家電量販店でも、店員が最も頻繁に遭遇する質問は、
 「どの製品が一番売れてますか?」
 だと言われている。

 つまり、われわれは、自分の生活にフィットした冷蔵庫や、自分の好みに合ったエアコンや、自身の可処分所得から買える範囲のタブレット端末よりも、なにより、「ほかのみんなが買い求めている一番無難な」製品を選ぼうとする国民なのである。

 これらの事実が指し示しているのは、われわれが、「同調的である人間」を「われわれ」の仲間であると感じ、「同調的でない人間」を、「彼ら」「あの人たち」「あいつら」「変な人たち」として分類し、その同調的でない彼らを、犯罪に加担したとしても不思議のない人間であると認識し、危険な匂いを嗅ぎ取り、「共謀罪」の捜査対象として差し支えない人物と考えるということだ。

 つまり、「われわれ」は、どんな場合でも、絶対に無事なのである。

 とすれば、自分たちとは違う考え方をしていて、自分たちとは異なった行動をとり、自分たちとは明らかに相容れないマナーで世間と対峙している一群の人々を、お国が、証拠の有無にかかわらず、テロなり犯罪なりの準備や共謀の可能性を根拠に捕縛したり捜査したり尾行したりすることは、むしろ治安のために望ましい措置だと、彼らが考えるのは至極当たり前ななりゆきではあるまいか。

 朝日新聞は、ここしばらく、様々な立場の人々の「共謀罪」への見解を紹介する企画記事を連載している。

 5月13日掲載分では
《反権力はかっこいいが 不肖・宮嶋、「共謀罪」を語る》(こちら
 という見出しで、写真家の宮嶋茂樹さんのインタビューを聞き書きの形で掲載している。

 記事の中で宮嶋さんは、

《「共謀罪」法案に賛成する》

 とした上で、その理由のひとつについて

《若い頃、大物右翼の赤尾敏氏(故人)を撮影した写真展を開いた。最初に会場に来たお客さんが「よう、宮嶋君。いい写真だね」と言う。公安刑事だった。身辺を洗われていると感じたが、別に悪いことはしていない。不肖・宮嶋、女の好みとか警察に知られたくない秘密はある。だけど、少しくらい監視されたって枕を高くして眠る方がいい。》 

 と説明している。

「少しぐらい監視される」
 のは、もちろん宮嶋さん自身ことを言っているのだと思うが、一方
「枕を高くして眠る」
 のも彼自身を指して言っているように読み取れる。つまり、宮嶋さんは、公安に少しぐらい監視されても、その程度のことで不眠に陥る不安を感じることは無いということなのだろう。で、彼としては、むしろ、「共謀罪」によって公安が自在に活躍できる環境が整ってテロリストを捕縛してくれることで、「枕を高くして」(つまり安心して)眠れるようになるのなら、その方がありがたい、とそう言っている。

 自分がうしろめたいことをやっていないのであれば捜査はされても立件されることはあり得ず、まして冤罪で有罪判決を受ける可能性は金輪際無いと信じ切っているからこそこういうことが言えるのだと思う。

 この点については、宮嶋さんがそう考えるのならそうなのだろうと受け止めるしかない。

 私自身は、「共謀罪」が施行されて仮に自分が公安に身辺を洗われることになった場合、到底枕を高くして眠る気持ちにはなれない。が、誰もが世界に対して私と同じ見解を抱くべきだということを言い張ろうとは思わない。

 ついでに申し上げるなら、宮嶋さんが、反権力の立場を明らかにしている人たちの態度を、「かっこいい」からそうしているかのように言っていることに、私は賛成できない。が、これもまあ、宮嶋さんの目にそう見えている以上、私がムキになって否定するようなことでもない。

 「お前がそう思うんならそうなんだろう。お前ん中ではな」
 という、定番のセリフで処理するのが穏当な態度だろう。