こうなると、曹植派は、ひとつの派閥というのか、一大勢力を形成せずにおかない。

 曹丕としては、もともと曹植の才を妬む気持ちを抱いていたところへ持ってきて、その曹植が現実に自分の権力継承を妨げる異分子として存在感を増してきたわけだから、当然、これを取り除かなければ自分の安全も無いという気持ちになる。

 で、ある日、曹丕は曹植を捕らえる。
 そして、彼の詩作が部下による代作である旨の疑惑を突きつけ、七歩歩くうちに詩を作らなければ死刑にするという無茶な裁定を下す。

 これに対して、曹植がその場で作った即興の詩が、名高い七歩の詩だ。

煮豆燃豆萁
豆在釜中泣
本是同根生
相煎何太急

 というのがその名高い「七歩の詩」(「しちほのし」と読むのだそうです)で、書き下しは以下のようになる。

豆を煮る豆の豆がらを燃く
豆は釜中にあって泣く
本是同根より生ずるを
相煎るなんぞはなはだ急なる

 現代語訳については、「七歩の詩」で検索してみてください。
 ちなみに、三国志の中では、この詩のみごとさに涙を流した曹丕は、曹植を殺めることを断念したということになっている。

 曹植は、詩の中で、異母兄弟である自分と曹丕を豆と豆がらにたとえて、豆を煮るのにその火種として豆がらを燃やすことの悲しさをうたっている。

 実話なのだとしたら、見事な機転だと思う。
 実話でないのだとしても、詩は、寓話で語られるにふさわしい兄弟の相克を見事に象徴している。

 いずれにせよ、王朝において、兄弟は殺し合うことになっていたわけだ。
 映画「ゴッドファーザー」シリーズの中にもよく似たエピソードがある。

 「ゴッドファーザー パート2」の中で、マフィアであるコルレオーネファミリーのドンの座に就いた、三男のマイケルは、ラスベガスのマフィアと通じて組織を裏切った次男のフレドを殺害する。