みなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
トライアスロン仲間であるモリモトの柏木常務にご招待いただいて、今年で12回目となるアートフェア東京のオープニングに行ってきました。150ものギャラリーが参加する、日本最大級の国際的なアート見本市。
モリモトは、このフェアの協賛企業なんですな。同社は比較的リーズナブルな価格帯の作品を揃えた「Hopin’ Pocketful ポケットの希望」なるコーナーで、「アートのある暮らし」を提唱していました。
オープニングセレモニーには、時の人である“私人”安倍昭恵総理夫人が登場。
客席からは「よく出てきたな…」、とヒソヒソ囁く声も聞こえましたが、今の時期に逃げ隠れするのも却ってヘンですものね。舞台の左右はSPがガッチリとガードしており、さすがは総理夫人と感心していたら、観光庁長官と地方創生担当大臣も登壇されていたのでした。まあ完全に“主役”は昭恵夫人でありましたが。
アートフェア東京は、単なる展覧会ではなく、展示即売会の機能も併せ持っています。展示される殆どの作品が販売されている。値札の付いていない作品も、尋ねれば必ず答えてくれます。会場をご案内くださった東京画廊+BTAPの山本豊津さんによると、こうした場所で値段を聞くのは野暮でも何でもなく、むしろ積極的に聞いた方が良いとのこと。なるほど。
3連休を利用して、バリ島にバタバタと駆け足旅行をしてきました。GA(ガルーダ・インドネシア航空)の直行便を利用すれば、帰りは08:20に成田に到着する。頑張れば会社に間に合うのです。
今回はインターコンに泊まりました。良いホテルです。
バリ最大の繁華街であるクタで大規模な爆破テロが起きたのは2002年のこと。以降数年おきに島のアチコチで爆破テロが起きているので、ある程度のホテルはみな厳しい警戒体制を敷いています。ゲートはクルマ一台ごとに閉じられ、場合によっては鏡で床下をチェックしたりもしています。
ですがまあ海に出てしまえば平和なもの。パラセーリングをしたりノンビリ昼寝をしたり、慌ただしい日常から、しばしの解放です。
インドネシアは圧倒的にトヨタが強いと聞いていましたが、ここバリ島ではやたらとスズキのクルマを見かけました。道路事情が良くないからでしょう。日本よりも少し車高を高めにしてあります。
こちらはカリムンワゴンR。軽の覇者ワゴンRをベースに、エンジンとボディの大型化を図った5人乗りのコンパクトワゴンです。
ははは。これは楽しい。軽トラの荷台に座席を付けて、簡易バスの一丁上がり。南の島によく似合います。
今回の旅の主たる目的は“食”にありました。特に食べたかったのが、バビグリンというブタの丸焼きです。
今回もグロい画像でスミマセン。香辛料と野菜を腹に詰め、香ばしく焼き上げたブタちゃんです。パリパリした皮の部分が特に美味しい。
飲んで食ってゴロゴロして、尿酸値をガン上げして無事帰国いたしました。いや、無事じゃないか。旅先でケータイを紛失してしまいました。いまごろどこかの露天で売られているかも知れません。
モリモトの柏木氏と並んで撮った写真をはじめ、多くのデータも失くしてしまいました。今度こそクラウドにしなければいかんなぁ。連絡が取れずご迷惑をお掛けした方には、この場を借りてお詫び申し上げます。
さてさて、南洋モードのボケ頭を切り替えて、ぼちぼち本編へと参りましょう。NISSAN GT-Rの開発エンジニア、日産自動車ニスモビジネスオフィス兼第一商品企画部チーフ・プロダクト・スペシャリストである田村宏志さんのインタビュー続編です。
と、本編に入る前に、「今回の記事のテーマがなぜGT-Rなのか、なぜ田村さんなのか」というところをお話ししておきたい。当欄で取り上げるクルマを決定するプロセスは実は結構複雑である。
担当編集Y田氏を含む日経BP社の編集者5名と、外部の有識者5名。更に私とADフジノ氏が入った総勢12名の取材対象車選定会議でジックリ時間をかけて決められるのだ。日経側からのメンバーの一人、日経Automotiveの編集者は、主に技術面のアドバイスを、そして日経トレンディの編集者は、自動車マーケットの視点から助言を頂いている。さらに……
というのは真っ赤なウソで、実際は毎回行き当たりばったりの思い付き。「フェルさん、次回はどうします?相手の有ることですから早く決めて下さい」とフジノ氏にせっ突かれ、「そうね、前はミニバンだったから、次はスポーツカーにしよっか」、と答えるような、超テキトーな流れで決まっていく。
今回GT-Rに決定したのは、年末に田村さんから直接電話を頂いたからだ。
「2017年モデルのGT-Rには乗った?なに、まだ乗っていない?ダメじゃんそれ、すぐに乗らないと。俺が手配するから明日からでも乗ってよ」……と、こんな話から始まったのだ。
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「すごくそれが辛いんだ。いつも悲しいんだよ、実は」
田:今回フェルちゃんに(この辺りから、私の呼び方が“フェルさん”から“フェルちゃん”に変わってきた)来てもらったのは、日産自動車について、もっと知ってもらいたいからなんだ。極端な話、GT-Rの話はし飽きちゃった……とまでは言わないけれど、淡々とすれば良いかな、と思っていて。
自分の責任に於いて開発したクルマの話を「飽きた」、とはどういうことだろう。
田:フェルちゃんに電話をした時、「GT-Rに乗ってよ」と俺が言ったら、あなたはなんて返事したか覚えている?
F:自分の記憶に基づいて申し上げますと(稲田大臣調)、GT-Rは長いこと乗っていないし、大歓迎です、ありがとうございます。とお答えしたつもりですが……。
田:うん。確かにそう言ってくれた。でもこうも言った。「でも田村さん、最近の日産はぜんぜんイケてないスよね」と。
F:そ、そんなことを言いましたっけ……。
田:言った。俺には結構グサッと来た。日産自動車って、何か少し間違えて理解されていないかな、と思うわけ。みんなもっとちゃんと乗って評価してよと。
ボディー剛性がどうのとか、ハンドリングがこうのとか、プロが評価するそういう面は確かに大事なのだけれど、普通にお客さんが使って、普通にクルマと一緒に生活していく中で、どうしてこの日産車の良さが伝わらないのだろうと。すごくそれが辛いんだ。いつも悲しいんだよ、実は。
「日産車は表立って悪口を言われる」
F:普通のお客さんの感想、ですか。
田:そのあたりはフェルちゃんがすごく上手いじゃない。上手く書くじゃない。あなたいつまで経っても素人のまんまだから(笑)。ピッチングとかヨーイングとか言われても分からないでしょ。分かるつもりも無いみたいだし(笑)
F:それくらい分かりますよ。えーと、ピッチングはこっちの揺れだっけ……あれ?
ADフジノ:それはヨーイング。この前も教えたじゃないですか。1時間もかけて。酷いな、もう忘れたんですか。もう物忘れとかそういう次元じゃないですよ。
田:それがキャラ立てのための演技だってことも俺には分かっている……。と、それはともかく、マツダとかトヨタとかには、あそこまで深く切り込んでいて、トヨタなんかは章男さんまで引っ張り出して、ホンネを引き出しちゃった訳じゃない。
ヨソはヨソで良いんだけど、だったらウチだって深い話はいっぱい有るんだぜと。日産の歴史観とか、日産のクルマ作りを理解してもらいたい。もうちょっと、広げた伝え方があるんじゃないのかな、と思っていたんだ。
でもウチが新しい技術を出すと、みんな寄って集って重箱の隅を突くようなことを書くじゃない。例えばウチのDAS(ダイレクトアダプティブステアリング)。ステアバイワイヤのようなシステム。
F:ああ、ハンドルの軸がなくて、ステアリングの動きを電気で車軸に伝えるやつ。
田:そうそう。あのDASにしたって、ハンドリングがどうとかフィーリングがおかしいとか言うけど、技術の進歩の過程の中でいろいろ起きていることを、悪い面だけでなく、少し良い面もとらえて、うまいこと育てないとダメだよね。
F:新しいものが出ると、どうしても厳し目に書かれますよね。それこそ新技術満載のホンダのNSXなんてボロクソじゃないですか。乗った人みんながボロクソ言っているもの(笑)
田:ダメならダメで良いんだよ。全く新しいものが出たんだから。最初からバシッと感性に合うようにチューニングしていくのは難しいに決まっている。
俺らだってダメなところはダメという表現も甘んじて受ける。でもそれを良くすべく頑張っていきまっせと。死ぬ気でやってまっせと。それにNSXに関してだって、雑誌とかで表立って書く人は少ないでしょう。なのに日産車は言われるよね。ウチは表立って言われる。
「お前らは、もうスカイラインじゃないから出入り禁止だ」って
F:NSXには乗られましたか。
田:もちろん乗っているよ。かなり早い段階から乗っている。まあ他社サンのクルマの評価をこのフェルちゃんのインタビューでするのもナンだから、ウチの話に戻すけど、ウチだって最初のR32のころのクルマが完璧かと言われると、とても「はい、そうです」とは答えられない仕上がりだった。
それを時間をかけて、じっくり育てていった。GT-Rだって、R32のGT-Rから数えると、都合28年もかけて熟成してきたのだから。
F:スカイラインのGT-Rと、いまのGT-Rは分けて考えるべきなのですか。現行のR35になってから、GT-Rはスカイラインの冠を外しましたよね。これはもうスカイラインとは別のクルマですよ、と。
田:うーん。俺はスカイラインがどうとか、GT-Rがこうとかいう事にあまりこだわりは無いんだ。それよりも、クルマとしてどれだけ素晴らしいモノになるかという事が大事なのであって、出自なんて関係ない。
最高の商品を、ベストのクルマを作り込んでいって、それが最後にスカイラインGT-Rなのか、ただのGT-Rなのかという議論に対しては、「あっそう。ふーん」ぐらいにしか思わない。そうですか、そっちで行くんですか、みたいな。
F:その辺りはどうなのでしょう。「スカイライン」という冠にこだわる人は少なからずいるでしょう。クルマが良ければどうでもいいじゃん、という人もいれば、連綿と続くスカイラインの歴史をなんと心得る!という伝統主義のお客もいそうです。とくにスカイラインには。
田:それは両方いるから何とも言えない。俺の考えだけが正しいんだと、無理やり押し付けるつもりも無い。R35になってスカイラインの冠が取れたって、それはそれでリスペクトしまっせというスタンスだね。
F:田村さん的には名称はどうでも良いと。中身で勝負だと。
田:俺はね。でもこだわる人はこだわる。R35はもうスカイラインじゃないんだから、お前らはスカイラインのところに来るんじゃねぇ、とか言われたこともある。
F:ま、マジすか……。
田:「プリンス&スカイラインミュウジアム」というところでね。お前らはもうスカイラインじゃないから出入り禁止だ、と。
F:恐ろしや。殆ど宗教論争の世界ですね……。
田:それが今年、「来てもいいよ」と言ってくれて。また行ってもいいことになった。
「NSXの在り方は正しいのかもしれない」
田:言いたいのは、スカイラインはスカイラインで、GT-Rとは違いますと。でも作っている人たちは同じで、DNAは間違いなく受け継いでいますと。例えばステアリングを切った時の挙動とか、人車一体感と言うのかな、その辺の感覚は、すごくスカイライン的に作っているんですよと。
F:GT-RにスカイラインのDNAは受け継がれていると。
田:それじゃ今のスカイラインとGT-Rは、いったいどういう関係にあるのかと。現行スカイラインは、Q50をスカイラインとして作っている。一方でGT-Rは、昔のスカイラインGT-Rのイメージを大切にして作っている。古いと言われれば確かにそうなのかも知れないけれど。
F:昔のGT-Rのイメージを引きずって……いや、継承していると。
田:うん。だからNSXの在り方は正しいのかもしれない。だって、誰も分からないじゃない。誰も評価ができていないじゃない。今までの評価軸でジャッジしようとしているからさ。
何もない全く新しい世界にNSXをポンと置いて、さあこれはどうだと言ったら、あっちが新しくて、GT-Rはダメという評価が出るかも知れない。自動車の評論って、そういうところあるから。
F:うーん。僕はまだNSXに乗っていないので何とも言えませんが……。
田:フェルディナント・ヤマグチは、独自の視点で、自分の意見で決めているでしょう。あなた他の人の評論とかまーったく読んでいないでしょう。だから俺は面白いなと思っているわけ。だからあなたには長い時間を取って、GT-Rとは何の関係もない話を延々としている訳。普通だったら絶対話さないよね。歴史観とか、そんなものは。
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なかなか具体的な開発の話になりませんが、田村さんの特出話が面白過ぎるのでどうにもなりません。
次号も田村さんの怪気炎が続きます。お楽しみに!
スカイラインはいま
こんにちは、ADフジノです。
GT−R田村さんのインタビュー、またまた長くなりそうな様相を呈しております。
さて、今回の話の中で田村さんが「現行スカイラインは、Q50をスカイラインとして作ってある」とお話しされてますが、そのあたりよくご存知ない方のためにちょっと補足説明をしておきます。
このQ50というのは正確には「インフィニティQ50」というモデルです。インフィニティは、トヨタとレクサスの関係と同様、日産の高級車ブランドであり、1989年に北米市場で設立されたものです。レクサスのように、日本にも独立したブランドとして導入するという噂もありましたが、いまのところ実現していません。
前回の田村さんの話にも出ていていたR34型の時代まではスカイラインは国内専売モデルでした。GT-Rも同様で、この時代までは“スカイラインGT-R”だったわけです。そしてこの代でいったんGT-Rは生産中止になります。
一方で、スカイラインの歴史は続いていきます。ただし、生き残っていくために国内専売をやめてグローバルで通用するモデルへと大きく変貌を遂げたのが、R34の次期型となるV35型でした。日本国内では、エンジンが直6からV6になったことや、スカイライン伝統の丸型4灯テールランプが廃止されたことで、かつてのスカイラインファンには不評だったようですが、海外では、インフィニティG35として販売されヒット作となりました。
そして2014年に発表されたインフィニティQ50が、日本国内ではV37型となります。スカイラインとしては13代目のモデルですが、これまでと異なるのはフロントグリル内のバッジが日産のものから、インフィニティになったこと。この理由に関しては諸説あり、またさまざまな意見があるようですが、田村さんの話にもあったようにスカイラインはファンが多いクルマなだけに判断が難しく、ここで深追いするのはやめておきます(笑)
日本で販売されている、現行型スカイライン。フロントのバッジがインフィニティマークになっている
2007年、いまに続くR35GT-Rは“スカイライン”の冠を外して登場します。こちらもドメスティックカーからグローバルカーへという意図が込められたものでした。では、GT-Rはクーペですから、インフィニティはセダンのみかといえばもちろんそうではありません。インフィニティは高級ブランドとして、「Q60」というクーペを発表しました。そして実はこれ、国内でも“スカイラインクーペ”として販売される予定です。
インフィニティQ60、日本ではスカイラインクーペとなる予定。生産はすでに昨年後半から開始されており、作っているのはGT-Rと同じ栃木工場という
そして先日行われたジュネーブショーでインフィニティQ60をベースにした刺激的なコンセプトカーが発表されました。「プロジェクト ブラックS」と名付けられたこのモデルは、ルノーF1チームと共同開発したハイブリッド・システムを搭載。F1で用いられるERS(エネルギー回生)技術を応用して電動ターボ化、3リッターV6ツインターボエンジンは最高出力が25%高められ約500馬力を発揮。この技術はルノーF1のエンジニアとインフィニティとで市販化に向けさらに開発が進められているといいます。
次期型GT-Rにはこの技術が採用されるのでしょうか、妄想が膨らみます。さて、気になる次期型GT-Rの話、フェルさんは田村さんに切り込めるのでしょうか? 乞うご期待です。
インフィニティQ60をベースにしたコンセプトカー「プロジェクト ブラックS」
この記事はシリーズ「フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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