そもそも、身内を大事にすることは、「オヤジ」「センセイ」と呼ばれることの多いうちの国の政治家にとっては、失点である一方で、「義理堅さ」と「頼りになる」実力を物語る、大切な資質でもあった。

 古いタイプの政治家の支持者たちの中には、親しい知り合いや地元に利益誘導をすることこそが政治力だと考えている人たちがたくさんいる。その意味では、安倍さんが親しい友人や近い理想を抱く人間に便宜をはかったことは、許しがたい公私混同である一方で、彼が頼りになる政治家であることを示唆する話でもある。

 何を言いたいのか説明する。

 うちの国では、多くの政治家は、結局のところ、身内に便宜をはかっている。
 で、運悪くバレた人間だけがその所業を裁かれることになっている。

 安倍首相ご自身は、だから、昔から多くの権力者が当然のようにやってきている利益誘導が「バレ」たことを、「運が悪かった」ぐらいに考えているのかもしれない。じっさい、バレずに済んでいる人たちもいるのだろうし、バレた人間だけが裁かれるのは、不当といえば不当でもある。

 が、スピード違反の取締を見ても明らかな通り、バレた人間だけが裁かれるというのは、法律が実際に運用される姿としては、ごく当たり前の姿で、そこに文句を言っても仕方がない。

 私がむしろ懸念しているのは、安倍首相ならびに政府が、自らの過ちを認めないために行政を歪め、事実を隠蔽し、現実に直面しないために国会を歪めていることだ。

 これは、絶対に容認することができない。
 問題は、ミスを犯したことではなくて、ミスを認めず改めないばかりか、ミスを指摘する人間を攻撃していることだ。
 これはなかなか深刻なことだ。

 「あれ? シンちゃん、いま何かポケットに入れなかった?」
 「入れてないよ」
 「入れたじゃないか。オレは見てたぞ」
 「入れてないよ」
 「じゃあ、ポケット見せてよ」
 「いやだ」
 「いいじゃないか。なんにも入れてないんなら、別に見せてもかまわないだろ?」
 「絶対にいやだ」

 と、ここまでのところは、普通の子供のいさかいに過ぎない。むしろほほえましい話かもしれない。

 が、ここでシンちゃんがポケットを覗き込もうとした子供を階段から突き落としてしまったら、このお話は別のタイプのホラーストーリーになる。

 シンちゃんがポケットに入れたのは、離れて暮らしているママの写真で、シンちゃんはそれを見られるのが恥ずかしかっただけなのかもしれない。

 ただ、もはや問題は、ポケットに何がはいっていたのかではない。
 解決はとてもむずかしくなっている。
 ともあれ、階段をころげ落ちたお友だちが無事であることを祈ろう。

(文・イラスト/小田嶋 隆)

すっかりのびるまで粘り抜いて
誰もが食べる気をなくすまで待っている?

 当「ア・ピース・オブ・警句」出典の5冊目の単行本『超・反知性主義入門』。相も変わらず日本に漂う変な空気、閉塞感に辟易としている方に、「反知性主義」というバズワードの原典や、わが国での使われ方を(ニヤリとしながら)知りたい方に、新潮選書のヒット作『反知性主義』の、森本あんり先生との対談(新規追加2万字!)が読みたい方に、そして、オダジマさんの文章が好きな方に、縦書き化に伴う再編集をガリガリ行って、「本」らしい読み味に仕上げました。ぜひ、お手にとって、ご感想をお聞かせください。

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