若者たちが、自分たちの暮らす社会の(ある程度の)公正さを信じていないような国が、まともな経済成長を持続できるはずはないし、そういう国で育った子供たちが、まともな大人に成長するはずもないからだ。

 うちの国は、どうやらそういう国になりつつある。
 というのも、子供たちに「社会のあり方」を教える最も身近な教材は芸能界であり、若い人たちが、自分たちのロールモデルとして最初に思い浮かべる人間は、スターやアイドルだからだ。

 思うに、所属事務所からの独立を「恩知らず」「裏切り者」の所業と見なされて、業界から干され、自分の本名さえ名乗れない中での不自由な芸能活動を続けている「のん」こと能年玲奈ちゃんの苦境や、25年間にわたってトップスターの地位を守り続け、事務所に多大な利益をもたらしたにもかかわらず、事務所内の派閥争いのとばっちりを受けて、テレビカメラを前にしての理不尽かつ屈辱的な謝罪を強要されたあげくに、将来を閉ざされているように見えるSMAPの面々の無表情を眺めながら、この国の若い人たちは、組織に個人が対抗しても決して勝てないことを学び、上の者の命令に従わなかった部下がいかにひどい目に遭うのかを思い知り、どんなに理不尽な要求であっても、組織の指揮系統から下される命令には生命をかけても従わないと未来が閉ざされるという教訓をその身に刻みつけているはずだ。というのも、芸能界は、学校以外の世界を知らない十代の少年少女にとって、「社会」の実像をイメージするためのほとんど唯一の手がかりだからだ。

 もっとも、芸能界の腐敗そのものについて言うなら、どこの国のどんな種類のショービジネスであれ、多かれ少なかれ腐敗しているのだとは思う。

 興行の世界である以上、むしろ、隅から隅までご清潔で公明正大だったりするケースの方が珍しいのかもしれない。

 その意味では、この国で何十年も行ったり来たりを繰り返してそのあげくに、すっかり利権化してしまった賞の選考過程の一部に、ある程度の情実や癒着が介在しているであろうことは、いまさら文春が手柄顔で指摘するまでもなく、ほとんどの日本人にとって、あらかじめ見当のついていたはずのなりゆきだし、いまさらびっくりするような事柄でもない。

 だから、私自身、このことを取り立てて、嘆かわしくて涙が出るとか、こんなよごれた世界ではボクたちは生きて行けないだとか言ってしゃがんで泣きじゃくるつもりは持っていない。

 ただ、誰もが知っている国民的な人気アーティストについての、これほどあからさまな疑惑を、正面切って取り上げるテレビ局が、ひとつも出てきていない現状については、そこそこ大げさに嘆いてみせないといけないのではなかろうかと思っている。