そもそも歴代のアメリカ大統領で、いきなり横田基地から来日したのはトランプさんが初めてだという。
 横田基地は、日本国内に存在するが、厳密には日本ではない。
 どちらかといえば、米国の領土に近い。

 まあ、「米軍の領土」という言い方は、あんまり穏やかな表現ではないのでとりあえず撤回しておくが、ともあれ、米軍基地が、日米地位協定の定めるところにより、米軍の支配下にあることは間違いない。

 それゆえ、米軍の兵士が日本国内の米軍基地に空からやって来る場合、日本の入国審査を通る義務は負わないし、ビザの発給も要しない。
 このこと(米軍の兵士が日本国内の米軍基地を事由往来できること)そのものは、軍隊というものの性質上ある程度当然のことだ。

 が、その米軍兵士に許された特権を帯びて大統領が来日するのは、ちょっと意味が違うと思う。
 違法ではないのだとしても、失礼だと思う。
 大切なのは、その「失礼」の部分だ。

 外交の基本は、当たり前の話だが、相手国の国民感情に配慮することだ。
 してみると、いきなり米軍基地に着陸した大統領の態度は、異例でもあれば、素っ頓狂でもあって、つまるところ「失礼」だ。

 というのも、大統領が来日して、いの一番に顔を合わせたのは、日本の外交官でもなければ政治家でもなく、自国の軍人だったわけだし、訪日の第一声も、その米軍兵士たちに向けたスピーチだったからだ。

 演説の中で、トランプ大統領は、自分がアジア歴訪に際して最初に降り立つ場所として、この基地よりふさわしい場所はほかに無いという意味のことを言っている(こちら)。

 また、トランプ氏は、この日の演説で、

“We dominate the sky, we dominate the sea, we dominate the land and space,” Trump said. “No one -- no dictator, no regime and no nation -- should underestimate ever American resolve. Every once in a while in the past they underestimated us. It was not pleasant for them, was it.”

 と言っている。

 「われわれは空を、海を、そして陸地と宇宙空間を支配している。誰も――どんな独裁者も、どのような統治体制も国家も――アメリカの決意を見くびることはできない。かつて、われわれを軽く見た者たちは、不愉快な目に遭っている。そうじゃないか?」

 と、直訳すればこんな感じになると思うのだが、この言葉も、日本の国土の上で発された言葉として聞くと、まあ、かなり物騒な内容を含んでいる。

 もちろん、トランプ大統領は、自国の基地の中で、自軍の兵士たちを前に(聴衆には自衛官も含まれていたが)話したわけで、その限りにおいては、兵士に対するエール以上の言葉ではない。

 が、「われわれは、空を、海を、陸を、宇宙を支配(dominateという単語を使っている)している」というこの言葉を、米軍の兵士に向けて呼びかけることは、「米軍が日本を支配している」というニュアンスを生じさせかねない。

 トランプは、「日本」とは言っていない。「the land」と言っている。その意味では、日本を名指ししたと言い切ることはできないが、それにしても無神経ないいようではある

 最後の、

 「かつてわれわれを過小評価(underestimated)した者たちは、自らを不愉快な境遇に貶めているではないか」

 という最後の一文も、文脈しだいでは、「日本」そのものを指しているように聞こえる。