ともあれ、落とした指輪のために沼に飛び込む人間を遠巻きに見物して笑うかのようなその彼らの典型的な発言例を何十となくリロードするうちに、私は、自分が損をしたわけでもないのに、ひどく侮辱された気分になっていた次第だ。

 あるスジから得た情報によると、今回のコインチェックの騒動では、かなりの数の芸能人が痛い目を見ているのだそうだ。

 なんとなれば、とりあえずの日銭をふんだんに持っている半面、中長期的な将来に不安を抱くことの多いタレントや芸人の皆さんは、手持ちの現金を将来に向けた資産に変換するべく、投資先の探索には常にただならぬ関心を抱いている人々でもあるからだ。

 彼らの気持は、私にも半分ぐらいはわかる。
 私自身は、売れっ子の芸能人みたいに現金をふんだんに持っているわけではないが、将来の保証が無い点では似たようなものだし、なによりわれら自由業者はローンが組めない点で同じ集合に属する人々だからだ。

 じっさい、似たような業界の同じような立場の人間が集まると、話題はいつしかローンの話になる。これは、何十年も前からの定番の展開だ。

 「お住いは賃貸ですか?」
 「いえ、5年前にマンションを買いました」
 「えっ? ローン組めたんですか?」
 「あ、それですか。私の名前では当然ローンは無理なんで、そこは母親の名義で……」

 といったような話を何度繰り返したことだろうか。
 上記のモデルケースについて、どういうお話なのか解説しておく。

 これは、たとえば、フリーランスでカメラマンをやっている30代妻子ありのA氏より、生命保険の外務員をやっている60過ぎの母親の方が長期ローンで住宅資金を借りる名前としては有効でしたという典型的なエピソードで、つまるところ、うちの国は、そのときどきの瞬間風速としての年収よりも、ローンの借り手がしかるべき会社に所属しているかどうかがものを言う社会だ、ということだ。

 結局のところ、信用は常に「人」にではなく「会社」に紐付いた概念として自由業者の前を通り過ぎて行く。わたしたちは、このことに、日々直面し、腹を立て、あるいはふて寝している。

 取材の現場でも似たようなことが起こる。
 たとえば、私のようなフリーの立場の人間が、取材先の企業の広報なりに電話して面会の予約なりを申し込むとする。

 と、必ずや、
 「どちらのオダジマさんでしょうか?」
 という質問が返ってくる仕様になっている。

 ここで、
 「天下の素浪人オダジマとはオレのことだ」
 などとリキんでみせたところで、何がどうなるものでもない。
 先方の若手社員さんを困惑させるだけだ。