この局面でのこのジョークは、
 「オレは、全然参ってないよ」
 という意思表示に聞こえる。

 ふざけてみせることで自分の優位を印象づけるヤンキーに独特な行動形態のようでもあれば、なにかにつけて、語尾に「w」や「(笑)」を付加したがるツイッター論客の論争術のようでもある。

 いずれにせよ、この半月ほどメディアで話題になっている「忖度」というネガティブなワードを、あえて笑いを取るための言葉として使ってみせた態度は、ホームランを打たれた投手が帽子を取って打った打者に最敬礼した時みたいな強がりを感じさせて、なんだか鼻白む。

 安倍さんはどうやらマスコミを舐めてかかる段階に到達している。
 しかも、その態度は、思いのほか多くの国民に支持されている。

 このことは、別の言い方で言えば、われわれが他人をバカにする人間に頼もしさを感じる段階に立ち至っていることを意味している。

 19日の衆議院決算行政監視委員会での質疑では、こんな一幕があった。

《--略--首相「『そもそも』という言葉の意味について、山尾委員は『はじめから』という理解しかないと思っておられるかもしれませんが、『そもそも』という意味には、これは、辞書で調べてみますと…」

山尾氏:「調べたんですね」

首相:「念のために調べてみたんです。念のために調べてみたわけでありますが(笑)、これは『基本的に』という意味もあるということも、ぜひ知っておいていただきたいと。これは多くの方々はすでにご承知の通りだと思いますが、山尾委員は、もしかしたら、それ、ご存じなかったかもしれませんが、これはまさに『基本的に』ということであります。つまり、『基本的に犯罪を目的とする集団であるか、ないか』が、対象となるかならないかの違いであって。これは当たり前のことでありまして」--略--》

(出典はこちら

 以上は、産経新聞による書き起こしだが、ごらんの通り、言い合いに近いやりとりだ。

 個人的には、自分の使った言葉を辞書で引くという動作の異様さにあきれている。

 あらためて言うまでもないことだが、人間同士の対話は、互いにあらかじめ辞書を引くまでもなく知っている言葉をやりとりすることで成立しているものだ。

 知らない言葉を使ったら対話にならないし、辞書を引きながらの対話は、揚げ足の取り合いに過ぎない。

 特定の言葉について、対話の相手が間違った使い方をしていたり、誤解をしているように思えた場合に、辞書上の語義を持ち出して先方の誤解を正したり、言葉の使い方の間違いを指摘することはあり得る。しかしながら、自分が口にした言葉について、事後的に辞書を引くことは、普通、考えられない。

 自分の使った言葉について辞書を参照するのは、自分がその言葉の意味をよく知らずに使っていた場合か、でなければ、辞書に書いてある語義を足がかりに何らかの詭弁を弄しにかかる場合に限られる。