われわれが想定する、「魅力的な中高年男性」のロールモデルは、「ナイスミドル」「モテ爺」「ちょい悪オヤジ」でもなんでも良いが、結局のところ、「権力を持っている年寄り」「カネを持っているオヤジ」というどうにも月並みな想定から一歩も外に出ることができずにいる。

 女性の場合、権力やカネがなくても、魅力的なご老人というのは、あれこれ想像できるし、実際そういう女性は世に溢れている。

 引き比べて、カネや権力や肩書を取っ払った生身の人間として、真に魅力のある爺さんは、びっくりするほど少ない。

 思うにこれは、個々の爺さんやおっさんたちの責任に帰するべき問題ではない。
 われわれが暮らしているこの日本の社会に、あらまほしき爺さんのロールモデルが用意されていないからこんなに悲惨な事態がもたらされているのだと、そういうふうに考えるべきだ。

 別の言い方をすれば、この問題は、
「どうして日本のおっさんはダメなのか」
 という問いとしてではなく、
「どうして日本の社会は男をダメにしてしまうのか」
 という問題として考えた方が建設的だということだ。

 より的を絞った言い方をするなら、
「日本の職業社会は、どうしてその成員を単能の部品として仕上げずにはおかないのか」
 という話にしても良い。

 実際、同年輩の男たちを遠くから眺めていてつくづく思うのは、若い頃はそれなりに面白かった連中が、トシを取るにつれて、順次つまらないおっさんに着地していることだ。

 単に、役職に馴れて横柄になったとか、偉くなって気難しくなっているというだけのお話ではない。

 50歳を過ぎた男のうちのおよそ半分は、自分の職場以外の世界を想像することさえしない、おそろしく視野の狭い人間になり果ててしまう。

「お前がさっきからしゃべってる話って、同じ業界の人間には面白いのかもしれないけど、オレには全然意味がわかんないんだけど」

 と口をはさみたくなる話を、私はこの10年でいくつ聞いたことだろう。
 とはいえ

「せめて業界外の人間に分かるように話せよ」

 と、アドバイスしたところで、おそらく、彼にはもはやそうする能力は残っていない。なぜなら、業界を外部の影響から守り、外部との通路を閉ざすことが、彼の主たる人生だったからだ。

 残酷なことを書いてしまった。
 今回ここに書いたことは、「個人の感想」に過ぎない。
 つまらないおっさんにならずにいる男が、たくさんいることもよくわかっている。
 だから、できれば、腹を立てないでもらいたい。

 私の知る限り、救いようのないおっさんの一番の特徴は、「他人の話を聞かない」ところにある。
 とすれば、ここまで読んだ読者は、少なくともダメなおっさんではない。
 めでたしめでたし。

(文・イラスト/小田嶋 隆)

そういえば、私も入院している間は
思いの外楽しかったなあ…。

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