「なんだよこのシェフのきまぐれパスタって、気まぐれで2000円とかバカにしてんのか?」
「いいから文句言わずに食えよ」
「そうだよ。店に入る前ならいざしらず、もう席についちゃってるんだから、食事を楽しめよ」
「お前が不満なのはお前の勝手だけど、お前の言い草を聞いてるとオレのメシがマズくなる」
「お前はアレだな。文化祭は出席取るのかって質問してた頃から成長してないな」

 つまり、明らかにおかしいことがあっても、「おかしい」と口に出して言う人間は、共同体の空気をかき乱す存在として、煙たがられるわけなのである。

 この夏が終わる頃、私たちは、組織委員会の人間の口から、中間段階の五輪関連予算の見積額として冗談みたいな数字を聞かされることになる。で、私たちはそれを受け容れる。しかも、末っ子のやんちゃ坊主にゲームソフトをねだられたクリスマス前の甘いパパみたいに嬉々として、だ。必ずそうなる。賭けても良い。

 もちろん、新聞もテレビもたいして騒がない。

「良いオリンピックにすることで、はみ出した分の予算を取り返そうじゃありませんか」
 とかなんとか、どうせアタマの良いキャスターがそういうことを言うのだ。
 で、われわれは、その言葉に感動して拍手をする。
 そのわれわれの熱狂ぶりを、テレビと新聞と広告代理店とスポーツ庁のお役人たちが金メダルと同じ色の目で見守っている。
 なんとまあ、大したゲームであることか。

 蒸し返した料理がマズいのは分かりきっている。
 だが、大抵の場合、それはそもそもの料理がマズいからだ。
 マズい物は、やっぱりマズいと言うべきだ。

(文・イラスト/小田嶋 隆)

おいしくない料理の調味料は空腹感…。
あ、家ではなんでもおいしくいただきます。

 当「ア・ピース・オブ・警句」出典の5冊目の単行本『超・反知性主義入門』。おかげさまで各書店様にて大きく扱っていただいております。日本に漂う変な空気、閉塞感に辟易としている方に、「反知性主義」というバズワードの原典や、わが国での使われ方を(ニヤリとしながら)知りたい方に、新潮選書のヒット作『反知性主義』の、森本あんり先生との対談(新規追加2万字!)が読みたい方に、そして、オダジマさんの文章が好きな方に、縦書き化に伴う再編集をガリガリ行って、「本」らしい読み味に仕上げました。ぜひ、お手にとって、ご感想をお聞かせください。

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