にもかかわらず、安倍さんは謝らない。
 世界経済を持ち出したり、サミットのお仲間の威光を借りたりしつつ、さらには新しい判断などというダブルスピークじみた新語を発明してまで、強気の姿勢を保とうとしている。

 どうかしている……と思うのは、私の考えが浅いせいで、もしかしたら、安倍首相ご自身がそう考えているのであろう通り、21世紀の日本人のモードは、すでに決して謝罪しないリーダーに頼もしさを感じる段階に変質してしまっているのかもしれない。

 この2年ほど、安倍さんの態度やしゃべり方を見聞してきた結果としてつくづく感じるのは、自己肥大の結果なのか、演出上のキャラ付けなのかはともかくとして、いずれにせよ、言葉の調子が、いちじるしく断定的になっていることだ。

 この態度の変化が、単純に安倍首相ご自身の内心の変化を反映したものであるのなら、話はわかりやすいし、ある意味で対処もしやすい。

 しかし、首相の強気が、強気の態度を見せるほど支持率が上昇するメカニズムを理解した上での、確信に基づいた行動なのだとすると、話はやっかいだ。

 というのも、高い支持率に慢心した首相が自信過剰に陥っているのではなくて、われら一般国民が、強力で独裁的なリーダーを待望しているのだとすると、その心情につける薬は、おそらく存在しないからだ。

 今年の1月に亡くなったデビッド・ボウイが、ジョージ・オーウェルの「1984」に材をとって制作した、「ダイヤモンドの犬」(Diamond Dogs)というアルバムの中に、「ビッグブラザー」(Big Brother)という曲がある。

 近未来の独裁国家で暮らす民衆が強力な統治機構を歓迎する心情を歌ったものだ。
 もっとも、ここで言う「近未来の独裁国家」は、この曲を含むレコードが発売された1974年から見て、1984年が近未来だったという意味で、いまとなっては、どちらの年号も遠い過去になってしまっている。

 人間の性質と政治の本質は、ジョージ・オーウェルが原作小説を書いた1949年の時点から、そんなに変わっていないのかもしれない。
 「ビッグブラザー」のサビの部分の歌詞は、以下のように歌われている。

Someone to claim us, someone to follow
Someone to shame us, some brave apollo
Someone to fool us, someone like you
We want you big brother, big brother

強く主張する人 着いて行くべき誰か
われらをはずかしめる存在 勇者アポロの如き人物
われらを軽んじるあなたのような英雄
私たちは ビッグブラザー あなたを待望している

 安倍首相は、来る参院選を、消費増税延期の信を問う戦いである、というふうに位置づけている。
 結果次第では、私たちがビッグブラザーを待望していることを認めなければならないと思っている。

 国民の多数派が強いリーダーを求めているのだとしたら、それは、多くの国民が、自分たちが自分たちのリーダーである民主主義の設定の面倒くささを拒否しているということなのだから、その時は仕方がない。
 自分たちが自分たちの奴隷になる世界を受けいれるほかにどうしようもないのだろう。

(文・イラスト/小田嶋 隆)

そう言えば毎日使っているパソコンが、いつの間にか
勝手にOSごと更新される世界になってました…

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