今国会は「働き方改革国会」と位置づけられているのだそうで、なるほど、進行中の国会審議では、働き方改革関連法案をめぐる議論が行ったり来たりしている。

 現今の主たる争点は、政府がこれまで裁量労働制で働く人の労働時間について「一般労働者より短いデータもある」としていた国会答弁を、安倍晋三首相が撤回したところだ(こちら)。

 この問題を、時事通信は「データ誤用」という言葉を使って記事化している(こちら)。

 「データ誤用」の具体的な中身は、日刊ゲンダイのまとめではこのとおりだ。

-略- 同省(厚労省)は19日、根拠としたデータ(2013年度労働時間等総合実態調査)を精査した結果を公表。それによると、一般労働者の残業時間については、1カ月のうち「最も長い日」のデータに法定労働時間の8時間を単純に加えて1日の労働時間を算出した一方、裁量労働制は通常の1日の労働時間を用いて比較していたという。(ソースはこちら

 ということだ。つまり、二つの働き方を比べるにあたって、それぞれ前提の違うデータを持ち出して比較していたことになる。これは、悪意を疑われても仕方のないところだろう。

 日刊ゲンダイの記事はさらに、

-略- 塩崎恭久前厚労相は2015年7月の衆院厚労委、17年2月の衆院予算委でそれぞれ、〈厚生労働省自身の調査によりますと、裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べますと一般労働者よりも短いというデータもございまして、例えば一般の平均的な方が9時間37分働いていらっしゃいますが、企画業務型の裁量労働制の方は9時間16分ということで、約20分短いというデータもございます〉と答弁していた。 -略-

 と、3年前の国会審議から、一貫して同じデータが引用されていた点を指摘している。

 ともあれ、3年間にわたって引用され、議論の基礎となってきたデータ自体が「捏造」とは言わないまでも、明らかな「誤用」ではあったわけで、とすると、これまで積み上げてきた議論の前提自体が崩れてしまう事態は避けられない。

 前述のリンクにある日刊ゲンダイの記事では、

《-略- 野党6党が国会内で開いた合同会議では、厚労省の担当者が「異なるやり方で選んだ数値を比較したことは、不適切だった」と頭を下げた。 -略-》

 ことになっているが、これはアタマを下げればそれで済む問題ではない。

 ベースとなる説明のデータが「誤用」だったことがはっきりした以上、法案そのものをリセットするか、審議をゼロに戻すか、でなければ、今国会での法案の成立そのものを断念するのがスジだ。

 しかし、たぶんそんなことにはならない。
 法案は、間違いなく成立する。
 私はそう確信している。

 私が法案の成立を確信する理由は、表向きには、与党勢力が衆参両院においてともに過半数を超える議席を確保しているからなのだが、私の内心を圧迫している理由は、実は、それだけではない。

 個人的には、目先の議席数の多寡よりも、そっちの理由の方が本質的だと考えている。
 今回は、その話をする。

 私がなんとなく観察している範囲では、国会の議席数とは別に、世論は、政府の働き方改革の内容、というより気分を、大筋において支持している。

 気分というのは、働き方改革を働き方改革ならしめている設計思想の部分というのか、「日本の企業の収益力を高めるためには、労働者にある程度泣いてもらわなければならない」といった感じの、「割り切り」ないしは「切り捨て」の部分に、思いのほか広範な支持が集まっているように見える、ということだ。