みなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
先日某都営住宅の接道で、事故ったクルマが放置してあるのを見かけました。人をはねてそのまま逃走してきたのではないかと思わせるようなバンパーとボンネットの潰れ具合。警察に通報したほうがいいのでしょうか。
まさかひき逃げのクルマでは……。ボンネットの潰れ具合が気になります。
ここのところ続けて試乗車に乗っているので、自分のクルマに乗る機会がほとんどありません。納車から2カ月半が経過しているのに、走行距離は800キロちょっと。最近スキーには新幹線やら他の人のクルマやらで行くことがほとんどなので、せっかく用意したスタッドレスも出番がありません。そうこうするうちに雪はどんどん溶けていく。来週末には雪道を求めて上越辺りに出張りましょう。
この日はクルマ関係者が集まって我がG君の納車を祝う会が華やかに開催されました。みなさま締め切りに追われる中、本当にありがとうございます。
左から自動車評論家の渡辺敏史氏、島下泰久氏、河口まなぶ氏、メルセデス・ベンツ中央の小林浩之氏、私、メルセデス・ベンツ日本の伊藤節弥氏。
こちらは新生ALAPAの発起記念パーティー。この連載でも度々登場している、私が所属するトライアスロンチームです。メンバーがシャッフルされ、ややスリム化されたALAPA。今年も賑やかになりそうです。
遅くまで盛り上がりました。新しいビジネスを始めた人。出産間近の人。離婚5秒前の人。人生いろいろです。
中学時代からの同級生と野郎飲み。彼はビジネスで大成功し、現在は社会貢献モードに突入した篤志家です。カネがあれば飲むか遊ぶか変なもの買うかでスッてしまう私とは大違いです。無農薬で安全なコメの生産を試験的に始めるとのこと。これは始動したら拙稿「美味礼賛」で紹介しましょう……って、アレも随分と間が空いてしまいました。書かねば。
彼とはこうして年に1回のペースで飲みながら近況を報告しあっています。私ももっと頑張らねば……。
彼のようにドネーションを重ねる人もいれば、物を盗むクソ野郎もいるのが世の中です。サミットストア祖師谷店。この店のトイレからトイレットペーパーを盗む不届き者がいるそうです。物を盗むにしても、あんなにかさ張って安いものは割が悪いだろうに。
「警察に通報」ではなく、自ら「警察に連行」しようというのですから店長氏の覚悟も相当なものです。首根っこを押さえて近所の交番まで連れて行くのでしょうか。いずれにしてもお怪我のないようにして頂きたいです。
さてさて。それでは本編へと参りましょう。
世界初の量産型水素燃料電池自動車「トヨタMIRAI」の開発者・田中義和さんのインタビュー。まさかの第5弾です。しかし、引っ張ってるなぁ……。
期せずして5回目に突入したMIRAI田中さんのインタビュー。
ここまで長く続いたのは、ひとえに田中さんのお話がオモロイからだ。上がってきたテープ起こしの原稿を何度読み返しても、本当に捨てるところが見当たらない。夜中にPCに向かい、一人ニタニタしている姿はかなり異様なものだと思う。
このままオコシ原稿をフィルタリング無しでベタ貼りしてしまえばどんなにラクだろう、とも思うのだが、それでは私の役目がなくなってしまう。(いろいろとヤバいことも仰っているので)田中さんのお立場も悪くなる。広報有田くんのクビが飛ぶかもしれない。関係諸氏が平和に暮らしていくには、私が書くしか道はないのである。
タンクが爆発することは絶対にありません
F:燃料電池自動車(FCV)は水素を燃料としています。水素は火が着けば簡単に燃える危険物です。それが最大700気圧もの高圧でクルマの下に収まっている。素人考えだと、これはずいぶん怖い話です。例えばMIRAIが崖から転がり落ちたり、時速100キロで壁に激突したりしても爆発はしないのですか。
田中(以下、田):ああもう全く心配いりません。どうぞ安心して突っ込んで……とは言えませんけれど(笑)。
タンクが爆発することは絶対にありません。ちょうどここに衝突実験の映像があるのですが(PCを取り出して)、これを見てください。80キロの後突実験です。
F:後突……つまり80キロでオカマを掘られる。
田:そう。80キロのオカマです。このようにクルマにはかなりのダメージがありますが、タンクにまでは至らない。衝突後にタンクを取り出しても、傷一つ付いていないでしょう。
F:なるほど。でも衝撃には強くても、火が着いたらどうなるのでしょう。車両火災になったときに爆発したりはしませんか。
田:水素タンクには溶栓弁というバルブが付いています。車両火災になったときは、これが熱で溶けて水素を開放します。熱でバルブが開いて、水素を強制的に外へ出す仕組みになっています。
F:バルブが開いて水素を強制排出する。しかし燃えているクルマの中に水素を吹き出したら、それこそヤバくないですか。水素に火が着くのって、どうしてもあのヒンデンブルク号の映像を思い出してしまって……。
1937年に米国で、ドイツの飛行船・ヒンデンブルク号が爆発・炎上事故を起こした。英国の豪華客船タイタニック号沈没などと並び、世界に衝撃を与えた輸送用機器関連の事故。当初は浮揚用水素ガスへの引火が原因とされた。
田:MIRAIの溶融弁は、逆止弁式のもので、火が中に入り込むことはありません。クルマの右斜め後方に向かって水素が放出されるのです。そこに火が着いてしまえば、例えて言えばガスバーナーのような状態にはなりますが、映画「ダイハード」みたいにドカンと爆発することはありません。
F:ヒンデンブルクとかダイハードみたいにはならない。
田:絶対にならない。とにかく爆発しないようにしています。
F:満充填の状態でそのバルブが開放されたら、全量放出までにはどれくらいの時間がかかりますか。
田:およそ2分ですべて放出されます。その他にも水素センサーがついていて、万一水素がどこかから漏れ出したら、バルブがシャットダウンするようになっています。基本的にはタンクの中に閉じ込めた状態になります。
F:なるほど。普通の事故でパイプが折れたりして水素が漏れ出したら、すぐさまシャットダウンして、タンク内に閉じ込める。万一車両火災になりいよいよヤバいという状態になれば、今度はバルブが開いて水素を大気開放する。その際はクルマの右後方に向かってシューッと出す。
田:その通りです。ですから爆発は絶対にあり得ない。
水素タンクは2.25倍以上の圧力に耐えられる
F:スキューバダイビングで使う空気タンクは、5年に1度法定検査があります。200気圧のタンクなら、確か1.5倍の350気圧をかけて耐圧検査をやるはずです。MIRAIの水素タンクにも同じような検査があるのですか?
田:MIRAIの水素タンクは、車検の度に検査を行います。基本的には漏れ検査と目視検査で、耐圧検査はやりません。このタンク、日本においては15年間使ったらもうダメということになっています。しっかり作ってあるものなので、ちょっと厳しいなぁとは思いますが。
F:タンク寿命は15年と定められている。確かにそれはかなり厳しいですね。スキューバのタンクは離島なんかに行くと5回検査を受けた30年モノなんてのがゴロゴロありますが(笑)。
田:スキューバのタンクは1.5倍の耐圧検査をやったりするんですか? 水素タンクの場合、車検の際、元圧以上の圧を入れたりすることはありません。
F:MIRAIのタンクは700気圧です。実際にはどれくらいの圧力まで耐えられるものなのですか?
田:法的にクリアしなければいけないのは2.25倍以上です。もちろんそれ以上入れても大丈夫なように作っています。何万回ものサイクル試験も行います。
MIRAIの水素タンクは躯体部分に金属を使っていません。内側が樹脂で、その周りをカーボンリボンで巻いています。カーボンリボンには樹脂が含浸されていて、巻き付けるとジワっと含浸された樹脂が外へ出て来て、それを焼結させる訳です。コーティング樹脂を焼き固めて。そしてさらにその外側を傷付き防止用としてグラスファイバーで保護しています。
F:うーむ、厳重ですね。すごい。ちなみにMIRAIはどこの工場で作っているのですか。
田:今は元町工場ですね。実はここ、初の自動車専用工場なんです。初代のクラウンもここで生産されていました。初代プリウスもそうです。レクサスのLFA工房もこの中にありました。
F:すごい名門工場だ。LFA工房は、トヨタ選りすぐりの腕利き職人さんの集団と聞きました。
田:そう。実はその職人さん達が、まさにいまMIRAIをつくっているんです。
F:えー!マジすかそれ?見たい。これは絶対にいい記事になりますよ。
田:見られるんじゃないですか。あとは有田くんの動き次第やね(笑)。
広報有田:え……あ、そうですね……(汗)。
F:頼むよ有田くん。工場見学を何とか実現してよ。絶対にいい記事になるよ。
広報有田:が、がんばります……。
FCVをさらに展開していきます
F:工場見学の話が出たところでそろそろまとめに入りたいのですが、これからトヨタはFCVをどうするのですか。MIRAIだけでなく、さらに展開していくのですか。
田:展開していきます。トヨタは基本的にFCVを含む“環境車”は普及しないと意味がないと思っています。環境車の中でも、特にFCVは水素ステーションという特殊なインフラを使わなければなりません。だから自動車会社が思い付きで1発だけクルマを出して、あんまり売れなかったから後は知りません……、なんてことをしたら、それこそ世の中に大変な迷惑を掛けてしまうことになる。当然これはしっかり普及を目指して頑張っていかなきゃイカン訳です。
F:なるほど。水素ステーションを作った会社は既に大変な投資をしていますからね。
田:はい。ただ、あくまでも買ってくださるのはお客様なので。僕らはお客様に買って頂けるような魅力的なクルマを作らなきゃいけないということです。トヨタが独りよがりしてもしょうがないので。
F:クルマの仕上がりは十分に魅力的だと思います。あとは価格と水素ステーションの数ですね。ステーションが全国で80カ所では、何とも心もとない。アシ(走行距離)がうんと長ければいいですが、現状はまあ普通の乗用車並みですから。
田:そう。価格はもっと我々が頑張って下げなきゃいけません。
F:補助金含めて買値で300万円。300万円になったらグッと身近になると思います。
田:そうですね。ただクルマの価格には車格とかいろいろな要素があるのでなかなか一概には言い難い部分もあります。いずれにしてもクルマがうんと魅力的なものになって、さらにアフォーダブルな価格になるということが一番重要だと思います。あとはいまフェルさんが仰った走行距離の話ですが、今の参考値である650キロというのはJC08というモードでの値なんですね。
F:プリウスで40キロ走るというあの検査方法。でも実際には街中で40キロなんて走りませんよね。そもそも誰もそんな数字を期待していないし。7掛けがいいところでしょう。
田:ええ。それと同じなので。ザックリ言うと、一般的にもし7掛けと言われているとするならば、MIRAIの650キロもその7掛けだというふうに思っていただければちょうどいいかもしれません。
F:およそ450~455キロか。
攻めるか?とどめるか? MIRAIの悩ましさ
田:そうです。でもこの数字、ガン踏みするとアッと言う間に悪くなります。これはMIRAIに限らずEV全般に当てはまることなのですが、EV(電気自動車)は元々ロスが少ないクルマです。ロスが少ないシステムで成り立っているクルマは、ラフな運転をしたり高速道路に入ったりするとたちどころに燃費が悪くなる。高速になると何がキツいか。空気抵抗です。
F:空気抵抗は速度の二乗で効いてきますからね。
田:そう。二乗で効いてくる。EVやFCVはもともと非常にロスが少ない、一方でガソリン車は熱ロスだったりフリクションロスがあったりして非常にロスが多い。元々ロスが多いクルマと、非常にロスが少ないクルマが同じように高速に入っても、受ける空力ロスの絶対量は同じです、するとどうなるか……。
F:なるほど。もともとロス自体が少ないから、“分母”が小さい分、モロに空力ロスが効いてくる。一方、エネルギー効率の悪いガソリン車は“分母”が大きいから、数値的にはたいしたダメージを受けない。
田:そうです。EVやFCVは前提となるロスが少ないものですから。そこで急加速や高速走行などで負荷度合いがポンと上がったら、その影響がデカく出てしまう訳なんです。ガソリン車以上に乖離が大きくなる。
F:なるほど。
田:あとひとつイカンことは……イカンというか、これは良い事と表裏一体なのですが、MIRAIって変な音がしないでしょう。アクセルを踏んでもエンジンみたいに何かしんどそうな音がしなくて、振動が来ないでしょう。自分の言うのもアレなんですが応答性も良いじゃないですか。だからついつい知らないうちに“攻め”の運転をしてしまう(笑)。
「ついつい踏んじゃうんだよね」と素直に明かす田中さん。
F:確かに。MIRAIに乗ると気持ちいいから、つい飛ばしちゃいますよね(笑)。
編集Y田:どんなクルマに乗ったって飛ばすじゃないですか……。
田:結果的に攻める運転をストレスなくできるものだから、燃費は悪めに出がちになってしまいます。
F:例えばなんですが、高速でトラックの後ろにピッタリくっついて走ればかなり燃費は良くなりますか?
田:良くなるでしょうね。ピッタリ張り付くのはお勧めしませんが(苦笑)、それはかなり効くと思います。
2020年には生産能力が今の10倍になる計画です
広報有田:フェルさん。田中はそろそろ出掛けなくてはならなくて……。
F:そうでした。今日は何かの表彰式なんですよね。そろそろまとめに……ってさっきもまとめと言ったけど(笑)。
田:やっぱり燃料電池車って、エネルギーの様々な可能性を広げる先導役になるクルマだと思っています。水素という、今まで選択肢になかったエネルギーを、日本のように資源を持たない国が選択肢の1つとして持てるきっかけになればと思うんですね。このクルマがきっかけになって、いろいろな場で水素が使われるようになれば、我々としては望外の喜びです。
だから我々は水素社会の取っ掛かりとなるMIRAIを、本当に乗って楽しいクルマにしなければいけない訳です。環境だから、エコだから楽しくなくてもしょうがないよね、というクルマには絶対にしたくない。我々はエコに甘えたくない。MIRAIは我々が水素社会の幕開けを告げるフロンティアに、先導役になりたいという思いで作ったクルマです。
現状ではクルマの供給能力が十分ではなく、お待ちいただくことが多いんですけれども、実は2020年には供給能力を10倍に増やせるよう計画しています。
F:2020年。オリピックの年には今の10倍、つまり日産100台ですか!ひょえー!
田:そう。100台。年間で3万台以上作れるように、いま技術開発も頑張ってやっている最中です。
F:大変よく分かりました。今日は本当にありがとうございました。勉強になりました。
労組時代の血が騒ぐのでしょうか。興が乗ると「我々は」「我々はぁ!」を連発する田中さん。最後は新エネルギーに対する熱い思いを語って頂きました。
MIRAIはもはやトヨタ一社のためだけではなく、未来につながる新エネルギー活用の選択肢の1つとして産声を上げた、明日への礎なのかもしれません。
とはいえ、現状では水素を作るにも結構なエネルギーが使われています。
いろいろな説があり、本当のところは私にはよく分かりません。この辺りイワタニかJXエネルギーに取材をしたら面白いかもしれません。読者諸兄のご意見を賜りたく。
ご要望があれば、突撃取材をしてみましょう。「余計なことをせずにお前はクルマに集中しろボケ」ということであれば次のクルマにサッサと移ります。
さて、長きに渡って続いたトヨタMIRAIの大特集、お楽しみ頂けましたでしょうか。
次週からついにアレが始まります。アレですよアレ。ここのところ元気が無かったあの会社が、久々に放った元気玉。嬉しい楽しいあのクルマを、1週間たっぷりと味わってきました。
お楽しみに!
MIRAIが「ワールド・グリーン・カー」を受賞
ロードスターは「ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー」を獲得!
3月24日、2016「ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー(WCOTY)」の5部門が発表されました。環境性能に優れた車に贈られる「ワールド・グリーン・カー」には、トヨタ「MIRAI」が選出。田中さん、おめでとうございます!
そして、「ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー」はマツダ「MX-5(日本名ロードスター)」が獲得!本コラムにおいて全力でプッシュ(?)した2台がめでたくW受賞となりました。
すごいです。「日本」ではなく、「世界」カー・オブ・ザ・イヤーですから。某F氏が、「WCOTYの選考メンバーは、このコラムを参考にしているに違いない。前からそう思っていたんだが」とか、とんでもないホラを飛ばしそうでちょっとコワイのですが、とにもかくにも、おめでたい!
ちなみにロードスターは、「ワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤー(WCDOTY)」も受賞。この2部門の同時受賞は、初めてことだそうです。
いやぁ、すごいぞ、マツダ。仕事がうまくいってるんだなぁ。うまくいく上での何かしらの鉄則があるのかなぁ――。ん?「マツダ」「仕事」「うまくいく」「鉄則」……といえば、『仕事がうまくいく7つの鉄則 マツダのクルマはなぜ売れる?』。
すいません、ベタベタな宣伝で。現在、絶賛発売中です。
また、本書の出版を記念してイベントを開催させていただくことになりました。
著者のフェルさんが、トライアスロン仲間でモータージャーナリストの河口まなぶさんと「大人の愉しみ」について語り合います。
■場所:東京・下北沢の人気書店「B&B」。
■日時:4月18日(月)20時より
■テーマ:フェルディナント・ヤマグチ×河口まなぶ
「クルマとトライアスロン、走りながら考える大人の愉しみ」
この日は仕事を早めに切り上げて足をお運びいただければ幸いです。お申し込みはこちらから。
(編集担当:Y田)
この記事はシリーズ「フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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