その当時の大人たちが繰り返し強調していた

 「日清日露の戦役で勝利をおさめた日本は、世界ではじめて有色人種として帝国列強の列に加わった栄光の国だった」
 「大東亜戦争は、19世紀の帝国列強に対してアジアの新興国が蹶起したアジア解放の戦争であり、結果として敗れることになったものの、この壮挙に感謝しているアジア・アフリカ諸国は枚挙にいとまがない」

 といったタイプの負け惜しみの旧軍賛美の言説は、それでも、ある時期を境に急速に衰退した。

 なぜというに、戦争帰りの世代が、教育現場や政財界の責任ある立場から順次駆逐されるにつれて、軍国への郷愁もまた過去のものになったからだ。

 で、代わって、われら新しい戦後生まれの世代の脳内には、社会科の教科書や図書館の書物から得られる国際協調を旨とする世界地図が新たに展開されることとなった。

 実際、
 「日本は世界で唯一の有色人種が支配する先進国だ」
 式の昭和中期以前にはよく聞かされたおっさんの自慢話は、1980年代以降、少なくとも公の場所では、ほとんどまったく語られなくなっていた。

 飲み会の席みたいな場所で、
 「なにしろ、白人国家に伍して戦ってるのはオレら日本人だけだかだからな」
 てな調子で気勢をあげるおっさんも、私の世代から下の人間には現れなかった……と、私はすっかりそう思いこんでいたのだが、その、アナクロのおっさんが、どうやらよみがえっている。

 でもって、私は、いま、

 「日本は特別だ」
 「黄禍論を実力で吹き飛ばしたのは日本だけだ」
 「われわれは白人に負けていない」
 「日本人以外の有色人種はダメだ」

 という感じの、50年前に声のデカいおっさんたちから聞かされたどうにも古くさい妄言が、自分より若い世代の口から漏れ出るのを目撃している。

 なんということだろう。

 私は、昔から、なぜなのか、麻生さんには点が甘い。
 困ったところだらけの人であることはよくわかっているのだが、それでも人間としては、どうしてもきらいになれない。
 不思議なことだ。

 だから、麻生さんがああいうことを言うのは、もう仕方がないと思っている。
 ただ、麻生さんより若い人間には、自制と反省を求めたい。
 麻生無罪。
 唐突な断言に見えるかもしれないが、今回の結論はこれだ。
 麻生無罪。

 麻生さん以外のすべての日本人は、愚かな発言を控えて、堅実に生きてほしい。
 私も、麻生さんの年齢になるまでは、なんとか真面目に生きていこうと思っている。

(文・イラスト/小田嶋 隆)

私も戦記マンガと戦中派の祖父母に育てられたクチ。
他人を見下げる方向の言葉を聞いた記憶は……あったかなあ。

 小田嶋さんの新刊が久しぶりに出ています。本連載担当編集者も初耳の、抱腹絶倒かつ壮絶なエピソードが語られていて、嬉しいような、悔しいような。以下、版元ミシマ社さんからの紹介です。


 なぜ、オレだけが抜け出せたのか?
 30 代でアル中となり、医者に「50で人格崩壊、60で死にますよ」
 と宣告された著者が、酒をやめて20年以上が経った今、語る真実。
 なぜ人は、何かに依存するのか? 

上を向いてアルコール 「元アル中」コラムニストの告白

<< 目次>>
告白
一日目 アル中に理由なし
二日目 オレはアル中じゃない
三日目 そして金と人が去った
四日目 酒と創作
五日目 「五〇で人格崩壊、六〇で死ぬ」
六日目 飲まない生活
七日目 アル中予備軍たちへ
八日目 アルコール依存症に代わる新たな脅威
告白を終えて

 日本随一のコラムニストが自らの体験を初告白し、
 現代の新たな依存「コミュニケーション依存症」に警鐘を鳴らす!

(本の紹介はこちらから)