そもそも「ファースト」という分断ないしは差別待遇を示唆する言葉を「都民」なり「日本」なりという「総体」に対して使う用語法が、すでにして狂っているのであって、こういうスローガンを掲げた以上、運動の対偶として「非都民」なり「非日本人」なり「非国民」なり「反日分子」なりを持ち出さずにはおれなくなるはずなのだが、小池さんが、就任1年を経てあえてこの時期に、朝鮮人犠牲者への追悼を拒絶したのは、邪推すれば、「ファースト」という言葉がもたらした必然であるように見える。
とはいえ、私は、知事が、韓国人・朝鮮人に対して差別的な考えを抱いているとは思っていない。
ただ、憶測すればだが、小池都知事のコアな支持層の中に、知事が朝鮮人犠牲者を追悼することを喜ばない人たちが一定数いることは当選の経緯からしても大いに考えられることで、してみると、今回の決断が、その支持層の意を受けたものである可能性は否定できない。
トランプ大統領が、ここしばらく米国を揺るがしている人種対立の問題に関して、自らの有力な支持母体のひとつである白人至上主義団体への目配りから、果断な態度を示せずにいることと一脈通じる話かもしれない。
うまくまとまらないので、最後に、小池都知事の政治手法五動作を披露しておきます。
さ:策を弄する
し:品(しな)を作る
す:裾を掻く
せ:節を曲げる
そ:袖を払う
古くさい言葉が多いですね。辞書を引いてみてください。私も辞書を眺めながら考えました。お粗末。
(文・イラスト/小田嶋 隆)
小池さんの思う壺なんだろうなあ…とは思います。

当「ア・ピース・オブ・警句」出典の5冊目の単行本『超・反知性主義入門』。相も変わらず日本に漂う変な空気、閉塞感に辟易としている方に、「反知性主義」というバズワードの原典や、わが国での使われ方を(ニヤリとしながら)知りたい方に、新潮選書のヒット作『反知性主義』の、森本あんり先生との対談(新規追加2万字!)が読みたい方に、そして、オダジマさんの文章が好きな方に、縦書き化に伴う再編集をガリガリ行って、「本」らしい読み味に仕上げました。ぜひ、お手にとって、ご感想をお聞かせください。
記事掲載当初、本文中で「この『亡くなる』という言い方(語尾が『亡くなられる』となっているが)という動詞は」としていましたが、こちらを「この『亡くなる』という動詞(語尾が『亡くなられる』となっているが)は、自動詞で英語に直せば“died”に当たる。」に修正します。また、「具体的には、震災の犠牲者には、”murder”ないしは ”slaughter”という単語を使わなければならない。」を「具体的には、虐殺の犠牲者には、“murder”ないしは “slaughter”という単語を使わなければならない。」に修正します。本文は修正済みです [2017/09/01 9:20]
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