続く浦和レッズとの決勝戦では、ホームでの第一戦を0-1で敗北し、アウェーでの第2戦もいきなり相手に先制されたところから、2-1の逆転で勝利している。
なんという土壇場の逆転力だろうか。
さらに、FCWCの第1ラウンドでは、先制を許したところから逆転で勝利をおさめ、準々決勝のサンダウンズ戦でも、圧倒的に攻め込まれてシュートゼロで終わった前半から、後半に謎のような建て直しに成功して2-0で勝っている。
これらの戦いを通じて言えるのは、鹿島が、一貫して「苦しい戦い」を「押されながら」「攻め込まれつつ」「耐えに耐えて」「なんだかわからないうちに」「あれよあれよと態勢を建て直しつつ」「摩訶不思議な修正力と謎の戦術対応で」「後半の最後のあたりでそれまで内に秘めていた実力を発揮し」「敵の一瞬のスキを突いて」「うまうまと」「スルスルと」勝ってきたという事実だ。
1回や2回ならまぐれということもできるだろう。
が、これだけ同じシナリオの逆転劇が続いている以上、これは彼らの身についている何らかの力なのだと判断せざるを得ない。
個人的な見解を述べれば(って、生まれてこのかた個人的な見解以外の見解を述べたことなんかありゃしないわけだが)、私は、アントラーズのこの異様な戦術修正能力と、火事場対応は、個々の選手の個別のスキルやフィジカルとは別のところに宿っているもので、能力というよりは、「めぐりあわせ」に近いものだと考えている。
その「めぐりあわせ」というのは、具体的に言えば、3人の選手がチームとして動く時の、3人目の選手の位置取りの適切さみたいなことだ。これは、もちろん訓練の積み重ねで身につくものでもあるのだろうが、結果から逆算して観察するに、まるでテレパシーが介在しているというふうにしか思えなかったりするのだ。
「文章の品格は、言葉にではなく行間に宿るものだ」というお話が、仮にその通りなのだとしても、実際に文章を書く段になってみると、われわれは、言葉を書くことはできても行間を書くことはできない。
ところが、アントラーズの選手たちは、ゴール前で、それをやってのけているように見えるのだ。
「どうしてああいうところから選手が走り込んでくるんだ?」
「自陣のゴールマウスの中から外に向かってヘディングするのって、それ、どういうポジショニングなんだ?」
不思議なことばかりだ。
アトレティコ・ナシオナルとの試合は、結果として、3-0というスコアになった。
内容的には、終始押され気味だった。
が、このスコアに落着したことは慶賀すべきことだ。
3-0で勝っているにもかかわらずえらい言われようをしている現状から鑑みるに、これがたとえば、前半のあのPKの1点のみによる1-0の勝利だったら、何を言われるかわかったものではない。
その意味で、2点目と3点目は、野次馬を黙らせるに足る素晴らしい仕事だった。
決勝がどんな試合になるのか、予想するのはやめておく。
外れたらくやしいし、万が一当たったらもっとくやしいからだ。
担当編集者もこの方を存じませんが、オダジマさんが楽しげなので良しといたします。

全国のオダジマファンの皆様、お待たせいたしました。『超・反知性主義入門』以来約1年ぶりに、小田嶋さんの新刊『ザ、コラム』が晶文社より発売になりました。以下、晶文社の担当編集の方からのご説明です。(Y)
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記事掲載当初、本文中に鹿島アントラーズがJリーグファースト・ステージで優勝していなかったという意味の記述がありましたが、混乱した筆者の勘違いでした。鹿島アントラーズの選手、関係者、ファンの皆様に心からお詫びいたします。本文は修正済みです。 [2016/12/16 10:00]
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