みなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
先に当欄でも告知いたしました、オートモーティブ ワールドの特別講演会で、モデレーターを務めてまいりました。
レクサスRCFの矢口さん、X-TRAILの東倉さん、S660の椋本さん、ロードスターの山本さん、そしてランエボの布野さんと、超が付く豪華な開発責任者が一堂に会した夢のパネルディスカッション“名車の開発秘話 と 真の「ものづくり魂」とは?”であります。
ご覧下さいこの豪華メンバー。こんなメンツが揃うのは滅多にありません。
当日は実に1800名もの方にお集まり頂きました。こうした無料講演会は、申し込むだけ申し込んでおいて、当日はダマキャンしてしまうバックレ客が多い。運営する側は来客数を読むのが非常に難しいのです。
今回は歩留まりがとても高かったそうで、用意していた1000名収容のホールだけでは足りず、急遽サテライト会場まで用意して、結局1800名の方が聴講されたそうです。ご来場いただいたみなさま、お楽しみ頂けましたでしょうか?
開場前のホール。ホントにこの客席が埋まるのでしょうか…ちょっと不安です。
しかしまあ、パネラーのみなさまのお話の上手なこと。文字通り立板に水。私なぞ「それでは次に◯◯さんどうぞ」と言うだけです。本業でもこうした司会をやる機会が少なくないのですが、これだけ進行がラクな講師陣は珍しい。講師のみなさま。お疲れ様でございました。楽しゅうございました。
本番前のリハ風景。主催者である
リードエグジビションジャパン社は、大規模展示会を年に約120本も行うプロ集団。スタッフ諸侯はテキパキと手慣れたものです。女性社員がみなさん美人で目の保養にもなりました。
講演会の主催はリードエグジビションジャパン社。大規模展示会を年に約120本も行っているそうで、聞けば国際ブックフェアもリードの主催なんですと。国際宝飾展などのメジャー展示会ともなると、そこだけで1年分のビジネスを仕込んでしまう中小の業者さんも少なくないのだとか。いや、いろんな仕事があるものです。
帰りがけにレクサス矢口さんから「最近マツダさんばっかりで、全然ウチに来ないじゃないの」とチクリと言われてしまいました。うぅ…スミマセン。それじゃRCF行っちゃいますか。
とはいえレクサスは広報の方が変わってからプッツリ連絡が途絶えています。果たしてどなたに連絡を入れれば良いのやら……。
話は変わりまして、久しぶりにゴルフに行って来ました。
天候にもメンバーにも恵まれ、楽しい一日を過ごして参りました。
左から私、柏木二郎氏、茂木潤一氏。茂木氏の左腕にご注目。しかし僕って本当に顔が大きいです。小顔になりたいです。
最高の天気。最高のメンバー。最低のスコア……。ゴルフは難しいです。
さてさて。それでは本題へと参りましょう。
今回は千葉県・幕張のBMWトレーニングセンターに行き、広報担当の方に加えて、全国のBMWディーラーメカニックに新たに導入される新型車のメカニズムについて教育する技術トレーナーの方からも話を伺います。
実際に2シリーズのアクティブツアラーに乗ると分かりますが、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)であそこまで“FRっぽく”シャンと走るクルマは珍しい。私は個人的にFFの圧倒的王者はフォルクスワーゲンのゴルフであり(ディーゼルゲート事件でミソは着けてしまいましたが)、その優位性は当分の間脅かされまいと思っていたのですが、BMWのFFはゴルフと十分に張り合えるほど完成度の高い仕上がりです。
その秘密はどこにあるのか。そして、そもそもなぜBMWがFF車を作ったのか。スルドク切り込んで参りましょう。
BMWは「駆け抜ける歓び」をブランドコンセプトに掲げ、創業以来FRレイアウトにこだわり続けてきたメーカーである。FR(フロントエンジン・リアドライブ)は優れた運動性能と快適な乗り心地を実現するレイアウトである。BMWは、直列6気筒とFRレイアウトを前面に押し出して世界中のファンを魅了し続けてきた。
一方で、FRには重量増やコスト高、またスペースが制限される等のデメリットも少なからず存在する。
ユーザーはこうした長所と短所を天秤に掛け、「走り」に価値を見出した上でBMWを選択する。BMWには、「これしか乗らない」と宣言する熱烈なファンが多い所以である。
そのBMWがFFレイアウトのクルマを出した。
これはファンに対する裏切り行為にならないのか。はたまた新時代へ向けてパチリと打った布石と見て良いのか。考えていても仕方がない。直接BMWの方に(しかもなるたけ単刀直入に)伺ってみよう。
答えていただいたのは、広報部の星川聡氏だ。
F:今日は技術的な面からとマーケティングの面からの両方からお話を伺いたいと思います。FRにこだわり続けていたBMWが、なぜ今になりFFを出したのでしょう。BMWだけは信じていたのに……と落胆したファンも多いと聞きます。
広報・星川さん(以下、星):BMWはグローバルカンパニーで、商品を世界的に展開している企業です。世界のマーケットを見ると、小型車の需要が非常に高まっているという事実があります。日本はもともと小型車志向の強いマーケットですが、それが世界的な潮流になりつつあるのです。
マーケットトレンドは小型車に向かっている、その一方で、お客様のニーズはますます多様化して来ています。小さいけれども荷物がいっぱい載せられて、人もたくさん乗せられる。機能性、多様性が高いクルマの需要が高まっています。
F:小さいけれどもたくさん積めて、たくさん乗せられる。どこの分野でもお客はムリを言うものですね(笑)。
「小さいけどたくさん積める」にはFRでは限界が
星:はい(笑)。そういったお客様のニーズに応えるクルマを出そうとすると、FRパッケージでは限界があるということです。お客様のニーズも満足させるためには、BMWとしてもFFがベストなレイアウトであろうと。
F:1シリーズはCセグの小さなクルマだけれども、あのセグメントではたった一人でFRを守り続けて頑張って来ました。あのクルマも実は他のCセグ車には負けていたということですか。少なくとも積載という観点からすると。
星:1シリーズはゴルフのようにハッチバックのコンセプトだからまだ良いんです。後ろをガバッと開けばFRでもそれなりに荷物は載せられます。
ですが、グランツアラーのようなCセグメントで7人乗りのクルマを開発するとなると、さすがにFRでは難しくなってきます。同じCセグでも、ハッチバックの1とか、クーペの2シリーズならFRでも良いんです。あのモデルは機能性とか多様性よりも、ドライバビリティーの方向に振ったクルマですから。ドライバビリティーで最高のソリューションを提供するのならFRだということで、あのモデルはFRになっています。
少しややこしくなるのでここで整理しておこう。
BMWの2シリーズには、FRレイアウトでクーペスタイル(要するに1シリーズのクーペ版だ)と、FFレイアウトでミニバンスタイルの2種類があるのだ。いま星川さんがFR車として話しているのは、FRでクーペスタイルの方だ。
左:BMW 2シリーズアクティブツアラー(FFレイアウト)
右:BMW 2シリーズクーペ(FRレイアウト)
F:なるほど。すると2シリーズのアクティブツアラーをFF化したのは「市場の声」に推されて、というところですか。
星:はい。市場のニーズが高まっているということが一番の理由です。小さくて取り回しが良いけれども、人も荷物も余裕を持って乗せられる。これは日本だけではなく世界的な流れになっています。
F:実際はそれほど人も荷物も乗せる機会なんかないのにね(笑)。ミニバンの一人乗りを良く見ますもの。しかし日本がミニバン大国なのは分かりますが、それは世界的な流れでもあった訳ですね。
ミニバンのFF2シリーズが主力商品になる?
星:はい。既に日本では、軽を除くとおよそ市場の3割がミニバンであると言われていますが、例えばヨーロッパでも最近はニーズが高まってきています。特に小型、Cセグメントのモデルの伸びが大きいです。ミニバンはモダンなコンセプト、新しいコンセプトとして認知され始めているようです。
F:なるほど。では実際に売れ行きはどうでしょう。日本で売れる乗用車の3割がミニバンとなると、BMWも同じような比率になるのですか。BMWの中で一番売れているクルマが2シリーズのアクティブツアラーになるのですか。
星:日本で一番売れているBMWは3シリーズです。次に1シリーズ。そして2シリーズ。ただ、7人乗りのグランツアラーは昨年の6月に導入したばかりですので、正しい比較にはなりません。今年はFFの2シリーズが1シリーズを抜いて、3シリーズに次ぐ主力商品になるかもしれません。
F:日本の市場で大人気のミニバンが出ても、1番売れるビーエムはセダンの3シリーズですか。これからもそうですか。
星:そうですね。3シリーズにはツーリングというステーションワゴンのタイプもありますが、やはり1番売れるのは普通のセダンです。日本で売れるBMWの4台に1台は3のセダンです。
F:なるほど。ではワールドワイドではどうでしょう。やはりセダンが強いですか?
星:これは国によって異なります。ヨーロッパだと3シリーズはやっぱりステーションワゴンのツーリングが人気です。ただ、これがアメリカに行くとツーリングではなくて、人気なのは何と言ってもSUVです。
F:ひゃー。それはビックリ。昔のアメリカ人はステーションワゴンが大好きだったのに。
星:今は違いますね。例えば5シリーズはアメリカではツーリングの販売はしていません。ハッチバックのGT(グランツーリスモ)は設定がありますが、ステーションワゴンの市場は、すべてSUVに取って代わられているというのが我々の理解です。
F:なるほど。国によってクルマの好みはかくも変わる。ワールドワイドの話が出たので思い出しました。BMWは今年もプレミアムセグメントで世界一になりました。しかもこれは11年連続であると。
星:お陰さまで。はい。
BMWの豊富なバリエーション、「壮観である」
「BMWの品揃えは、恐らく輸入車ナンバーワンだと思います」
F:ところがこの比率が日本には反映されていない。日本ではベンツがプレミアムセグメントどころか、輸入車全体でも1位になっています。これはどうしてでしょう。
星:日本でもBMWがプレミアムブランド(メルセデス・ベンツ、BMW、アウディ)で1位になっていた時期もあるんです。2009年から3年連続で。ただこういう数字は商品の展開やライフサイクルなどが複雑に絡みあった上で出てきますので、一概にこれ、と言った理由はありません。
ここで星川さんはBMWのカタログを取り出した。
大変な数の車種が並んでいる。壮観である。
F:しかしずいぶんたくさんのクルマがありますね。もしかしたらBMWの品揃えは、輸入車ナンバーワンじゃないですか?
星:はい。恐らくそうなると思います。1、2、3、4、5…とシリーズもたくさんありますし、ガソリンはもちろん、ディーゼル、あとは電気自動車もプラグインハイブリッドもありますし、それぞれのクルマにエンジンの種類やトランスミッションの種類もある。
例えば3シリーズは、ガソリンがあってディーゼルがあって今年早々にはプラグインも出ます。このようにドライブトレインもたくさんあるので。さらにガソリンにも排気量の違いがあってATとMTがあって。おそらく日本で展開している輸入車ブランドの中ではナンバーワンではないかと。いま国産車は日本での車種展開を絞っているじゃないですか、昔に比べたら。そうなるとモデル数では国産メーカーを入れてもかなり多い方だと思います。
F:まさか。ここは日本ですよ。さすがにそれはないでしょう。
ADフジノ:いやいやフェルさん。いまのBMWって意外と車種数が多いんですよ。例えばクラウンアスリートの場合だと、エンジンはガソリンの4気筒と2種類の6気筒。あとハイブリッドの4つしかない。ボディはクーペもないしステーションワゴンもない。
グレードの細かいのを言い出したらキリがないけれども、エンジンとミッションとボディタイプのバリエーションで見たら、BMWの3シリーズのほうが多いってことになる。(のちに日本で販売されているBMWのモデル数をドライブトレイン別(エンジン/トランスミッション/2WD or 4WD)でカウントしたところ87モデルにもなった)。
「ヘタをすると客に言い負かされちゃったりして」
F:うーん。BMWの営業の人は大変だなぁ。そんなに細かく覚えきれないよね。客は自分がカネ出して買うクルマだから真剣に調べてくるだろうし。ヘタをすると客に言い負かされちゃったりして(笑)。
星:なかなか大変だとは思います。ですがお勧めする方としては、いろいろな車種があり、いろいろなエンジンがあると、こちらがダメならこちらはどうでしょう、とお勧め出来るというメリットがあります。販売する車種が多いのは確かに大変ですけれども、贅沢な悩みかなとも思います。
F:贅沢な悩み。なるほど。しかし車種だけでなくそれぞれのメカニズムまで勉強しなくてはいけないとなると……。
星:今日ここに同席させていただいているのは、全国のメカニックに対する技術トレーナーです。
特に最近の新しいニューモデルトレーニングは、お客様のニーズをくみ取って、技術の面からも適切なおクルマを提案するというのが1つの大きなポイントとなっているのです。
同席しているのは、BMWの技術トレーナー、高橋昌志さんと西村篤司さんである。
次号ではBMWのディーゼルと、「FFなのに、なぜFRっぽくできるのか」に関して伺っていこう。
「お前もか!」と言われそうですが……。
みなさま、はじめまして。
前担当のS馬の勇退(逃亡?)により、新しく本コラムの編集担当になりましたY田です。これからどうぞよろしくお願いします。
フェルさんが前々回の記事(雪道走行「転ばぬ先の杖」)で、「しかしこれほど担当編集者がコロコロ交代する著者は私だけではありますまいか。何か私に問題があるのでしょうか……。」と書いていますが、これだけ好き放題やっておきながら、悪びれることなく「何か私に問題が?」と言い放つ著者の鞄持ち(尻拭い?)を受け持つことになり、誠に光栄です。編集者冥利に尽きます。
隣の席には、前々担当「マイトのY」が座っているのですが、私がフェルさんの担当になったことが決まった後から、妙に優しく接してくれるようになりました。瞳の奥に、憐憫の情を見え隠れさせながら。
前担当のS馬も、「それほど大変じゃないですよ。いいこともあります」と明るく励ましてくれます。「いいこと」とは何なのかを尋ねると、私から視線をずらし、顔を若干うつむき加減にしながら口ごもるのが気になりますが。
さて、新担当としての皆さまへのご挨拶を兼ね、まずはこのコラムに関わるものの宿命ともいえるあの話題について、先に告白しておきます。
「私、マツダ車のオーナーです」
デミオを買ってしまったから、フェルさんの担当に抜擢されたのでしょうか?
わざわざお伝えする必要もないかとは思ったのですが、何となく、先にゲロっておいた方がいいような気がしまして……。
「“マツダ地獄”に逆戻りするのでは?」とご心配される読者の方々もいらっしゃるかと思いますので、これまた先に申しておきます。
「そうなったら、ごめんなさい」
うそです。そうなりませんのでご安心を。たぶん。
それでは、今後ともよろしくお願いいたします。
この記事はシリーズ「フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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