「いつもはここで折り返しですけど、せっかくの911、登りで乗りたいでしょう。もっと上まで行っていいですよ。屋根も開けておきますね」

 実は今日ポルシェは、パナメーラと、写真がありませんがマカンGTSにも乗っていて、なぜか「いいクルマだけど、いまひとつ自分とは相性が悪い。思い通りに走れない」気がして、初めて乗る911もなんだか苦手意識のほうが強く、低いテンションで運転席に座りました。シートを合わせてベルトを締めて、ハンドルを握ります。

やっと、やっと……

 がちっ!

 と、音がしたのかと思うくらい、自分の背中とシート、手の平とハンドル、足とペダルが締結された気がしました。これまでの試乗車とは比べものにならないくらい重いアクセルをちょっと踏み込むと、ファンっと気持ちのいい音とともに動き出します。ペダルだけじゃなく、ハンドルも重い。でもこういうのは全然嫌いじゃない、重い分、動かしたいだけ正確に動かせる。というか、やっと、ハードウエア側が忖度や先読みをせずに、こちらの気持ち通りに動いてくれるクルマに乗れた。そんな気がしてきて、頬が緩みます。

 路肩に雪が残る寒さだけど、冬空はよく晴れて、空いた山道、登り坂。
 思わず雄叫びを上げて走り出してしまいました。

大槻カメラマンの腕を持ってしても、速度が遅すぎて流し撮りになりません……でも運転している本人は大満足。
大槻カメラマンの腕を持ってしても、速度が遅すぎて流し撮りになりません……でも運転している本人は大満足。

 すっかり興奮して駐車場に戻ると、大槻カメラマンがにやにやしながら待っていました。

 「いやあ、いい写真撮れてますよ。ものすごい笑顔で運転してました」
 「そんなの撮らなくていいんだよ!」

 山道を運転したのはほんの十数分、でもたしかにその間私ずっと笑っていた気がします。別に飛ばしたわけではなく、安全運転の範囲に留めていますが、めちゃくちゃ気持ちよかった。クルマを「運転する」というより、パワードスーツを「着込んだ」気分で、加速も減速も進路も自由自在。自分の運動能力が(極端に)拡張されたような錯覚を与えてくれることが、スポーツカーの喜びなんじゃないか、と、久々に体感しました。「911は別格」と言う人が多いわけです。

 うーん、これは欲しい。
 お値段2154万円? 安いじゃないか!

 帰って奥さんに本当にそう言ったら、バカ言ってんじゃないよと怒るかと思いきや、私があまりに嬉しそうだったせいか、ニコニコ笑って聞き流してくれました。これからは街中でポルシェ(ただし911に限る)を見たら何のためらいもなく「いいなあ、うらやましい、俺も乗りたい!」と言えそうです。

 自分の中にまだ「クルマに乗りたい」という熱が残っていたんだなと気づかせてくれて、911とJAIAの方々に感謝いたします。クルマはやっぱり乗らなきゃ、走らなきゃダメですね。

しばらく担当をやっていけそうです

 さてさて、とはいえ現実的にはおいそれと手が出ない値段(でも「あぶく銭が入ったら」と思える対象があるのは幸せ)。自分の乏しい記憶を引っかき回して似たクルマを探すと、例えば愛しの初代ロードスターは「着込む」というより、小さな乗り物を「操る」という喜びのほうが大きかったかも。タワーバーを追加すると(ちょっと)それっぽくなりましたので、剛性感の違いでしょうか。

 911に近い印象を受けたのは、以前JAIAで乗せていただいたロータス エキシージ、ちょい乗りでしたが、マツダのロードスター RF、そしてなにより、やっぱり日産GT-Rが似ています。ケイマン、ボクスターはどうなんでしょうね。どなたか911と乗り比べた方、印象を教えてください。そういえばフェルさん、モデルは違うけれど911を持っていたのに売っちゃったんだよな。まったく、どこまで欲が深いんだ?

 ……と書いてきて、落ち着いて考えれば、スポーツカーでなくとも「思った通りに動く」ことの心地よさを期待していけないわけはない。S124から離れられないのも、鈍ければ鈍いなりに「自分の思い通りに動くから」なんでしょうね。911は「特濃」として、この味を持つ4人乗り以上のクルマに、このコラムを通して、いつか出会えたらと思います。

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セミナー開催 フェルディナント・ヤマグチ流「部下育成」!

 本コラムの著者、フェルディナント・ヤマグチ氏が「日経ビジネス課長塾オンデマンド」主催のセミナーに登壇します。

 今回、課長塾オンデマンドではあえて、「企業人としてのヤマグチ氏として、登壇してください」とお願いしました。なぜならヤマグチ氏は、「コラムニストとの両立」という多忙な生活を、20年もの長きに渡り成立させてきた人だからです。本セミナーでは、そんなヤマグチ氏ならではの(仕事についての)方法論に迫ります。

 とはいえ講演時間は、わずか1時間。そこで今回は、「部下育成」にテーマを絞って話していただきます。部下やチームのマネジメントにお悩みの方は、ぜひご参加ください!






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