これからやってくるであろう五輪関連のゴタゴタにしても、おそらく、多数派の国民はそんなに苦にはしないはずだ。

 ボランティアの動員や、時差出勤の強要や、サマータイムの押し付けや、都内の交通渋滞や、ホテル不足といった様々な試練を、彼らは、むしろ楽しむに違いない。

 そして、何年かたった後、
 「あん時は大変だったなあ」
 と、笑顔で振り返るのだ。

 労役であれ負担であれ酷暑であれ不眠であれ、全員で担う試練は、うちの国では「共同体験」として美化される。

 結局のところ、軍隊経験でさえ戦友の間では懐かしい思い出として反芻され得るわけで、そういう意味で、五輪は、順調に泥沼化しつつある時点で、成功の道を歩みはじめているといえるのだ。

 われわれは、「これまでに経験したことのない新しいタイプのトラブル」を「みんなで心をひとつにして」「乗り切る」タイプの試練を、「夢」や「絆」といった言葉とともに神聖視している。

 五輪期間中の二週間は、目新しいイベントや、集団的な統一作業が好きなタイプの人々にとっては、ワクワクする体験になるはずだ。

 少なくとも、1カ月以上にわたってフォークダンスの練習を強要され、本番前の数日間は、居残りで通しのリハをやらされた経験を、600人が一斉に踊ったことで「達成感」として記憶できるタイプの人々にとっては、どんな試練であっても、結局は喜びとしてカウントされる。

 最後にサマータイムについて。

 朝日新聞が8月4、5日に実施し8月6日に発表した世論調査によれば、サマータイムの導入に53%が賛成している(反対は32%、その他・無回答が15%)。 

 私は、個人的には反対なのだが、なんだかんだで導入されてしまう気がしている。
 理由は、サマータイム導入に反対であっても、「みんなが一緒にやる」ことそのものには、賛成する気持ちを持っている人が多数派だと思うからだ。

 もう少し詳しく述べると
 「自分の賛否はともかく、みんながやろうとしていることなら自分は追随するよ」
 くらいな気持ちでいる人間が、日本人の大半を占めているということで、その人たちはいずれにせよ「大勢」に流されることを望んでいる。

 つまり、自分の見解や主張には強くこだわらない代わりに、決断の責任もとりたくないと考えている人間が最大多数だということだ。

 つまり、われわれは
 「みんなで一緒に失敗するのならそれはそれでそんなに悪いことじゃない」
 という形式でものを考えている。

 ちなみに、上記の朝日新聞のアンケートの質問項目は
《2020年の東京オリンピック・パラリンピックの暑さ対策についてうかがいます。大会組織委員会は、気温の低い早朝を有効に使うため、日本全体で夏の間だけ時計を2時間進める「サマータイム」の導入を提案しています。あなたはこの案に賛成ですか。反対ですか。》
 となっている。

 あからさまな誘導尋問だと思う。
 理由は、回答者に対して「気温の低い早朝を有効に使うため」などと、暑さ対策としてのサマータイムの利点だけを伝えて、デメリットについての情報を与えていないからだ。

 この質問だと、
 「まあ、この暑さだし、なんにも対策しないよりは、なんであれ、効果のありそうなことは試しても良いんじゃないかな」
 くらいな気分で、
 《賛成する》
 にマルをつける回答者がけっこう出るはずだ。
 その意味で、悪質な設問だと思う。