働き方改革と呼ばれている一連の施策が、実際にはシバキ上げ改革であり、裁量労働制の実態が「賃金固定制」ないしは「残業手当廃止制度」であるのだとしても、はじめから脳内俺様劇場において自分を勝ち組の側に固定してしまっている経営者目線の国民たちは、まさか自分が労働の成果を搾取される側の人間であるとは思いもよらぬがゆえに、いそいそと支持にまわる。

 ……というのはあまりに馬鹿げた想定だが、あまりに馬鹿げているがゆえにかえってありそうに思える話でもあると思うのだがどうだろうか。

 司令官として腕を振るうシミュレーションでしか戦争を考えたことのないアタマでっかちのオタクが、一兵卒として泥水の中で飢えて死ぬ自らの近未来像を想定しないように、働き方改革をなんとなく支持する国民も、自分が最低賃金すれすれの報酬でひと月のうちの28日を非正規労働者としてのたうちまわる未来が訪れる可能性についてはまったく無頓着だ。

 先週にも触れた日曜日の民放のバラエティー番組で、今度は、MC役の松本人志氏がネットカフェ難民について

 「働いてほしい」

 という発言をして話題になっている。

-略- 番組では、ネットカフェ難民が就労先を探すも住所がないことが支障になり悪循環に陥っているという現状を伝えたが、松本は「わからんようにちょっとずつ(部屋を)狭くしたったらどう?」と珍案を提示。出演者たちは笑いながら「追い出す話じゃないですよ」「その人たちが出ていった時に行かれるところを作らなきゃいけない」と諭したが、松本は「なんかみんな優しいなぁ、話を聞いてると。俺は若干、イライラしてきてる」と反論。「(ネットカフェ難民に)ちゃんと働いてほしいから」と自身の考えを説明した。  -略-

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 つまり、ネットカフェみたいなそこそこに居心地の良い環境に甘えられる現状が、必死で職探しをしない生き方を続けさせてしまっている、という見方なのだろう。

 自分では愛のムチのつもりで言っているのだと思う。
 よくある無知のムチというやつだ。
 人には個々の事情があるという、そこのところに想像が及ばないのだろう。

 「甘えるな」の一言で問題が解決するのなら、それこそ政府などはじめから必要ないし、社会保障もハローワークもいらないことになるってなあたりのあれこれについても、マトモに考えたことがないのだろう。

 松本氏の発言は、お笑い芸人によるウケ狙いの逆張りだということで大目に見るのだとして、個人的には、むしろ、上記の日刊スポーツの記事で引用されている社会学者の古市憲寿氏の言葉に大きな問題を感じている。

-略-  社会学者の古市憲寿氏は「30代で夢を追うためにネットカフェって別にいいと思うんですよ、自分の人生だし」と理解を示す一方で、40~50代のネットカフェ難民も増えていることについて「昔はフリーターってイメージ的に若者が多かったじゃないですか。でも昔フリーターだった人が今どんどん高齢化していて40代、50代になりつつある。だから、それで一生いいの? っていう話はある。まだ健康なうちはいいけど、50代、60代で体の健康とかも悪くなって病気になったりとか、親が介護になったり死んだりとかって場合にどうするのっていう問題。フリーターの高齢化みたいな問題で考えると悩ましい」と語った。 -略-

 そりゃたしかに、ネットカフェに一夜の宿を求めながら、ロケンローラーの夢を追っている青年がいないとは言わないし、吟遊詩人やダンサーやユーチューバーになりたくて、あえて正社員での採用を蹴飛ばして不安定な非正規の仕事で糊口をしのいでいる野心あふれる愛と青春の旅立ちなヤングピーポーだって、探せば見つからないこともないのだろう。

 だが、大多数のネットカフェ難民は、夢だとかポエムだとかいったそういうふわふわした言葉とはまるで無縁な暮らしの中で、余儀なく住所不定の日常に追い込まれているはずなのだ。40~50代のフリーターに対しても、古市氏は「それで一生いいの?」とかいうお気楽な質問をカマしてしまっているが、50ヅラ下げたフリーター本人が自分で自分の生活についてそれでいいと思いつつ夢を追うオレの人生ってセツナウツクシイとかなんとか、そんなことを考えてるはずがないではないか。