テレビの情報番組などでコメンテーターとして活躍していた男性が、経歴を詐称していたということで、ちょっとした騒ぎになっている。

 この2日ほどのうちにいくつかのメディアが報道した内容を総合してみるに、件の人物の詐称はなかなか念が入っている。最初の学歴からはじまって、留学経験、MBA資格から、経営コンサルタントとしての業務実態、年商、オフィスの住所、本名、出自に至るまでの一通りの要素が「ウソ」であったことが既に明らかになっており、「イケメン」として厚遇される理由になっていた顔も、美容整形の結果である可能性が濃厚なのだという。

 この結果に世間が驚いているのかというと、もちろん驚いている人たちもたくさんいるのだが、ネット内の評判では

「そんな気がしていた」

 という声が、意外なほど大きい。

「最初からあやしいと思っていた」
「一目見てうさんくさいヤツだと確信していた」
「あの鼻はなにごとだと常々不審に感じていました」

 と、彼らは異口同音に、当該の人物について、以前から不審を感じていた旨を訴えている。

 無論、大方の事実が判明してから後乗りで自らの慧眼をアピールしにかかっている人たちもいるはずだ。
 そうでなくても、私たちは、おしなべて、そうなってしまってからそんな気がしていたような気持ちを抱きがちな傾きを備えているものだ。

 とはいえ、実際に

「ほら、2年前にオレは《うさんくさい》と書いてるぞ」
「オレなんか震災前から一貫して何回も《インチキくさい》と繰り返しアピールしている」

 と、目に見える証拠を提示した上で彼の人物への疑惑を語っている人々の例も少なくない。

 いずれにせよ、話題の彼が、ずいぶん前から、かなり広範囲の人々に、そこはかとなく怪しまれていたことは事実であるようだ。

 私自身は、なんとなく奇妙な印象を抱いてはいたものの、「怪しい」とまでは思っていなかった。
 というよりも、絵に描いたようなイケメンに偏見を抱きがちな自分の偏狭さをいましめていたりした。
 まして、経歴詐称を疑うところまではまったく踏み込めていなかった。
 まあ、人間を見る目がなかったということなのだと思う。無念だ。

 ずいぶん前に、人間についてではないが、食品偽装に関連して、「フェイク(偽物)はフォニー(インチキ)の周辺に発生する」という主旨の原稿を書いたことがある。フェイク商品(贋造品)が発生するのは、そもそも真似をされる側のブツがインチキくさいからだ、という、ちょっと乱暴なお話だ。

 松阪牛や関サバに偽装食品が発生するのは、オリジナルとされている食品の値段が、その品質に比して、不当に高価だからだ(と私は思っている)。
 適正な価格で販売されている良心的な商品にフェイクは発生しない。

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この記事はシリーズ「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。