フェル、年明け早々オチる
【番外編】「陸上自衛隊第1空挺団 降下訓練始め」に潜入
みなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
本日は、みなさまの大好きな自衛隊ネタの緊急速報をお送りいたします。先般開催された、陸上自衛隊第1空挺団の降下訓練始めのリポートです。
降下訓練始めの記事なら一昨年に読んだわい……とお嘆きの貴兄。
もちろん同じネタを二度焼きしてお届けするようなケチな真似などいたしません。今年は特別な“体験“をして参りましたので、そこを中心にリポートしようと存じます。
空挺団の精鋭諸侯が降下訓練の初歩段階で学ぶ「跳び出し塔訓練」と、大型輸送ヘリコプター「チヌーク」の体験搭乗。どちらも陸幕広報の山崎閣下を1年がかりでシツコク拝み倒した結果実現した、誠に得難い経験であります。
全身骨折するほどにお骨折り頂いた陸幕広報山崎閣下@新婚。将来は陸軍大臣になるでしょう。
降下訓練始めは防衛大臣視察のもとに行われる第1空挺団にとり非常に重要な年頭行事である。富士の演習場で毎夏行われる総合火力演習は、当選倍率10倍の”狭き門”だが、こちらの演習は現場に行けば誰でも入れるオープンなイベントで、中共のスパイも、北朝鮮の秘密工作員も、入ろうと思えばそれこそ大手を振って正面から入場できてしまうのだ。
重要な行事をこんなに気前よく入場させちゃって良いの?と少し心配になるのだが、実力を見せてビビらせる等、防衛当局にも何か特別な狙いが有るのだろう。
こんなのを目の前で見せられればそりゃビビるでしょう……。音と振動が凄い。
11mの高さから降下訓練
これが噂の訓練塔。C130の胴体部分を模している。11メートルなんて下から見ると大したことはないのだが……。
まずは跳び出し塔降下訓練から。この跳び出し塔は、空自が持つ戦術輸送機C130ハーキュリーズの胴体部分を模したもので、塔の高さは地上から11メートルに設定されている。山崎氏によれば、「この高さは人間が一番コワいと感じる高さなんです。100メートルもの高さになると、逆に怖さを感じなくなる」とのこと。
ちなみにハーキュリーズは米国初のターボプロップエンジン搭載機で、米空軍、海軍、海兵隊のほか、世界各国の軍隊で採用されている名機である。空自仕様は完全武装の空挺隊員を64名も乗せることが出来る(軽装の通常人員なら92名)。
飛び出しは5つの準備動作を経て行われる。
1で片手の握り拳を胸に。
2で反対の腕をクロスする形で胸に。
実際に上ってみると結構な高さである。うーむ、こりゃ落ちたらイタイじゃ済みません。
こちらがホンモノのC-130ハーキュリーズ。国産C-1輸送機の補助用として昭和56年度から導入されている。
実際の降下は、高度300メートルの高さを時速300キロの速さで飛ぶ機体から行われる。手をブラブラさせたまま飛び出すと、風圧であらぬ方向に腕を持って行かれ、脱臼してしまう可能性があるのだ。
そして3で顎を引き胸に押し付ける。降下時はヘルメットを被っているので頭にも相当な風圧がかかる。キチンと頭の位置を定めておかないと、簡単に首をグキッとやってしまうのだ。また、これは、落下傘が開いた瞬間の衝撃に耐える姿勢でもある。
腕を決め顎を固め、4で右足の足先を飛び出し口の縁端に掛ける。
指導教官による模範動作。「4」で跳び出し口に足を掛けたところ。
1、2、3、4!と声を出して一連の動作を行い、そしてハラを決めて、最後の5で「オリャー」と飛び出すのである。
飛び出した後は必ず足を揃えること。そして「初こうかー2こうかー3こうかー4こうかー」と飛び出し姿勢のまま声を出す。
飛び出しから4秒後、落下傘は自動的に開く(この瞬間、ガッと上に引き上げる力がハーネスに加わる)。ここで初めてクロスした腕を解いて傘から左右に下りたハーネスを握る……という順番だ。
楽勝である。私は高い所が得意なのだ。中学の頃は校舎の3階のベランダからぶら下がって、階下の2年生をよく驚かせたものだ。
さて、いよいよ本番である。
表情をお見せできないのが残念だが、モザイクの中は余裕の笑顔である。
当日は20名ほどの記者が訓練を体験した。私は第2班のトップである。前の班の5名が次々と飛び降りていく。さすがは従軍記者諸君。社名と氏名を叫んだ後、躊躇すること無く飛び出していく。
ハーネスの装着から訓練索への取り付けまで、すべてお任せである。無論空挺団の隊員諸侯はすべて自分で行う。
私の前の某社記者さん。雄叫びとも悲鳴ともつかぬ声で飛び出していく。あの、メガネをかけたままでもいいんすか?
私の順番が回ってきた。「フェルディナント・ヤマグチ」と名乗ると周囲から失笑が漏れた。名前だけで笑いを取れるなんて幸福です。
いよいよチヌークの体験搭乗へ
でもどうして名前を言っただけで笑われるのでしょう。後から教官の方に「spa!を読んでましたよー」と言われたのが救いだった。日経ビジネスオンラインも読んで下さい。
別角度から。足バラバラ。全くなっていない。これでは欽ちゃんである(photo by:嘉納愛夏)
自分では平気と思っていても、こうした所でビビりが見えてしまうものだ。ちなみに中谷元防衛大臣は「レンジャー!」と叫び、キチンと足を揃えた正しい姿勢で飛び出された。さすがはレンジャー部隊出身の大臣である。
さて、お次は本日のメインイベント。チヌークの体験搭乗である。ただ乗るだけではなく、この機から実際パラシュート降下も行われる。目の前で飛び出すところが見られるのだ。これは本当に得難い機会だ。
機内はこんな感じ。二段折りの後部ハッチは上半分を開けたまま飛ぶ。
隣に座った戦闘服の方に「あの、ドアを開けたまま飛ぶんですか?」と尋ねたら、「どうせすぐに開けるから」とアバウトなお答えが……。そりゃまあそうなんですが。
機体は旋回しながら徐々に高度を上げていく。コックピットからは英語と日本語の入り混じった会話が聞こえてくる。飛行に関する通信は英語で、降下に関しては日本語で行われているようだ。
こちらがチヌークのコックピット。壁面には衝撃緩衝材が貼り巡らされている。
機内中央の前方から後方へ一本のワイヤーが張られている。これをスタティクラインという。このワイヤーに各自ハーネスに繋がったフックを取り付ける。飛び出しと同時にこのフックが引かれ、4秒後に自動的に開傘する仕組みになっている。この方法はスタティクラインジャンプと呼ばれている。
(パラグライダー型ではない)通常型の落下傘を使う空挺部隊は、必ず集団で行動する。大勢が連続して航空機から飛び降りるから、各自が勝手に自分の意思で開傘すると、空中で衝突してしまう危険性が出てくる。スタティクラインジャンプは、こうした危険性を排除しているのだ。
降下中の兵士は、ぶら下がったバナナのように無防備の状態だ。下から狙撃されればひとたまりもない。それではあんまりなので、戦争犠牲者の保護強化のためのジュネーブ条約では、「落下傘で降下する者は、降下中は攻撃の対象としてはならない」と定めている。
しかしそれは「遭難航空機から落下傘で降下する者は」という前提条件付きだ。作戦で降下している最中のものはこの限りではない。それどころか同条約には、「空挺部隊は、この条の規定による保護を受けない」とハッキリ名指しで書かれているのだ。何と恐ろしい。
作戦降下中の空挺部隊は、ジュネーブ条約の規定による保護を受けない。狙い撃ちである。
高度は300m……やっぱり高い!
空挺部隊の職務は非常にキケンである。だから他の部隊の隊員と比べると、ざっくり3割ほど給料が高いといわれる。また、彼らには1降下ごとに「落下傘降下作業手当」と呼ばれる特別手当が支給され、これは階級ごとに金額が異なる。
具体的には、陸士クラスで3400円。陸曹クラスで4100円である。これが陸佐クラスになると6300円になる。また、「検査のための降下」、所謂テスト下降を専門に行う「空挺基地整備員」は、それぞれこの金額の倍の手当を受け取る。命知らずの空挺団員は、また高給取りでもあるのだ。
さて、いよいよ降下訓練の始まりである。
チヌーク後部のハッチが開けられ、いよいよ降下である。スタティクラインに各員のフックが掛けられている。
上の写真の右上部に赤ランプが点灯しているのがお分かり頂けるだろうか。このランプが青に変わると降下OKのサインである。
ランプが青に変わった。機内の雰囲気がピンと張り詰める。「コース良し!用意!用意!用意!降下!降下!降下!」。
高度は約300メートル。東京タワーのてっぺんから飛び降りる感覚である。山崎閣下は「100メートルを超えると高さはあまり感じなくなる」と仰ったが、やはり高い……。
連続して飛び出すので、同乗した隊員の降下は息をつく間も無く、殆ど一瞬で終わってしまった。
降下が無事に終了し、演習場上空を旋回しながら着陸する。大勢の観客が押し寄せているのが見える。
当日は軍オタ関係の方が良い場所を確保しようと開門前から大勢並んでいたそうだ。全身を戦闘服で固めた軍事コスプレイヤーの方も少なくないのだとか。報道席にいたプロのカメラマンの方と話したら、「あの人達はプロ並みの長玉(長尺レンズ)を持ってますからねー」と。
無事に帰還。お疲れ様でした。(photo by:嘉納愛夏)
“ダイブ”小西先生が登場
迫力満点の降下訓練終了後は恒例の野宴である。壇上には中谷防衛大臣閣下をはじめ地元のお歴々が並ぶのだが、この方々の挨拶がまた長いのなんの。ご馳走を前にお預けを食らった客席の方々から「長ぇ……」との嘆息が聞こえる。
で、今回のお歴々の中で一番目立っていたのは、地元千葉県選出の民主党参議院議員であるこの方。「国会でヒゲの隊長に殴られた小西でございます」。
「国会でヒゲの隊長に殴られた民主党の小西でございます」と自衛隊の祝宴で挨拶される小西先生。自転車でも飲酒運転はあきまへんで。
ヒゲの隊長とは無論自衛隊出身の佐藤正久議員のこと。我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会、でしたっけ。紛糾しましたからね。いや、小西先生、あの時は見事なダイブでございました。さすが空手がご趣味であると感嘆いたしました。
ということで、以上で2016年第1空挺団降下訓練始めのリポートを終了いたします。来週から通常モードに戻ります。
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