で、そういう速度で実際に読めているのかというと、
「軽めの文体の本だな」
とか
「字組はゆるめだよね」
といったあたりのことは、まあ把握できる。
「全体として経済のことを書いてある本みたいだぞ」
という程度のこともわかる。
でも、そのくらいのことは、そもそもタイトルを見ればわかることでもある。
私は、読んだ気になっているだけで、実際にはまるで読めていないのかもしれない。
印刷物だけではない。
毎日毎日、私はメールやらSNSやらウェブニュースやらスマホ経由のラインやらメッセージやらの、ありとあらゆる種類の文字を、かなりとんでもない速さで読みこなしている。
そうしていながら、ふと気がついてみると、私は何も覚えていない。あるいはこれは、年齢のせいで、アタマの中を通過した文字の定着率が落ちているということに過ぎないのかもしれない。
でも、個人的には、自分がアタマの中に文字をスクロールさせる動作に依存してしまっていると考えた方が、筋道が通ると思っている。
私は、読書ブログの社長ほどではないにしても、文字を通過させる下水管みたいなものになってしまっているのかもしれない。
で、そのウェブにつながった下水管たちが、経団連のもと会長たちを嘲笑している。
奇妙な図だと思う。
月に3000冊の本を読む人間は、月に30頭の牛を食べつくした人間が健康を害するのと同じようにして、自らの精神を健康に保つことができなくなるはずだ。
私たちも、用心せねばならない。
頭の中に保持できる文字の数には限界がある。
その限界を超えると、たぶん、自分自身を保持できなくなる。
エビデンスはないが、私はそう思っている。
(文・イラスト/小田嶋 隆)
だけど、ウェブだっていつまでも何もかも保持できるわけではないのです……。

なぜ、オレだけが抜け出せたのか?
30 代でアル中となり、医者に「50で人格崩壊、60で死にますよ」
と宣告された著者が、酒をやめて20年以上が経った今、語る真実。
なぜ人は、何かに依存するのか?
<< 目次>>
告白
一日目 アル中に理由なし
二日目 オレはアル中じゃない
三日目 そして金と人が去った
四日目 酒と創作
五日目 「五〇で人格崩壊、六〇で死ぬ」
六日目 飲まない生活
七日目 アル中予備軍たちへ
八日目 アルコール依存症に代わる新たな脅威
告白を終えて
日本随一のコラムニストが自らの体験を初告白し、
現代の新たな依存「コミュニケーション依存症」に警鐘を鳴らす!
(本の紹介はこちらから)
記事掲載当初、本文中で「そのサイトというのは、この1週間ほど雑誌やテレビを賑わせている農業アイドルの自殺をめぐる騒動の、一方の当事者であるプロダクションの社長が運営している書評用のブログだ。」としていましたが、こちらは誤りでした。お詫びして訂正します。本文は修正済みです [2018/10/26 12:45]
この記事はシリーズ「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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