F:日本のテストコースだとショボいのに、実際にヨーロッパの道を走るとすごく良いと。

:ええ。テストコースで普通にスッと乗っただけでは分からない。絶対的なパワー感というのは比較出来るんですけれども、やはりクルマってパワーだけじゃありません。人馬一体じゃないですが、トータルとしてのハンドリングや、スタビリティーがとても重要なんですね。当時のスターレットは、私の印象としてはちょっとフワフワしている感じがありましたから。

クルマの話をすると止まらない。エンジニアはこうでなくちゃ。 今日はFCVの話を聞きに来たのだが、そちらが始まる気配は一切無い。
まだ雰囲気に馴れない新担当Y田氏は、写真を撮りながらもしきりに時計を気にしている。

編集Y田(以下、Y):あのぅ……フェルさん。田中さんのお時間の都合もあるし、そろそろ本題であるFCVの話に移りませんか。

なぜか、話の中心はデュアルクラッチに…

F:そうですね。そろそろですね。それで田中さん、ヴィッツの後は何を。

:その後、2000年から、FRのオートマチック、いわゆる多段系制御の開発に移りました。まず5速をやって、それからすぐに6速が始まった。8速の途中までやりましたね。当時はそうした“頭出し”はどうしてもレクサスで、そのレクサスに搭載する多段ATを担当していたんです。

“頭出し”とは、「先行技術を最初に搭載する」といった意味合いだ。

F:レクサスって、すごい高出力のスポーツタイプでもみんなATじゃないですか。どうしてデュアルクラッチにしないんですか? 海外の高出力のスポーツカーの多くがデュアルクラッチなのに、なぜトヨタはATに固執するのでしょう。

Y田:「FCVの話に」って言ったのに、なんでATの話をさらにツッコムんですか…(Fだけに聞こえる小声で)

:デュアルクラッチは確かに変速レスポンスに関しては非常に優れた技術だと思います。一方で、以前は特に、安定感に欠けるという認識も一部にあった。変速はスパスパ決まるけれども、低速時の変速ショックがあって、ギクシャク感がある…といった。

なぜか、FCVではなくデュアルクラッチの話を熱く語る田中さん
なぜか、FCVではなくデュアルクラッチの話を熱く語る田中さん

F:確かに。バックの時などは特にギクシャクします。

:これは会社ごとの価値観の問題で、他社さんがどうという話ではありませんが、やはりトヨタのオートマチック系の開発には、低速時のギクシャク感を避けたいという考えがあります。

 それと、もともと湿式多板クラッチのATってロバスト性の高い技術なんですね。つまり、ATはとても頑強です。ところがデュアルクラッチは、回転が合った瞬間にギアをパコンとつかむというようなメカニズムなので、ロバスト性を維持するのが難しかったというの面もあると思います。デュアルクラッチって、ある意味MTみたいな機構ですから。

F:デュアルクラッチは、頭のいいコンピューターが自動でMTを操作してくれていると、そういう理解をしているのですが。

:そうそう。その理解で正しいです。さらにオートマチックのトルクコンバーターには、トルク増幅機能があります。初期は、回転を若干ロス、つまり回転を抑えた分をトルクに変えて走るので、非常に力強く発進できたり、あるいは微速のところでぎくしゃく感がないという良さがある訳です。レクサスはご存じの通り、質感とか乗り心地をものすごく重視するクルマです。ですから、ATを突き詰めていくというのが当時の判断だった訳です。

F:なるほどなるほど、とてもわかり易いです。矢口さんがやっているレクサスRCFみたいな凄いクルマも…。

:あれもATです。あのクルマはロックアップ機構で、MTのようなダイレクト感を出しています。若干ぎくしゃくしても、より変速の早さとダイレクト感を取るという味付けをやっているのです。矢口がやっているあのクルマに乗って、「レスポンスが悪い」という人はあまりいないと思いますね。

 いずれにしても、レスポンスとスムーズさを兼ね合わせるものとして、トヨタとしては湿式多板クラッチをうまく使った方がいいであろうという、そういう発想ですね。これ、僕の個人的な想像なんですけれども、ヨーロッパでデュアルクラッチが盛んなのは、いろいろなバリューチェーンとか、そういうものも絡んでいるんではなかろうかと。いわゆるギア作りが得意なところがデュアルクラッチに移行しやすいんじゃないかなと。僕はそう思いますね。

Y:田中さん、お願いですからFCVの話を…(Fにさえほとんど聞こえないような声で)