが入社3年目の2010年。そして試作に1年ほど掛けて、伊東前社長が試乗されたのが2011年。ざっくりこんな感じでいいですか。

:はい。それでそれから、「お前は来月から栃木に行け」と言われて、引っ越しました。クルマを作る、ゼロから開発するのはそれまでいた埼玉・和光ではなくて、栃木の役割なんです。和光はどちらかと言うとデザインをする場所なので。同じ研究所の中でも、場所で役割が異なるんです。

 栃木の研究所にやってきたホンダの伊東前社長が試作車に乗り、「これは面白い!やろう!」と一言。

 伊東さんに関しては、「トヨタを目指してホンダをダメにした」とか悪く言われていたりもするけれど、F1への復帰を決めたり、試乗一発で軽スポーツにGOを出すなど、熱きホンダスピリットの持ち主でもあったのだ。

 歴史に“IF”は無いけれど、あの日、伊東さんが乗っていなければ、S660は日の目を見なかったのかもしれない。

 イキナリ栃木行きを命じられた椋本さん。勇躍乗り込んだ未知の世界は、一言で言うと「動物園」なのだった。いやあ面白い。最高に面白い。先を読みたいでしょう。

 でも腹八分目で止めておくのが健康には良いらしいです。健康第一(笑)。それではみなさまごきげんよう。

ホンダのスポーツ車ラインナップは
「フェラーリにもポルシェにも真似できない」

こんにちは、ADフジノです

今回もいい感じで盛り上がっております、S660開発者インタビューですが、そこで椋本さんもおっしゃっているように、とにかく軽自動車であることにこだわったのだそうです。じゃなければ意味がないと。

現在、国内の新車販売の約4割を軽自動車が占めています。ホンダの数字をみても、今年1−2月の国内累計販売台数が約12万台、そのうち軽自動車が約5万7000台ですから約半数を軽自動車が占めているわけです。S660は軽自動車ゆえに実現できた企画と言えるかもしれません。

一方で、クルマ好きのわれわれは妄想するわけです。S660をワイドボディにして1.3リッターくらいのエンジンを積めばもっといいスポーツカーができるのではないかと。もちろんハードウェアとしては実現可能でしょうが、ビジネスとして成立させるとなるととたんにハードルが高くなる。

世界中のスポーツカーの顔ぶれを見渡せばそのことがよくわかります。車両価格200〜300万円台で買える、オープンカーや後輪駆動のスポーツカーなど日本メーカー以外に存在しません。トヨタはスバルに開発と生産を委託することでトヨタ86&スバルBRZを、マツダはフィアット124スパイダーの生産を請け負うことでロードスターを、ビジネスとして成立させている。逆に言えば、スポーツカーをグローバルで成功させるためには、高価な価格設定にせざるを得ないということかもしれません。

そしていまホンダは以下のような考えをもとに、スポーツカーの生産を継続していこうと奮闘しています。

「需要のあるところで生産する」

1979年に米国で二輪車の現地生産を開始し、1982年には日本の自動車メーカーとして初めて米国で乗用車の生産を始めたその知見によるものだと言います。

昨年10月、ホンダはいまは日本のラインナップから消えてしまったシビックのスポーツモデル、新型シビックタイプRを発売しました。国内販売は750台限定、ちなみに生産はイギリス、価格は428万円。今年の3月3日をもって無事に完売したようです。

新型シビックタイプR。2リッターVTECターボエンジンに6速MTの組み合わせのみ。最高出力310馬力、最大トルク400Nmで、ドイツのニュルブルクリンク北コースでFF量産車最速となる7分50秒63のラップタイムを記録した

そして、2代目となる新型NSXの量産が今月末からついに開始されます。リーマンショックの影響でいったんは白紙撤回された次期モデル開発でしたが、開発拠点、そして生産拠点も日本でなくアメリカに置いて、ようやく市販化にこぎつけました。新型NSXのグローバル生産拠点はオハイオ州に設立された「パフォーマンス・マニュファクチュアリング・センター」で、熟練した技術者と先進的ロボットとの技術の融合で組み立てられるといいます。

先行してアメリカで販売が開始され、メーカー希望小売価格は156,000~205,700USドル(1ドル110円換算で、1716万~2262万円)となっています。いまのところ日本での価格や発売時期は未定ですが、おそらく年内にはアナウンスがあるかと。

新型NSXは3.5リッターV6ツインターボエンジンに、フロントに2基、リアに1基の3モーターを組み合わせたハイブリッドシステムで前輪左右をそれぞれのモーターで駆動し、トルク配分を変化させるトルクベクタリング機能をもつ4 WDとなる。トランスミッションは9速のデュアルクラッチ式だ。トータル出力は580ps/645Nmに達する。

いま世界的に見ればスポーツカーは高性能化、高価格化、先鋭化が著しく、一部の富裕層のものとなりつつあります。そんな中で、日本は大衆スポーツカーの選択肢が多い恵まれた国と言えます。無論、なぜホンダは日本で開発し、生産しないのかという意見もあるでしょう。

しかし、もはや日本市場だけをみてスポーツカーを作り続けるのは困難です。そしてホンダはこの時代においても、いろんな策を講じて軽自動車から2000万円超のスーパーカーまでをラインナップしている。それはフェラーリにもポルシェにもできない芸当なのです。