「いいからお前らやっちまえ」

:こういうコンペに勝つ人って、大抵はデザイナーなんですよ。やっぱり絵が描けるし、アイデアも面白いし。

 モデラー部門から出たアイデアがコンペに勝つということは今までに無かったんです。だから余計に盛り上がっちゃって。これは面白いでと。「これは俺らのクルマやで!」と。

F:良いですね。これは盛り上がるな。

:いいでしょう。そしたらそのうちに、「モックアップだけ作るんじゃつまらないや」という話になってきて、実際に走るクルマを作っちゃおう、ということになったんです。ちゃんとミッドにエンジンを置いて、パイプフレームにガワも付けて。デザインが見られて、何となくですが、走ることも出来るクルマを作っちゃおうと。

「モックアップだけ作るんじゃつまらないや」という話になってきて、結局、作っちゃいました。

F:あー、良いですねぇ。でも当初の会社との話からは大きく外れちゃいますよね。最初はモックアップだけの約束なのですから。

:そうなんです。外れちゃうんです。でもそこは当時の上司がうまくやってくれて。「いいからお前らやっちまえ」と。俺が役員に話をつけとくから、どんどん進めちまえと言ってくれて。

F:すごいな。理解もあるし、なにより交渉力もある方なんですね。上司の方は何というお名前ですか。お年はどれくらい?

:山本ですね。歳は分かりません。40代後半というところですかね。僕らはモックアップを担当する部署だったので、栃木の四輪R&Dセンターでクルマの開発をしている人たちにも助けてもらいながら、何とか1台走るやつを作り上げました。

F:良いですね。とても良いお話です。自分のような外部の者が言うのもヘンですが、何か昔のホンダらしいイイ雰囲気が漂って来たような感じがします。で、それを仕上げるのにはどれくらいの時間が掛かったのですか?

:あ、スミマセン。それは言うなと言われているんで……。ただ、1年以内で仕上げることは出来ました。

F:なるほど。その期間も、開発中の他のクルマのモデルは作らなければいけない訳ですよね。S660の源流となる試作モデルと平行して、本業というか、日常のお仕事としてのモデル作りも有るわけですよね。

:いえ。もうこの時には、「お前はもう他の仕事はやらなくていいから、こっちに専念せえ」と言われました。「お前は言い出しっ屁なんだから責任持ってやれ」と。僕だけじゃなく、部署の人の大半もこっちに専念することになりました。

F:ひょえー!この段階で、それだけの人材を張り付けたんだ。それ、工数だけ見たって凄いコストですよね。凄いな。

:本来のモデル作成の仕事は大丈夫だったのかな?まあでも、ホンダは潰れていないから大丈夫だったんでしょう(笑)。

当時の社長が「これは面白い!やろう!」

F:すごいすごい!良いなぁ。なんかホンダらしくすごく良いですよね。いいな。で、1年以内にその試作車が出来ましたと。それからどうなりましたか。

:そのクルマは、「自分たちで乗って終わり。以上!」の予定だったんです。だけどある日、当時、本田技研工業の社長だった伊東が栃木にやって来て、その試作車に乗る機会がありまして。何だコレは!と。

F:伊東さんは最後の選考会に顔を出されていた?

:いえ。技研と研究所は別会社ですから、伊東は出ていません。あくまでこれは研究所のイベントとしてやったことなので。うわさ位は知っていたのかもしれませんが。そこで実際に乗ってもらって、その合間にS2000で地元に帰った時の話なんかもして。

F:S2000ドン引き事件(笑)。

:そう(笑)。そんな話を聞いてもらいながら試作車に乗ってもらったのですが、「これは面白い!やろう!」ということに。

F:やろうと言うのは、製品化しよう、ということですか。

:そうです。製品化しようと。

F:S660は社長のゴーで生まれたということですか。

:はい。社長のゴーで決まったと聞いています。2011年2月のことです。