この言い方を成立させるためには
「ホメロスやサッフォー、イェイツやエリオットの詩は芸術だが、フォークやロックの歌詞は芸術ではない」
という前提が共有されていなければならないと思うのだが。
つまり、
「本来、フォークやロックの歌詞は芸術ではないんだけど、特別に出来の良いものについては、特例として芸術の仲間に入れてあげても良いよ」
と、私の耳にはそういうふうに聞こえる。
「まるで刺し身みたいな食感のこんにゃくだよね」
と言う食通が、こんにゃくの舌触りを褒めているようでいて、その実、こんにゃくが刺し身に劣る食材であることを前提に話をしているのと同じことで、「芸術」を、作品の出来不出来とは別の、ジャンルに付随する資格と考えている人が、世の中には一定数存在する。
「高級料亭で出される一品かと見紛う絶品のトッポギですね」
「君の絵はとても小学生とは思えないね。まるで大学生が描いたみたいに達者だよ」
「なんだよそのフェラーリから降り立った伊達男みたいなデカい衿は」
「すごいドリブルだねケンちゃん。まるで豊島区のメッシだ」
「おい、見てみろよ。サルバドール・ダリが描いたみたいな犬のクソだ」
紙数が尽きた。
ボブ・ディラン氏には、ぜひ授賞式に出席してほしい。
そして、とびっきりに不可解なスピーチを決めてほしい。
そうすれば、彼らも、芸術と認めてくれるかもしれないから。
今回は編集者のA藤さんに告知してもらいます。

全国のオダジマファンの皆様、お待たせいたしました。『超・反知性主義入門』以来約1年ぶりに、小田嶋さんの新刊『ザ、コラム』が晶文社より発売になります。
安倍政権の暴走ぶりについて大新聞の論壇面で取材を受けたりと、まっとうでリベラルな識者として引っ張り出されることが目立つ近年の小田嶋さんですが、良識派の人々が眉をひそめる不埒で危ないコラムにこそ小田嶋さん本来の持ち味がある、ということは長年のオダジマファンのみなさんならご存知のはず。
そんなヤバいコラムをもっと読みたい!という声にお応えして、小田嶋さんがこの約十年で書かれたコラムの中から「これは!」と思うものを発掘してもらい、一冊にまとめたのが本書です。リミッターをはずした小田嶋さんのダークサイドの魅力がたっぷり詰まったコラムの金字塔。なんの役にも立ちませんが、おもしろいことだけは請け合いの一冊。10月25発売ですのでよろしくお願いいたします。(晶文社編集部 A藤)
この記事はシリーズ「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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