であるから、たとえば、1995年のオウム事件では、新聞およびテレビの筋目の報道部門とは別に、ワイドショーのスタッフやスポーツ新聞の記者、総合週刊誌ならびに写真週刊誌の契約記者や取材記者が、同じ現場に群がるようにして取材する姿が常態化していた。

 もっとも、猟奇的な殺人事件や少年犯罪、芸能人の薬物事案、著名人の不倫や派手目の夫婦喧嘩に至るまで、各メディアが独自の取材人員を送り込んでいたこの時代は、一面、異様な時代でもあった。

 ワイドショーやスポーツ新聞の記者たちを中心としたメディアスクラムは、いたるところで報道被害をもたらしていたし、芸能記者の振る舞い方も、相応に強引かつ下品だった。

 弊害は弊害として、それでも、当時は、各メディアが自前の取材班と自前の予算を持っていた。
 だから、時にはテレビのワイドショースタッフが重大な発見をすることもあったし、オウム関連の一連の報道などでは、報道陣の撮り貯めていた膨大な量の録画データが、後々ものを言うようになるケースもあった。

 単純に良い悪いの話をすれば、現在の記者さんたちの方が、20世紀のメディアの人間と比べれば、はるかにマトモなマナーで取材に臨んでいると思う。

 ただ、2010年代以降の全般的な取材マナーの改善は、必ずしも記者個々人の人格の高潔さ、あるいは会社側のコンプライアンス重視の姿勢に由来するものではない。非道な記者や強引なレポーターの減少は、どちらかといえば、不況を反映したお話で、つまり、予算と人員の削減が、報道現場の取材圧力を低下させる結果を招いたということに過ぎない。

 いつの頃からなのか、テレビの情報番組は、スタジオにデカいパネルを持ち込んで、そのパネルにそのまま拡大コピーしたスポーツ新聞の紙面を配置するようになった。で、キャスターなりレポーターなりが、あらかじめスタッフがパネル上の新聞に貼っておいた紙を剥がしながら事件を伝えていくスタイルが、すっかり定着している。

 この紙芝居メソッドの事件報道スタイルは、たぶん、2000年代のはじめにどこかの局の朝ワイドがはじめた手法で、それが、またたく間に地上波全局に波及し、現在では、NHKでも採用されている。