「覚えていません」「野々村議員じゃないんだから…」
F:4枚しかない内の大事な1枚がモンキーの写真1枚だけですか。それはどういう……。
椋:だってクルマだけで400もの提案が出るんですよ。選ぶ方はもう絶対に途中で飽きてしまうだろうなと。だからまず表紙で、「何だコレ?」って思ってもらうのが大切かなと思って。
F:なるほど。まずは表紙をうんとキャッチーにして、選考委員の心をガッと掴む。
椋:そうです。それで中2枚は僕の思うクルマはまあこんな感じですというのを入れて、最後は「ホンダを元気にしよう」みたいな、メッセージを1枚入れました。昔の良い時代の、元気っぽいホンダを象徴するものをパーッと何枚も貼っていって。
「昔の良い時代の、元気っぽいホンダ」。これは大切なキーワードだ。
F:具体的にはどのようなものでしょう。
椋:S800。昔のSシリーズとか、F1とか、あと「Do you have a HONDA?」って書いたり。いろいろ。
F:「Do you have a HONDA?」。一連のCMシリーズですね。あれは本当に良かった。
椋:良かったですよね。今見ても泣けちゃいますよね。
F:でもあのCMを打っていたのは2000年前後ですよね。つまりそれ以降の十数年、ホンダは椋本さんがプレゼン資料に貼りたくなるような製品を出してこなかった。出すことが出来なかった。
椋:それがどうなのかは分かりません。でも僕が好きなのはその頃のホンダなので……。ともかくその資料、他の人に比べるとめちゃくちゃ薄い内容だったと思います。
F:ご自身で“プレゼンの勝利”という風に思われますか?
椋:400の中から選ばれた10なのですから、まあプレゼンが良かったのかな。
F:選ばれた10案にはどのようなクルマがあったのですか?
椋:あまり覚えていないですが、ピックアップがあったりとか……。他は何だったかな。ちょっと思い出せないです。
F:野々村議員じゃないんですから……(笑)。
椋:ともかく10台残って、その10台は所員投票で決めるんです。次の3つに絞るのに所員全員が投票するんです。
F:10案の中から3案を選ぶのに技術研究所所員の全員投票!すごい。民主的ですね。
椋:そう。全員投票です。
F:所員さんは全部で何人いるんですか?
椋:分からないです。
F:……。
広報・石黒さん:あの……技術研究所の正確な所員数は公表していないので……。
S660の若きLPL椋本陵氏。この人は本当に自分のクルマ以外に興味が無いのだ。 選考委員が誰であるかも、ライバルがどんなクルマを提案したかも、自分が勤務する会社の人数さえも、全て「分からないです」で済ませてしまう。 だからこそ、あの魅力的なクルマを作り得たのかも知れない。 紙一重、ということなのだろうか。
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