これほどまでにティピカルな官僚答弁に対して、同じようにティピカルな官僚批判の原稿を書いたら、こっちの文章が腐ってしまう。

 なので、ここは一番、お役人の行動形態を活写した文献として名高い「いぬしぐさ」の中から、該当しそうな項目を捜してみることにする。

 と、おお、「傘隠れ」というのがピッタリだ。以下に紹介する。

傘隠れ(かさがくれ)

所属機関の権威の傘の下におのれの存在を同一化し、批判に対して知らぬ顔を決め込む様子

 思うに、文科省のお役人にとって、「江戸しぐさ」が事実であろうがなかろうが、そんなことはどうでも良いのだろう。

 彼らにとって大切なのは、教材のネタとして採用されたエピソードの真偽ではなくて、それが教科書に載ることになった経緯であり、その経緯の背景にある力関係であり、その「江戸しぐさを教科書に押し込んだ勢力」が自分たちの地位と将来に及ぼすかもしれない不穏な影響力なのである。

 あるいは、もう少しわかりやすく言えば、「江戸しぐさ」がインチキであろうがウソであろうが、それを採用させるに至った勢力が死んでいない以上、文科省としては、「江戸しぐさ」を退場させるわけにはいかないということだ。なぜなら、彼らが奉仕しているのは、歴史の真実に対してではなくて、教育現場に対して影響力を行使する人々の威圧に対してだからだ。

 では、はじめから存在さえしていなかった偽史である「江戸しぐさ」を、道徳教材として文科省に売り込み、公共広告機構の名においてテレビ各局に配信される啓発PR広告のネタに推薦し、地下鉄のマナー広告に採用すべく運動したのは、いったいどのような「勢力」だったのであろうか。

 これについては、特定の人物の名前を挙げるよりは、より曖昧な言い方で、「日本の過去を美化しようとする風潮」を犯人として名指しした方が話の通りが良いだろう。

 ちなみに「江戸しぐさ」とワンセットで教育現場に推薦されることの多い「親学」(おやがく)の普及と推進を目指している「親学推進議員連盟」の会長は安倍晋三氏であり、「親学推進議連」のメンバーの多くは、「日本会議」ならびに「神道政治連盟」にも登録している。ということは……というこの順序でこのまま話を進めると、典型的な陰謀論が出来上がってしまってよろしくない。

  • なので、これ以上の言及は控える。
  • 腕の良いコラムニストは書かない。彼はただほのめかす。
  • 腕の良いコラムニストは、アタマの良い圧力団体と同じく行間で物を言う方法を知っているからだ。