トランプ大統領の立場に立ってみれば、自国民が死なないことがわかっている戦争であるなら、始めることをためらう理由はそんなにない、ということなのかもしれない。

 もちろん、政治家によるこの種の発言は、はじめからブラフ(ハッタリ、脅し)を含んだものとして、割り引いて考えるべきなのあろうし、実際に戦争をするかどうかは別として、戦争の可能性を排除しない旨を明言しておくことが、外交上のアピールとして不可欠な手順なのですとかなんとか、過剰反応する素人の動揺っぷりに冷水を浴びせることが、そのスジの専門家の大切な仕事でもあるのだろう。

 その文脈からすれば、北朝鮮のミサイル実験とて、大きな意味では、ブラフに過ぎない。
 してみると、このお話は、はじめから最後まで茶番なのかもしれない。

 とはいえ、歴史の教えるところによれば、茶番劇が戦争を招いた事例はさほど珍しくない。

 「襟首をつかんでスゴんでみせてるだけで、どうせ本気でケンカをする気はないわけだ」
 「双方とも、引っ込みがつかなくなってイキってみせてるだけだわな」
 「まあ、アレだ。誰かが止めてくれるのを待ってるカタチだよ」

 という観察が、まったくその通りなのだとしても、状況が一触即発であることもまた事実ではあるわけで、とすれば、何かの拍子で一方の拳が相手のカラダのどこかに触れてしまったがさいご、乱闘が始まるであろうことも、無視できない可能性として考慮のうちに入れておかなければならない。

 私は、軍事情勢や軍事技術に明るい人間ではない。
 国際政治に精通しているわけでもない。
 ただ、金正恩氏の人物像と、トランプ氏の精神状態については、彼らが就任して以来、ずっと注意を払ってきたつもりでいる。

 その点から考えて、この2カ月ほどのやりとりに、なんだか非常にいやな感じを抱いている次第なのだ。

 以下、順を追って説明する。

 交通事故は、二人の下手くそが出会わないと起こらないと言われている。
 事故というものは、二人の稚拙な、ないしは不注意なドライバーが偶然同じ道の同じ場所を走っているからこそ発生するものであるわけで、道路を走るドライバーがヘタであっても愚かであっても、その下手くそが単独で下手くそである限りにおいて、典型的な自損事故はともかく、破滅的な事故はそうそう起こらない。

 これはおそらく国際政治においても同じことで、無茶なリーダーや、愚かな指導者が国を動かしているのだとしても、単独では戦争は起こらない。